008 戸倉圭史の相談(2)
ダンボールの中から救出し、手足の縄を解いて猿ぐつわも取ってあげると、緊縛少女は相当苦しかったのか息を荒くしながらも深呼吸を始めた。
そして一段落つくと、花のような笑顔で私に向かって深々と頭を下げてきた。
「この度はありがとうなの。本当に助かったの。死んじゃうかと思ったの……」
「いえいえ、どういたしまして。……って、どうしてあんなところに入れられてたのかな?」
「知らないの。家に帰ったら急にお兄ちゃんに襲われて、あっという間に縛り上げられてあそこに入れられたの……」
「は、犯人はお兄ちゃん!? ちなみに、そのお兄ちゃんっていうのは戸倉圭史くんのことかな?」
「そうなのそうなの。私は戸倉舞華、九歳なの。圭史お兄ちゃんの妹なの」
とりあえずこの箱に入っていた少女が戸倉くんの身内だということがわかって安心した。
いや、決して身内なら縛り上げて箱詰めにして良いというわけではないのだけれど、もし他人だったら軽く法律に触れてしまうような気がするし……。
しかし、どうしてまたこんなことになっていたのだろう。
好きな子と家で二人きりになりたかったから妹が邪魔だったと考えるのはまだ理解できるのだが、だからといって普通はここまで手荒な方法で追い出したりはしないと思うのだが。
何か理由でもあるのだろうか。
「……はっ。こんなことをしている場合じゃないの。急いで帰らなきゃいけないの!」
「えっ、ああ、まあここ中学校だし、早く帰ったほうが良いとは思うけど……」
「中学校かどうかなんてどうでもいいの! それよりも一大事なの! 箱の中で聞いてたの、今日はお兄ちゃんがうちに女の子を連れ込むらしいの! これは放っておけないの!」
「あ、聞いてたんだ……。でも帰るなっていうわけじゃないけどさ、きっとお兄ちゃんはその女の子と二人きりになってたいんじゃないかな? だからもう少しだけここにいても――」
「そんなことはわかってるの。というか、わかってるからこそ帰らなきゃと言っているの」
「うん……? どういうことかな?」
もしかして「私のお兄ちゃんを取らないで!」みたいなかわいいことを言いにいくつもりなのだろうか……などと考えていた私だったのだが、その予想は大きく外れることとなる。
「お兄ちゃんにコレを渡さなきゃいけないの。男として最低限のエチケットは守るべきなの」
……そう言って舞華ちゃんがスカートのポケットから取り出したのは、どこからどう見ても男性用避妊具のようにしか見えませんでした。