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とある離島の保健室  作者: なる。
一学期
8/29

007 戸倉圭史の相談(1)



 「助けてくれ先生ー!」



 私が日誌を書いていると、突然一人の男子生徒が血相を変えて保健室に飛び込んできた。


 この背の高いツンツン頭は確か――二年生の戸倉圭史とぐらけいしくんだ。

 瑞羽島中学水泳部のエースで、全国で通用するレベルの選手だということで島の新聞でも取り上げられていたからはっきりと覚えている。それに、その甘いマスクと陽気な性格のおかげか女子からの人気も高いようで、「戸倉くんが好きなんですけど……」などという恋愛相談を何件も受けたせいもあるかもしれない。


 何はともあれいったいどうしたのかと訊こうとした私だったが、それよりも先に気になる光景があった。


 保健室に飛び込んできた戸倉くんは何故か直径一メートルくらいの大きな正方形のダンボール箱を抱えていたのだ。

 それを重たそうによろよろとしながら保健室の隅にまで持っていったかと思うと、ゆっくりと床に下ろして「ぅおっしゃー!」とガッツポーズをとった。


 私にはそんな戸倉くんの行動の意味はまったくわからなかったが、本人は一仕事を終えた職人のような清々しい表情をして爽やかに息を吐いている。



 「ふー……これで良し。ありがとう鳴神先生! この恩は絶対に忘れないから!」


 「……へ? え、あの、ちょっと戸倉くん? 恩っていうか……あの箱何!?」


 「え、ああ、説明するの忘れてた。先生、ちょっとあの箱預かっててくれないっすか?」


 「あ、預かる? それは別に構わないけど……中身は? っていうか一応事情を説明してほしいかな……」


 「あー、んーと、中身に関しては触れないで欲しいんだ。とりあえず、『今日は好きな子を家に招待してる』って言えば察してもらえるんじゃないかなーと……」



 視線をきょろきょろと泳がせながらそんな説明をする戸倉くん。


 ははーん……?

 つまり部屋にあった好きな子に見られたくないもの――えっちな本とかを匿っておいてほしいということなのだろう。

 それを教師で、しかも女である私に預かれというのは間違っているような気もするのだけれど……私は恋する少年少女の味方だ。

 多少のことなら目をつぶっておいてあげよう!



 「うん、よし、わかったよ! 今回は特別に預かっておいてあげるから、頑張っておいで!」


 「え、マジで!? 良いの!? 本当に!?」


 「良いよ。ただし、用事が済んだらすぐに取りにくるんだよ?」


 「わかってるって! ありがとう先生! 今度絶対お礼するから! んじゃ、そろそろ時間だからこれで!」



 そう言い残して、戸倉くんは入ってきたときと同じように勢い良く保健室の外へと飛び出して行った。

 好きな子が家に来るということが余程嬉しくてはしゃいでいるのだろう……。

 かわいいものだ。



 「……さて、と」


 

 保健室の扉を閉じた後、私は戸倉くんが置いていったダンボール箱の前に立った。


 箱の中身については触れないで欲しいとは言っていたけれど、一応何が入っているかくらいは確認しておかなければ。

 ……いや、その、決して私が興味があるとかそういうわけではなく、単純に教育上良くないものが混じっていないかどうかをチェックしておくべきだと思うわけで。

 保健室で預かっておくにしても中身次第では置き場所も考えなければいけないし。

 その他諸々の理由で中身を見ておくべきだと思うんだ!



 「――というわけでパカっとな」



 自分の行動を正当化し終えたところで、私はガムテープで閉じられていたダンボール箱のフタを開いた。


 はたして、そこに詰められていたものとは――



 「……むー! むーむーむー!」



 ……両手両足を縛られ、猿ぐつわを噛まされた小学生らしき女の子が入っていました。




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