表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある離島の保健室  作者: なる。
夏休み
28/29

027 鳴神なるの夏休み(3)



 「うわー、やっぱここって海キレイねー! ほらなるちゃん、早く早くー!」


 「ちょ、ちょっと待ってよー!」



 私と姉は水着に着替えた後、瑞羽島の海水浴場へと足を運んでいた。

 まあ海水浴場とはいってもライフセーバーがいるわけでも海の家があるわけでもなく、ただただ一面に白い砂浜が広がっているだけの場所なのだが、一般的に遊泳を許可されているのはここだけなのでそれなりに多くの島民たちで賑わっている。

 だというのに、姉はまるで子供のように両手を振り上げて海へと向かい猛ダッシュ。そんな大人気ない行動はもとより、普段着ですら目立つボディラインが布地の少ない黒のビキニで惜しみなく露出されているせいか、物凄い勢いで周囲の視線を集めてしまっている。恐らく久々に海に来てテンションが上がってしまっているのだろうが、身内としてこれほど恥ずかしいことはない。私は若干の距離をおきつつ、パラソルとクーラーボックスを抱えて必死に追いかける。


 追いかけながら、私は考える。

 詳しい話を聞く暇もなく、姉のペースに巻き込まれて海まで来てしまったが……先程の姉のセリフはいったいどういう意味なのだろうか。

 東京で姉が勤めていた病院はかなり大きな規模の病院で、給料も他より高いと聞いていた。そんな恵まれた職場を捨てて瑞羽島で働くことにした、だなんて通常は考えられないことだ。

 いやまあ、確かに姉は昔から何をするかよくわからない人だったけど、頭が良い人だから自分にとってマイナスになるようなことはしないと思っていたのだが……。本当に、どういうつもりなのかがまったくわからない。



 「……おーい、なるちゃーん? どったのさ、そんな難しい顔してー」



 いつの間にか戻ってきていたらしい姉が私を覗き込んでいた。

 その表情は相変わらず喜と楽に満ちていて、心配するのが馬鹿らしくなってしまう。

 とりあえず……この話は帰ってからすることにして、今はちゃんと海水浴に付き合ってあげることにしよう。



 「ううん、ごめんなんでもないよ。それよりお姉ちゃん、荷物どこに置こっか?」


 「んー、結構人多いからわかりやすいとこがいいねー。何か目印になりそうなものなーい?」


 「って言われても……パラソルの柄もみんな同じような感じだし、難しいよ」


 「まあそれもそっか。でも安心してなるちゃん。こんなこともあろうかと思って、なるちゃんの部屋から目印になりそうなもの持ってきたから!」


 「……え。何持ってきたの……?」


 「タンスに入ってたパンツ全部」


 「よりにもよってなんてものを!?」


 「敷き詰めればビニールシート代わりにもなるじゃん?」


 「ならないよ!?」


 「ところでなるちゃん、どうして若干透け透け気味のものがあるの? これどこに履いていく気なのかなー?」


 「あああああああああああああ! こんなところでそんなもの出さないでええええええええええ!」



 バッグからブツを取り出して高々と掲げる姉と、必死にそれを取り返そうとする私。二十代の姉妹にあるまじき、小学生同士のイタズラのようなやりとりが繰り広げられていた。

 しかも姉が無駄に美人なために、否応なく視線が集まってくる。つまり私の下着もたくさんの視線に晒されているというわけだ。羞恥プレイどころか拷問に近い。


 うぅ……誰か助けて。

 誰でもいいし、どんな方法でもいいから、どうか私をこの状況から救ってください――!


 ――そんな私の願いが通じたのだろうか、突如起こった一陣の風が砂浜を吹きぬけた。

 その風は姉の手から私の下着を掬い取り、ふわふわと宙を漂わせる。

 ありがとう、風! 助かったよ、風! 愛してるよ、風!

 そう心の中で叫びつつ、飛び去っていく下着を必死に追いかける私。


 だが――ひらひらと舞い落ちてきた私の下着は、姉の手の中よりも最悪な場所に着地してしまっていた。



 「……ン? 何でショウ、頭の上ニ何か落ちテキタ……ってコレはパンティー!? 空からパンティーが降っテきまシタヨ!? 日本はミラクルに満ちてマスネ!」



 ……私の下着を高々と掲げて太陽に透かし、飛び跳ねて喜んでいるリックス・オルソンくんの姿がありました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ