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とある離島の保健室  作者: なる。
一学期
20/29

019 瀬庭秋治の相談(1)



 「瀬庭せば……? 瀬庭ではありませんか! いったいどうしてこんなところにいるの?」



 突如保健室に乱入して来た執事風の男を変質者だと断定した私は、当然の対応として即刻追い出そうと試みた。

 しかし椿ちゃんがその闖入者を目にした途端、驚いたような声で知り合い発言をしたのだ。


 椿ちゃんに認識されたことで調子付いたのか、執事風の男は憤怒に染まっていた表情を一瞬の内に眩い笑顔へと変貌させ、椿ちゃんの前に立ち塞がるようにして立っていた私を押しのけるとその場に跪いた。



 「お久しぶりです椿様。椿様がお屋敷を出ると同時に私も即解雇となりましたが、一日だって椿様のことを考えない日はございませんでした。その想いが募りに募り、気がつけば予め椿様の財布に仕込んであった発信機の情報を辿ってここまで来てしまいました……」



 でもやっぱり言ってることは変だった。

 というかストーカーじみていた。


 こんな人と知り合いで大丈夫なの椿ちゃん!?

 


 「……椿ちゃん、この人は?」


 「彼は瀬庭といいます。春宮家に仕えていた使用人の一人ですわ」



 椿ちゃんが丁寧に紹介してくれると、変質者もとい瀬庭さんはそれに合わせて恭しく頭を下げた。

 その所作は全体的に無駄がなく完璧で、とてもじゃないが彼の言動からは考えられないものだった。

 執事服に身を包んでいるせいもあるのか、流石といった印象を受ける。



 「先程は見苦しい姿をお見せしてしまって大変申し訳ございませんでした。春宮家に仕えさせていただいておりました、瀬庭スチャンと申します。以後お見知りおきを」


 「あ、はいよろしく――ってスチャン!? え、下の名前スチャンなの!?」


 「はっ。そんなわけないでしょう常識的に考えて」


 「鼻で笑われた!?」


 「(笑)」


 「より酷くなったよ!?」


 「まったく、騒がしい人ですね。これだから田舎暮らしの腐れビッチは……。その程度の教養しかないからパチンコの看板を目にした時についついパの部分を視界から外して見てしまうんですよ」


 「何その謂れのない中傷!?」


 「ちなみに私は桜でんぶと聞くと興奮します」


 「意味わかんないよ!?」



 瀬庭さんの言っていることは相変わらず謎だったが、いつの間にか再び睨みつけてきていたので私に対して明瞭な敵意を抱いているということだけは確かだ。

 しかしたった今出会ったばかりだというのに、いったいどうしてそんな感情を抱かれなくてはならないのだろう……。


 そんな私たちのやり取りを冷めた表情で眺めていた椿ちゃんだったが、呆れたようにため息を吐いて私と瀬庭さんの間に入ってきた。

 もしかして助け舟でも出してくれるのだろうか。



 「瀬庭、桜でんぶなどと口に出すのはやめなさい! 食べたくなってしまうでしょう!?」



 助け舟は遭難船だった。



 「も、申し訳ございません椿様っ! ……キッ!」


 「いやそんな『お前のせいで怒られた!』みたいな目で睨まれても……」



 しかも瀬庭さんの私に対する憎悪を三割増くらいにする効果付きだった。

 嫌過ぎる。


 なんだかこのまま会話を続けても同じような流れになるような気がするし、いっそのこと率直に訊いてみるべきだろうか。



 「……ねえ瀬庭さん、さっきから私の何がそんなに気に食わないの? もしかして私が椿ちゃんを抱き締めちゃってたことがいけなかったの?」


 「いえ、そんな小さなことではありません」


 「じゃあ何なのさ」


 「小さいのはあなたの身長とバストです」


 「大きなお世話だよ! ていうか関係ないでしょ!?」


 「そして私の心の器も小さいです」


 「だろうねえ!」


 「つまりそういうことですよ」


 「わかるかぁ!」



 ……人間と話している気がしません。



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