013 リックス・オルソンの相談(1)
時間でいえば午前九時半頃。
時間割で言えば一時間目の休み時間頃だろうか。
今月の保健室便りでも書こうかと思い、ノートパソコンを立ち上げようとしたところで保健室の扉がノックされた。
放課後でもないのに誰かが来るなんて珍しいと思いながらも扉を開けると、ふらふらとした足取りで金髪碧眼の生徒が入ってきた。
名前はリックス・オルソンくん。
瑞羽中学唯一の留学生だ。
「ミス鳴神、お願いしマス、ちょっと休ませてクダサイ」
「どうしたの……ってうわっ、顔色真っ青だよ!? 大丈夫!?」
私はリックスくんの顔を見るなり驚いた。
彼のただでさえ白い顔は全体的に血の気が失せていて、目の下には濃く大きい真っ黒なクマができていたからだ。
足元も相変わらずふらふらとしているし、目の焦点もいまいち定まっていない。
これはただ事ではないと判断した私は、とにかく寝かせなければとベッドのところまでリックスくんに肩を貸し、体温計を脇に挟ませてからゆっくりと寝かせた。あまり室温が低すぎてもいけないだろうから、冷房の温度も高めに設定する。少々暑くはなるが、そんな下らないことを言っている場合ではない。
「リックスくん、いつからこんな具合だったの? もしかして朝からずっと?」
「イエス。一時間目までは何とか我慢できたのデスが……」
「体調悪いのを我慢なんてしちゃダメだよ……。ていうかこんなにヒドいなら学校休んでも良かったんだよ?」
「そういうわけにはいきマセン。ボクは留学生……マミーやパピーに心配をかけないためニモ、たとえ一日だって欠席の印を付けられるわけにはいかないのデス……」
なんてしっかりとした子なのだろう……。
確か両親から離れて単身日本にやってきたという話だったが、こういう子だからご両親も留学を許してくれたんだろうなあ。
しかし何にせよ無理はいけない。
こんな状態になるまで放っておくなんて……。
とりあえず、リックスくんが寝てしまう前に大まかな自覚症状を訊いておかねばならないだろう。
それ次第によってはこれからの処置が大きく変わってくる。
医療機関に任せなければならないような状態である可能性だって決してゼロではないのだ。
「リックスくん、具合が悪い他にどこか痛いところがあったりしない? 頭とか、お腹とか……」
「股間が痛いデス。さすってクダサイ」
私は無言で拳を振り上げた。
「オウ、ミス鳴神落ち着いテ!? 落ち着いてクダサイ、ジョークデス! イッツジョーク! お、オーケー?」
「とりあえず冗談を言うくらいの元気はあるってことはわかったけど、次やったらずどんだよ」
「は、ハハハ……。んー、真面目ニ答えると若干の頭痛はありマスガ、そこまで痛いというわけでもありマセン。寝れば治ると思いマス」
「そっか。熱もなさそうだし、それなら安心かな。ゆっくり休んでいっていいからね」
「ありがとうございマス。本当にもう限界だったノデ……。いやあ、徹夜なんて久々デシタけどやっぱり厳しいデスネ、ハハハ」
「……ん? 徹夜って……リックスくん、もしかしてただの寝不足!?」
私がそう訊ねると、リックスくんは「しまっタ」とでも言わんばかりの表情になって急激に汗をかきはじめた。
別に私は寝不足が理由で休みに来たからといって責めるつもりなんて無かったのだが、リックスくんのこの反応は……?
「ねえリックスくん、先生怒らないから言ってごらん? 何をしてて徹夜になったのかな?」
「……エロゲーデス」
……ダメだこの留学生。