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とある離島の保健室  作者: なる。
一学期
13/29

012 黒鍵雛子の相談(3)



 人間にウサギのような耳は生えたりしない。

 アニメや漫画の世界ではそのようなキャラクターも存在するとは聞いたことがあるけれど、ここは現実だ。

 リアルだ。

 三次元だ。

 人体の構造上、まずありえないことなのだ。


 ということはもちろん、雛子ちゃんの頭についているこのウサ耳だって紛い物であることに間違いはない。

 やたらとふわふわしていて触り心地は良かったしほんのり温かかったような気がしないでもないけれど、本物の耳であるはずはない。現に、雛子ちゃんの顔の横にはちゃんと耳がある。あるべき位置に、人間としてあるべき形で立派に存在している。


 だというのに――何故かこのウサ耳は外れない。

 まるで地肌から生えているかのように、しっかりと雛子ちゃんの頭に張り付いていてびくともしない。


 これはいったい……!?



 「――だぁっ! もういい加減にしろ! 痛いんだから、そろそろ耳から手を離さないか!」


 「あっ、ごめんね……ついつい夢中に」



 雛子ちゃんは私の手を振り払うと、ウサ耳の付け根のあたりを痛そうにさすり始めた。

 まるで本当に耳を引っ張られたときのようなリアクションだ。



 「ゴミを取るという話だったのに、何なのだまったく! それとも何か、私の耳に何か問題があるとでも言うのか!? あの憎き風紀委員と同じ事をほざくつもりなのか!? パチョンパチョンにされたいのか!?」


 「あ、いや、ええと、でも……かわいいんだけどさ、ほら、やっぱりそういうアクセサリーは校則違反だし……」


 「はあ!? 何を言っているのだ!? 人の耳をアクセサリー扱いするだなんて、先生の目は節穴なのか!? 酷すぎる……私は今、非常にショックを受けている!」



 えええ……?

 何をどう間違えてもそのウサ耳は人体のパーツの一部ではないと思うのだけれど……。


 しかし雛子ちゃんのリアクションから察するに、彼女は自分の体の一部だと信じて疑っていないようだ。

 となると雛子ちゃんはこのウサ耳を外さないだろうから、風紀委員の立木さんは注意をし続けなければならない。注意をされ続ければ雛子ちゃんの不満も増し続ける。そして再びこの保健室へ相談に来る。結果として私が困る。……変なループが完成した。


 どうしよう……。

 どうにかして雛子ちゃんにウサ耳を取らせない限りこの問題は解決しない。

 何か良い方法はないものだろうか――



 「――あ、ごめん雛子ちゃん。傷ついてるとこ悪いんだけど、髪を洗うときってどうしてるか訊いてもいい? その大きな耳があると結構洗いづらいと思うんだけど」


 「……ん? ああ、そんなのは簡単だ。髪の毛だけで見れば世界で争えるほどの美しさを持つ私だ、やはりそのケアには最大限の注意を払わなければなるまい。だから、こうしている」



 そう言って雛子ちゃんがウサ耳の根元をごそごそといじったかと思うと、パチッとボタンが外れるような音がして彼女の頭からウサ耳の付いたカチューシャが取り除かれた。



 「ってそんなあっさり取っちゃうんかいー!」


 「……? すまない、耳を外してしまったから何を言っているのかわからない」


 「嘘ぉー!?」



 ……これと同じやり取りを立木さんの前でやって見せたところ、何故か新種の補聴器として納得してもらえました。

 でも私は納得できませんでした……。





 

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