011 黒鍵雛子の相談(2)
春の健康診断の時から気にはなっていた。
この子――黒鍵雛子ちゃんはどうしてウサ耳をつけているのだろう、と……。
おかげで身長が測りづらくてしかたがなかった。
そして風紀委員の立木さんが注意しているのは、間違いなくそのウサ耳でしかありえないだろう。校則にはっきりと”ウサ耳をつけてはいけない”という項目はないかもしれないが、当然許可されているアクセサリーでもない。
まさかそれに気付いていないはずもないと思うのだけれど、雛子ちゃんは私に指摘されたのを見ても首を傾げてきょとんとしている。
「鳴神先生、何を指差しているんだ? 髪か? 私の髪に問題があると言うのか?」
「……へ? いや、髪は問題どころかサラサラだし綺麗だし羨ましいよ」
「そうか? 褒めてくれるのは嬉しい。いや、実は密かに自慢に思っていたのだ。ふふ、何だかガラにもなく照れてしまうな」
「本当に綺麗だもんね――って違くて、いや綺麗なのに間違いはないけど問題はそこじゃなくてね、頭についてるそれのことなんだけど……」
「……? なんだ、ゴミでもついているのか? だったら取ってほしい。買いたいと言い出す輩がいてもおかしくないと思える程自慢の髪の毛だからな」
密かに自慢に思っていたんじゃなかったのだろうか。
なんだか自慢のレベルが飛躍的にアップしたような気がする。
そして凛としていたはずの顔は緩みまくってデレッデレになってしまっている。
誰だこの子は。
……それはさておき、雛子ちゃんは素で気付いていないのだろうか。
それとも気付いていない振りをしているだけなのだろうか。
まさか無意識のうちにウサ耳をつけているわけでもないだろうし、鏡を見れば一目瞭然のはずなのだが……。
「? どうした、先生。早く取ってくれ。ゴミなんかがついていたら私の絹糸を思わせるような神々しい輝きを持つ繊細で美しすぎる聖髪が穢されてしまう」
聖髪って何だ。
雛子ちゃんの中では”聖”ってつくと最高ランクの評価になるのか……。
それよりも、雛子ちゃんがゴミを取ってほしいとウサ耳の揺れる頭を突き出してきているこの状況。
これは雛子ちゃんの頭からウサ耳を取り除く絶好のチャンスではないだろうか?
取り外されたウサ耳を見ればさすがの雛子ちゃんだって何を注意されていたのかということに気付くだろうし、外したままでいれば立木さんに注意をされることもなくなる。
最もシンプルでわかりやすく簡単な解決方法だ。
そうと決まれば善は急げ。
私は恐る恐るながら雛子ちゃんのウサ耳へと手を伸ばし、ふわふわでふかふかな手触りの良すぎるそれをグイっと引っ張ってみた。
――が。
「いたたたたたたたぁっ!? 痛いぞ何をするんだ先生!? どうしていきなり耳を引っ張ったりするのだ!?」
……取れませんでした。