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とある離島の保健室  作者: なる。
一学期
11/29

010 黒鍵雛子の相談(1)



 今の季節は夏。

 今年は特に猛暑の夏と言われていて、三十度オーバーのうだるような暑さの日々が続いている。

 保健室の中はまだ冷房が効いているから快適に過ごすことができているけど、お手洗いなどで保健室の外に出ようものならあっという間に汗だくにされてしまう。

 暑さが苦手な私にとっては悪夢のような毎日だ……。

 嗚呼、夏の間はずーっとクーラーの効いた部屋に閉じこもっていたい。


 そういえば……この季節になると制服を着崩す生徒が増えるから指導で忙しい、と風紀を担当する先生が言っていた。

 確かに、保健室に来る生徒も第一ボタンどころか第三ボタンくらいまで開けて大胆に胸元を露出させている者が多い。

 一応それを見かけたら注意をするようにはしているのだけれど、シャツのボタンって閉めてると暑いんだよねえ……。まだ学生だった頃の記憶が新しいせいか、気持ちはよくわかるのだ。それでも注意をしなければならないというのはなかなかもどかしい。


 そんな取り留めもないことを考えていると、今日も保健室の扉をノックする音が。

 私が入室を促すと、長い絹糸のような黒髪をなびかせて一人の女生徒が現れる。



 「一年の黒鍵雛子くろかぎひなこだ。鳴神先生に話があってやって来た」



 人形のような美しさを持ちながらも凛とした雰囲気のある子だ。

 喋り方もはきはきとしていて自信に満ち溢れており、そこから意思の強さが感じ取れる。


 確か黒鍵家はこの島の中でも指折りの名家だという話だが、彼女を見るとそれも納得がいく。

 扉を開けたり、椅子に座ったりなどという何気ない動作の中にも気品というか、育ちの良さが滲み出ている。

 私のような凡人とは比べ物にならない、生粋のお嬢様というやつなのだろう。


 ……ただ一点を除けば。



 それにしても、雛子ちゃんの話とはいったい何なのだろう。

 眉をハの字に寄せて、なにやら不機嫌そうな雰囲気を漂わせているが……。



 「入学してからずっと我慢してきたのだが、もう限界だ。なんなのだ、あの毎朝校門に立っている三編み眼鏡の女は」


 「三編み眼鏡……? ああ、もしかして風紀委員の立木たちぎさんのことかな? あの子がどうかしたの?」


 「どうもこうもない。毎朝私の顔を見るなり文句を言ってくるのだ。その格好は何だ、正しい格好をしろだとかどうとか」


 「あー、うん、あの子は風紀委員で、それが仕事だからね。ちょっと度が過ぎるところもあるかもだけど、悪気があって言ってるんじゃないよ?」


 「そんなことはわかっている。むしろ風紀委員という立場でなかったらとっくに首を撥ねている」



 目が本気だった。

 本気と書いてマジだった。



 「私が気に食わないのは、注意を受けるような格好をしているわけでもないのに何故注意をされなければならないのかという一点に尽きる。だというのにあの女は毎朝毎朝同じ注意を……もううんざりだ! 何なのだあの女は! 首をチョンパられろ!」


 「チョンパられろって初めて聞いたよ……。でも、うん、残念だけど立木さんの気持ちはわかるっていうか、注意されても仕方がないっていうか……」


 「何だと!? 鳴神先生、あなたまでそんなことを言うのか!? 私のどこに問題があるというのだ! ブラウスのボタンは全て留めているし、スカート丈だって膝までぴったり伸ばしているぞ!? ましてや髪を染色していたりピアスの穴を開けているというわけでもなければ、ちゃらちゃらとしたアクセサリーの類だって身に付けていない! どうだ、注意される余地なんて存在しないだろう!?」



 腕を組み、自信満々で言う雛子ちゃんだったが、私はとてもじゃないが頷くことはできなかった。

 確かに、彼女の言うとおり制服の着方などについては全く何の問題もない。それどころか模範生として見習うべきと言いたいくらいに完璧だ。


 しかし、明らかに不必要な部分が一箇所だけあった。

 完璧な彼女の、不完全な一部分が――



 「雛子ちゃん、頭の上が大問題だよ」


 「えっ」



 ……ぴこぴこと揺れて大変かわいらしいウサ耳を指差して、私は微笑みました。





 試験期間中なので更新速度落ちてます。



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