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とある離島の保健室  作者: なる。
一学期
10/29

009 戸倉圭史の相談(3)



 まさか九歳児のポケットの中から飛び出してくるとは思ってもみなかった物体を目にしてしまった私は動揺を隠せなかった。

 顔が急速に紅潮していくのをはっきりと感じながらも、舞華ちゃんに訊ねないわけにはいかなかった。



 「ま、舞華ちゃん……? そそそそれはいったい……?」


 「先生、かまととぶらないでほしいの。というか色々問題があるから言わせないで欲しいの」


 「そ、そそそうだよね……。で、でもそんなものどうするつもりなのかなっ?」


 「もちろんお兄ちゃんにあげるの。これをナシで行為に至ったら大変なことになるの。だからそうなる前に早く帰らなきゃいけないの」


 「たぶんその心配は杞憂なんじゃないかな……? て、ていうか戸倉くんだって必要だと思ったら自分で準備するだろうし……」


 「それはないの。お兄ちゃんはヘタレなの。きっと買う勇気なんてあるわけないの」


 「そ、そりゃあ恥ずかしいものなんだろうけれど……どうなのかなあ……」



 私は九歳児と何の話をしているんだろう……。

 というか、この子は本当に九歳児なんだろうか……。



 「まあ、でも確かに普段からこっそり教科書の代わりにカバンへ詰めたり、小銭の代わりに財布へ詰めたりしておいてあげてるから、余計な心配かもしれないの。今頃お楽しみ中かもしれないの」


 「そんなことしてたの!?」


 「当然なの。いざという時に持っていなかったら格好がつかないの」



 なるほど。

 戸倉くんがこの子を保健室に拉致してきた意味がよくわかってきた。

 好きな子といるときにそんなものを持ってこられたりしたら気まずいにも程があるよ……! 


 これはますます舞華ちゃんを帰すわけにはいかなくなった。

 繰り返して言うが、私は恋する少年少女の味方なのだ。

 お兄ちゃんを想う舞華ちゃんの心遣い(方向性はかなり間違っている……)も大事にしてあげたいけれど、内容が内容なだけに優先順位をつけさせてもらおう!


 ……と決め込んだ私だったが、どうやら舞華ちゃんのスペックを見誤っていたようで――



 「――あ、いざという時って言葉で思い出したの。そういえば、今みたいな状況――つまり私が家に帰れなくて、お兄ちゃんが家に女の子を連れ込む、というような事態になってしまった場合に備えてお兄ちゃんの部屋に仕掛けを施しておいてあったの。私としたことが、すっかり忘れてたの」



 そんな不吉なことを言ったかと思うと、舞華ちゃんはポケットの中から可愛らしいピンクの携帯電話を取り出し、何やら慣れた手つきでぽちぽちと操作をし始めた。



 「え、あのー、舞華ちゃん……? それはいったい何をやってるのかな?」


 「お兄ちゃんの部屋に仕掛けてある装置に信号を送ってるの。携帯で遠隔操作できるようにしておいて正解だったの」


 「……舞華ちゃん、もう何か嫌な予感っていうかオチは見当ついちゃったんだけど、それはどんな装置なのかなー……?」


 「聞いて驚くが良いの。なんとスイッチ一つで天井の一部がパカっと開き、中に詰められていた大量のコンドーさんが部屋中に降り注ぐ装置なの!」



 ……後日、戸倉くんから失恋したとの報告を受けました。



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