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桜咲く休日

四月下旬

雨実村にも桜の季節がやってきた

役場前の桜並木は淡い桜色に染まり

村を流れる清流の岸辺にも

春の彩が広がっている

この時期は 

一年の中でも村が最も賑わう季節だった

ふるさと振興課では朝から電話が鳴り続ける

「梅林の次は桜ですね」

菫が観光案内のパンフレットを並べながら

笑う

新田は予定表を確認しながら答えた

「今日は桜並木の案内と

キャンプ場の受付もある」

「午後からは旅館へ宿泊されるお客様も

増えますね」

二人は手分けして

観光案内や問い合わせに対応し

時折現地へ出向い駐車場の状況を確認する

村長が育ててきた観光施策が

少しずつ実を結び始めていた


昼前

一台の乗用車が役場の駐車場へゆっくりと

入ってきた

運転席から降りてきた女性が大きく手を振る

「あなたー!」

新田は思わず笑顔になった

「由佳!」

助手席からは元気いっぱいの

男の子が飛び出してくる

「お父さん!」

「友!」

続いて 小さな女の子が少し照れながら

母親の後ろから顔をのぞかせた

「パパ……!」

「愛!会いたかったよ」

新田はしゃがみ込み

二人を優しく抱きしめた

菫は少し離れた場所から

その様子を微笑みながら見守っていた

「新田さん 今日はお仕事ですよ!」

そう言うと新田は苦笑いする

「そうだった」

由佳も笑いながら頭を下げた

「今日は子供たちに桜を見せたくて来ました

夜は温泉旅館に泊まる予定なんです」

「それはいいですね」

菫は村の観光マップを手渡した

「桜並木と渓流沿いは今がちょうど見頃です」

「じゃお仕事の邪魔をしたらいけないから

挨拶して」

「お父さん!またね」

「パパーまた後でね!」

新田の笑顔がとまらない


夕暮れ

温泉旅館の露店温泉からは

山桜が淡く照らされていた

由佳は肩まで湯に浸かり 大きく息をつく

「やっぱり気持ちいいわね」

「うん」

愛は母親の隣で嬉しそうにお湯を手ですくう

友は父親と男湯で温泉を満喫していた

「お父さん この温泉あったかいね」

「この村では昔から人気なんだ」

「また来たい」

「何時でも来い」

「新田は息子の頭を優しくなでた」


夕食は旅館自慢の懐石料理だった

山菜の天ぷら

川魚の塩焼き

地元産の苺を使ったデザート

友は夢中になってご飯を頬張る

「美味しい!」

愛も小さな声で言う

「苺 甘い」

由佳は二人の笑顔を見つめながら

新田へ静かに話かけた

「最近 本当に忙しそうね」

新田は少し照れたように笑う

「合併協議のこともあるし 

水質調査も始まったからね」

「でも 

今日みたいに家族で来られてよかった」

由佳は窓の外に咲く夜桜を見つめる

「この村 前に来た時より

もっと元気になった気がする」

新田は其の言葉を聞き

少しだけ誇らしい気持ちになった

「まだまだこれからだけどね」

「少しずつ 

みんなで育てているところなんだ」

その言葉に 由佳は静かに頷いた


翌朝

旅館の窓から差し込む春の日差しが

家族を優しく包み込む

友と愛は元気よく朝食を食べ

帰る前にもう一度桜並木を歩いた

その姿を見送る新田の表情は

役場で働く職員の顔ではなく

一人の父親の穏やかな笑顔だった

春風に舞う桜の花びらは

雨実村で過ごした家族の思い出を

静かに彩っていた

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