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第15話 短編エピソード①

第15話 短編エピソード①

『カッピーの昼寝場所』


 冬の陽が差し込む午後。

 信吾はリモート会議を終え、ふぅと息をついた。

 美沙はリビングでのんびり雑誌をめくっている。


「あれ、カッピー、どこ行った?」

 信吾が部屋を見渡す。

 いつもなら桶の中か、ベランダ近くの観葉植物のそばにいるはずだが、姿が見えない。


「まさか、また洗濯機の後ろとか……」

 美沙が苦笑しながら立ち上がる。


 二人で部屋を探すと、窓とカーテンの間から小さな「クゥ……」という寝息。

 そっとのぞくと、カッピーはカーテンの波に包まれるようにして丸くなっていた。

 まるで“陽だまりの巣”を見つけた小動物みたいだ。


「……あそこ、あったかいんだよね。」

 美沙が笑うと、信吾が少し心配そうに言った。

「ただ、あんなところで寝てたら、すぐ乾燥しちゃうぞ……日差し、当たってるし。」


 その瞬間、カッピーが薄目を開け、ふにゃりと笑うような顔をした。

 まるで「静かにしてね」と言っているみたいだった。


 二人は顔を見合わせて、そっと笑う。

「もうちょっとだけだぞ、特別な昼寝タイムな。」

 信吾の小さなつぶやきに、カッピーは小さく「クゥ」と返したように見えた。

 カーテン越しの光が、三人の午後を包み込んでいた。



―――――――――――――――――――


短編エピソード

『カッピーとお茶の時間』


「お茶、飲む?」

 美沙が信吾に言うと、湯呑を二つ並べた。

 カッピーは桶の縁にちょこんと座り、湯気の立つ急須を不思議そうに見つめている。


「カッピー、お茶は熱いからダメだぞ。カフェインとかも入ってるし。」

 信吾が言うと、カッピーは首をかしげ、「クゥ?」と鳴いた。


「香りが気になるのね。」

 美沙が笑って急須のふたを開けると、部屋いっぱいにほうじ茶の香りが広がった。


「ふわぁ……いい匂い。」

 美沙がうっとりとつぶやく。

「だろ? 冬はこれに限るな。」

 信吾が頷きながら湯呑を手に取る。


 カッピーは湯呑の縁にそっと近づき、湯気を鼻先で感じ取る。

 その動きは慎重で、まるで“香りを味わうお茶会の先生”のようだった。


「見て、完全に先生みたい。」

 美沙が笑いをこらえると、カッピーは少し嬉しそうな表情を浮かべた。


「……なんか、うちの中、平和だな。」

 信吾の言葉に、美沙は頷く。

「こういう時間が、一番落ち着くよね。」


 その声に反応するように、カッピーが小さく「クゥ」と鳴いた。

 ほうじ茶の香りと小さな声が、冬の午後をやさしく満たしていた。



―――――――――――――――――――


短編エピソード

『寝る前のひとこと』


 ある日の夜。

 部屋の明かりが落ち、間接照明だけが柔らかく灯っている。

 信吾は歯を磨きながら、ふと桶の方を見る。


「カッピー、もう寝たか?」

 返事はない。

 ただ、桶の中の小さな体が、すうすうと規則正しく動いている。


 美沙が布団に入りながら微笑む。

「今日もいっぱい動いたもんね。昼、洗面台で水遊びしてたし。」

「そういえば、石けんの泡で顔がまっ白になってたな。」

 信吾が思い出して吹き出す。

 カッピーの頭に泡の王冠を乗せて“クゥ”と誇らしげにしていた姿が、目に浮かんだ。


「……ああいう姿見るとさ。」

 美沙がぽつりと言う。

「うん?」

 信吾が歯ブラシを持ったまま顔を向ける。

「なんか、子どもがいるみたいでさ。」

 美沙は少し照れたように笑った。


「そうだね。ゴンちゃんの時とはまた違う感じだしね。」

 信吾が笑いながら言うと、部屋の空気がふわりと和らいだ。


「そうだね。でも、それもいいんじゃない? 今、うちは家族三人だもの。」

 その言葉に、信吾は照れくさそうにうなずいた。


 そのとき、桶の中から「クゥ……」と寝ぼけ声。

 まるで「おやすみ」と言っているようで、二人はそっと声を合わせた。


「おやすみ、カッピー。」


 静かな夜。

 窓の外の月が、三人の寝顔をやわらかく照らしていた。



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