第7話
「ティア様、これなんてどうですか?」
「ああ、とっても良く似合うわ。このリボンも付けて見たらどうかしら」
会話だけを聞けば女2人の会話。
いや、見ても女2人だ。
1人は漆黒の長い髪を腰まで伸ばし、伏し目がちの儚げ美少女・美守。
もう1人はオレンジ色の髪を肩甲骨辺りまで伸ばしたミラルダと同じ青い瞳の迫力美人・ティア。
ティアは思いっきりドレスを着ていた。
・・・正真正銘、男なのにも関らず。
ミラルダそっくりのその容姿に、男にしては線の細い肢体は女者のドレスを着てしまえば、そんじょそこらの女より美しいのだから性質が悪い。
ティアが美守の髪を結うために伸ばした手が、リュークによってはじき落とされた。
はじき落とされた手を擦りながらティアはリュークを睨んだ。
「・・・君、この前から王族に対する礼儀がなってないよ」
「ミモリ様に気安く触れないでいただけますか?あと、陛下は愚息だからと言って遠慮はするな、との仰せでしたので」
しれっと言ってのけるリュークにティアは更にむすっとした。
美守がリュークの腕を取る。
「リューちゃん、私別に構わないから・・・」
「いいえ、ミモリ様。ティア様はこのような見てくれですがれっきとした男です。純白無垢なミモリ様に得体の知れない者を近づけるわけにはいきません」
「ちょっと!得体の知れないって私のこと!?」
「あなた以外に誰が居ると仰るのです?ここには私とミモリ様とティア様以外居りませんが」
またしてもしれっと言うリュークにティアは手に持っていたリボンを床に叩き付けた。
しかし、美守がおろおろとし出したのを視界に捕らえむすっと黙り込む。
リュークはすかさず笑顔を作り、美守が髪に着けようとしていたリボンを受け取り、美守の艶やかな黒髪の一房を取る。
流れるような動作でリボンを結い、毛先に小さく口付けを落とした。
真っ赤になった美守を見て反応したのはティア。
「あー!僕が着けようと思ってたのにっ!!」
「「・・・僕?」」
「ごほん。リューク?私がやろうと思ってたのよ?邪魔しないでちょうだい」
言いなおすティアを美守は疑問符いっぱいに、リュークは胡乱気な目で見つめる。
気まずげに目を逸らそうとするティアだったが開き直った。
「・・・リューク!王族命令だっ!!ここから出て行け!!」
「嫌です」
「くっ・・・!」
「え、あの・・・2人共仲良くね?」
「「・・・・・」」
さすがの美守も2人の不穏な空気を感じ取り、困ったように首をかしげた。
リュークは恥じたように目を逸らし、ティアを見ると・・・。
美守をぼーっと見つめている。
リュークは引きつりそうになる顔を押し止めてにっこりと美守に微笑みかけた。
「申し訳ありません、ミモリ様。少し2人で頭を冷やしてまいります」
「そう?」
「な!君だけで行けばいいでしょ!私はミモリと遊ぶんだから!」
リュークに首の根っこを掴まれて引きずられたティアは文句を言うが、そこは名誉騎士。
力ではまるで叶わずリュークとティアは部屋から退場した。
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第3王子のティアは、幼い頃から女の子のように可愛らしく、見た目に順じて可愛い物が大好きだった。
育った今でも骨格は華奢なままで、伸ばした髪のせいか女にしか見えないのだ。
「自分に1番似合う格好をしたいと言ってな。昔から女物の服しか着んのだ」とミラルダが呆れ気味に説明していたのは記憶に新しい。
王族としては恥ずべきことだと隠されていた存在。
普段はお気に入りの侍女だけを集めた離宮に引きこもっているのだと言う。
そんな説明を受けて、美守ちリュークはミラルダが「アランが1番まし」と言っていたのを思い出した。
あと「長男が1番最悪」だとも。
つまり三男の女装壁よりも衝撃的な長男なのか・・・と思ったが、今はそれど頃ではない。
ティアは美守を気に入ったらしく、熱心に自分の侍女になるように口説いてきている。
ミラルダから美守を守るように命を受けているリュークにとって、ティアは迷惑極まりない。
毎日のように部屋に訪れ馴れ馴れしく美守に触れようとする。
いくら心が女だから、と説明されても、生物学的には男。
素直に納得できるリュークではない。
しかし美守本人が気にしていない、と言うからこれでも抑えている方なのだ。
本当は切り殺してしまいたいのを我慢して。
部屋から出たリュークは、1部の侍女にしか顔を知られていないティアに感謝した。
人が来ても誤魔化せる。
廊下の片隅。
リュークはティアを壁に縫い付けていた。
「何をする!私は第3王子でっ・・・!!」
「お言葉ですが、私はこの国の名誉騎士ですよ?その地位は陛下を除く王族に序列致します」
ティアはリュークから逃れようと暴れるが、鍛え上げられたリュークの身体はびくともしない。
平然と見下ろして来るリュークをティアはきっと睨みあげる。
そんなティアを無表情に見下ろし、リュークは冷めた声を出す。
「・・・ティア様、お心は女性なのですよね?」
「そ、そうよ」
「・・・何故、目をそらされるのです?」
「別に、意味は無いわ」
「先ほど、ミモリ様を見つめるあなたの目は男のものでした」
「っ・・・!」
目を逸らしたまま真っ赤になったティアを見て、リュークは確信する。
「ティア様、あなたはもしかしてただの女好きなのではないですか?」
「な!違う!!」
「違う?変ですね。あなたの離宮は女性しかおらず、美女揃いだと聞きましたが?ここ数日のあなたを見ていて思ったのですが、女と言う事を理由にミモリ様に触り過ぎです」
「・・・・・」
「そうですよね。男が女性に触れるのは問題がありますが、女同士ならば問題ありませんからね」
「・・・・・」
「おや、暑いのですか?汗を掻いていますよ」
「ち、違う」
「ほぉ・・・それならば身体も女になればよろしい。・・・潰して差し上げます」
「!!!!!!」
急所を捉えられ、真っ青になったティアは自白する。
それはもう、涙目で洪水のごとく。
「そ、そうだよ!女のフリすると皆触っても許してくれるんだ!女の子が好きで悪い!?離せよっ!!」
「・・・悪いに決まっているでしょう。私のミモリ様に興味を持つことすら許されません」
「ミモリは君の物じゃないだろう!?僕が貰っても構わないはずだ!母上だって仰っただろう?ミモリを口説き落とせと」
「そうですね。しかし、私は守れ、とも言われましたので」
涙目で見上げるティアはミラルダにそっくりで女にしか見えない。
しかし、今手の内にあるものは間違いなく男を証明していた。
「これ以上ミモリ様に近づかないでください。・・・でなければ」
「!!!!」
ぎゅっとティアが目を瞑り、頬に涙が伝う。
顔を寄せられ掛けられた脅しの声にティアの男にしては華奢な身体が震えた。
「や、めろ・・・」
「近づかないと約束すれば離してさしあげます」
「あ!!」
「なんです?そんな声を上げても離しませんよ?」
「ち、違う!!後ろ!!後ろっ!!」
ばんばんと肩を叩かれてリュークは眉を潜める。
こんな子供だましに引っ掛かるとでも?と手にさらに力を加えようとしたその時。
「・・・りゅーちゃん・・・・・・」
聞こえてきた声に反応して後ろを振り返れば美守の姿。
「ミモリ様!何故ここに・・・!」
「え、あの2人共遅いから見に来たんだけど・・・その、ごめんね」
「いえ、もう話は終わりましたので」
ティアを解放し、誤魔化すように笑顔を作るが、美守は目を合わせない。
目線をあわそうと顔を覗き込めば真っ赤になっていた。
「ミモリ様・・・?熱でも・・・」
「ご、ごめんなさい!!りゅーちゃんがまさか、その、ティア様をそんなに好きだったなんて・・・」
「・・・・・は?」
「わ、私仲が悪いのかとばかり・・・・」
「いえ、ミモリ様?」
真っ赤になって目を逸らされる。
何か勘違いをしているのはわかる。リュークはティアを排除しようとしているのに、好きなわけがない。
「で、でもね、りゅーちゃん。その、そういうことは死角だからって廊下でするのは駄目だと思うの」
意味が、わかった。
急所を押さえてティアを拘束していたリュークの姿が、2人が情事をしているように見えたのだ。
「ミ、ミモリ様!誤解です!!」
「あ、そうよね。私が口出しすることじゃないもんね・・・邪魔してごめんなさいっ」
「ミモリ様っ!!待ってくださ・・・・・あ」
「ふぇ」
踵を返した美守だったがばいんっと跳ね返り、リュークの腕に収まった。
美守がぶつかったのは、ミラルダ大きな胸。
忘れていたがここは廊下。
しかも美守の部屋の近くだ。
この通りに来るのはミラルダ、アラン、ティア、リュークぐらいのもの。
お茶会の時間だろうか?と外を見るがまだそんな時間ではない。
それに、ミラルダはいつになく険しい顔をしていた。
美守は不安気にミラルダを見つめ、リュークは顔を引き締め、ミラルダの言葉を待つ。
ミラルダは美守を見つめ、口を開いた。
「神の子のお披露目が我が国で行われる事となった」
「え・・・?」
ミラルダの後ろに、神殿に帰ったはずのファイを見つけて、美守は神の子と言うのが光太郎であることを思い出す。
ファイを見つめて美守は呟く。
「こぉちゃんに、会えるの?」
ファイが静かに頷いた。
はい
すっごく遅くなりました
申し訳ありません