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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅰ:引き離された二人
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第6話

 「ミラルダ様!」

 「・・・おや」


 城の散策途中に発見したのは真っ赤なドレスに身を包むミラルダ。

 忠犬よろしくぱたぱたとミラルダに走りよって満面の笑みを向ける。

 ミラルダは目を丸くしてそんな美守を見た。

 

 「・・・どうしたんですか?」

 「ん?あ、いや。可愛らしいな・・・と」


 ミラルダはいつも美守を見る度に「かわゆい」と言って愛でる。

 聞きなれた言葉だが、憧れのミラルダからならば何度言われても照れてしまう。

 美守は顔を赤くして「恐れ入ります」と畏まった。

 しかし小首をかしげてミラルダを見上げた。


 「本当にどうしたんですか?こんなところで珍しい・・・。お仕事、終わったんですか?」

 「・・・ん?まぁ、そうだね。それより後ろにいるのはリューク・デストーニかえ?じゃぁ・・・」

 「??」


 リュークを確認し、美守を隅々まで観察する。

 何か思いに耽っていたようだが直ぐにいつもの妖艶な笑みを湛え、美守の手を引いた。

 「街に行こう」と言うのである。

 突然のことで戸惑いはしたが、ミラルダの言うことだし、リュークとて傍に控えているため問題は無いか、と判断した。

 こうして美守はミラルダに手を引かれるまま街に下ったのだった。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 神剣国の城下町。

 その名の通り神の剣たる神剣国は武力がもっとも強く、武器や鎧などが盛んだ。

 それに伴い、貴金属の生産も盛んといえる。

 が、やはり集まるのは屈強な戦士ばかり。

 ここは町の広場である。

 つまり・・・。


 「可愛らしいお嬢ちゃんじゃねぇか」

 「ちっこいなぁー・・・しかも別嬪さんだ」

 「ちょっと触らせてくれ」


 無造作に伸ばされて来るごつい手に美守は竦み震えたが庇うようにリュークの後ろに隠されたため、リュークの後ろでほっと息を吐いた。

 が、後ろから伸ばされた手に身体を掬い上げられた。

 ミラルダだ。


 「きゃぁ!ミ・・・ミラ」

 

 名を呼ぼうとすればしーっと口を封じられ、ウインクを投げて寄越される。

 その姿に美守は頬を染めることになったが回りに円を作るようにして出来た人垣にまたしても震えることとなった。


 「姉さん!!お久しぶりです!!」

 「姉さん!俺また強くなりました!ぜひ、勝負を・・」

 「姉さん」

 「姉さん・・・」


 美守を片腕に抱き上げたまま、ミラルダは戦士たちに片手を降って見せている。

 ミラルダの知り合いか、と一時は心を撫で下ろすが集まり来る男達に眩暈を覚え無意識にリュークに手を伸ばした。

 リュークは傍らにおり、安心させるように微笑んで美守を自身の腕に抱き取ろうとしたが、ミラルダにやんわりと押し留められた。 

 何故かぞくりと背筋に嫌悪が走り、引き下がろうとしたリュークの肩をはしっと掴んだ。

 

 「・・・ミモリ様?」


 リュークが心配気に美守の手を取り見上げて来るが、美守にも意味が分からない。

 ミラルダはいつも通り美守を愛玩動物でも撫でるかのように抱きしめているだけだ。

 それなのに、今日のミラルダはどこか美守に嫌悪を抱かせる。

 

 忘れているかもしれないが美守は由緒正しき家のご令嬢である。

 昔から人の多い場所で人を見る目を養ってきた。

 人の纏うオーラや機微には人一倍聡い。

 言葉が通じず始めは戸惑ったが、ファイの気質は静だと思いなるべく静かに傍に寄り添うようにした。

 リュークには光太郎と同じ物を感じ、多少のわがままを言っても大きく包んでくれると思い甘えてしまっている。

 アランは興味が先立っていて美守の都合をまるで無視するため逃げるが勝ちだ。

 権力国家の王たるミラルダを一目見て尊敬に値する人物だと感じた。

 そしてその目に美守に対する好意を見て取った。

 しかしそれはストレスの溜まった人が’愛玩動物’に癒しを求めるようなもの。

 だからこそ、ミラルダが美守を対等な’人間’として1度も見たことがないことを美守は知っている。

 可愛らしく珍しい愛玩動物。

 手放したくないミラルダのお気に入り。

 神殿からの預かり物でしかも人間。

 いつ居なくなるか分からない。

 だからこそ、美守に伴侶と言う枷をつけたがっている。

 どこへ行っても必ずミラルダの元へ戻ってくるように。


 なのに。


 今、ミラルダは美守を’人間’だと思って接している。

 それが不思議だった。

 絡め取るような粘着質な視線はまるで獲物を視界に捕らえた肉食獣のよう。

 美守を自分の物にしたがっているのは承知していたが、今のミラルダには頭から丸呑みされてしまいそうな恐怖を感じる。

 

 「ミラ・・・・お、お姉さん、私邪魔でしょうし・・・その、下ろして下さい」

 「邪魔ではないよ。そなたはとても軽い」


 名前を言われたく無いらしいミラルダを周りに集っている男達と同じように「姉さん」と呼ぶと満足そうに笑み、美守の輪郭をそっとなぞった。

 

 「!?」


 ぞくり、と背筋に走ったのはやはり嫌悪で。

 握られたリュークの手をぎゅっと握った。

 するといきなりその手を引かれ気づいたときにはリュークの腕の中にいた。


 「・・・なんのつもりだ?一騎士ごときが私に逆らうのか?」

 「お言葉ですが私はあなた様よりミモリ様を守るように仰せつかりました。あの時から私の優先順位はミモリ様が第1位です」


 「ほぉ」と目を細めるミラルダと冷めた眼差しでそれを受け止めるリュークと。

 その空気すら凍らせる視線が交差し、周りにいた戦士達ださえその場を動けなくなる。

 その中心にいた美守は。

 殺気に当てられ腰を抜かしそうになっていた。

 力の入らない手でリュークの腕を握ると、片手で抱きとめてくれて、安心してしまい涙腺が緩みそうになった。

 

 (私のせい・・・だよね?何とかしないと)


 でも今のミラルダは何故か嫌なのだからしょうがない。

 粘着質な視線が身体に絡まるその感覚が気持ち悪いとさえ感じてしまう。

 ちらりとミラルダを窺うとにっこりと微笑まれた。


 「すぐに助けてあげる」

 「・・・・・」


 何をどうすれば助ける、になるのかわからない。

 既に周りが勝手に盛り上がっているため美守にどうこうできる範囲を超えていた。

 誰かがどうにかしてくれるのを待つしかない。

 いつものように、事が終わるのを待つ・・・・。


 (本当に、いいの?それで・・・。だってここは私の世界じゃない。私を知るものはここにはいない。世間体を気にする一族の者達はいないのだ。少しくらい好き勝手してもいいのではないだろうか)


 いつものように事無き主義を貫き通す?

 いつものように光太郎に守られてばかりで、今度はリュークに守られて。

 自分の些細な感情のせいで、こんな大事になってしまった。

 これは自分で処理すべきことではないのか。

 

 (・・・私は人形)


 親が決めたレールの上を歩き、守り育てられることはとても楽で。

 ぬるま湯に浸かったような、その感覚に身を任せて。

 1人が怖くて、光太郎にくっついてばかりで。

 何のために生きているのか分からなかった。

 日々を何と無く過ごしていくことに何の意味があるのか。

 親の道具として生きることが楽で、光太郎が甘やかしてくれることが楽で。

 だから、そのぬるま湯から出るのが怖い。

 怖かった。

 

 (そう、怖かった。でも、人形のままでいいの・・・?)


 ミラルダは、神宮司家跡取りの美守を人形のように扱う一族の者と似た扱いをしてくれていた。

 だから、惹かれた。

 ミラルダの傍に居れば楽だと思ったから。

 ずるくて、卑怯で、情け無い自分。

 分かっているのだ、本当は。

 光太郎は今までの美守で居るための最後の砦だった。

 それが無くなったのだから、もう自分で何とかしなくては。


 美守は気合を入れてキッとミラルダを見上げた。

 するとミラルダは戸惑ったような顔をしておろおろとし出した。

 やはりいつものミラルダとは違うものを感じ、警戒するように睨み続ける。


 「ど、どうしたのだ?何故そのような目で見る?」

 「・・・それは・・・!!」


 美守が言い掛けた時、馬が美守たちを囲んだ。

 乗り手は城の騎士達。

 鎧が擦れる音がかちゃかちゃと鳴っている。

 美守は目を白黒させていたがリュークは違った。

 前に進み出て声を張り上げる。


 「どうした、お前達。何かあったのか」

 「リューク様!それが・・・」


 騎士たちを先導してきた一際大きな身体の騎士が畏まって話そうとしたが、馬が引きその隣に1本の道が出来る。

 そこから現れたのは、白馬に乗った美女。


 「わらわが引き連れて参ったのじゃ。・・・・なんじゃ?その阿呆面は」

 

 美守もリュークも白馬に跨ってる美女と後ろにいるミラルダを交互に見た。

 ・・・どう見ても同じ顔。


 「ミ、ミラルダ様が2人!?」


 思わず美守が叫ぶと、馬上にいたミラルダがひらりと降り、美守の前まで歩いて来る。

 その姿は馬に乗りやすいようにだろう。

 いつもの妖艶なドレス姿ではなく、パンツスタイル。

 しかし胸が入りきらなかったのか、胸元は大胆に開いている。

 ついっと顎を取られ上を向かされた。

 そして妖艶なる笑み。


 「・・・ミモリ?わらわとのお茶会をすっぽかすとは良い度胸だな?」

 「あ・・・ごめんなさい」

 「ふん、構わん。大体事情は飲み込めたからの」

 

 美守とリュークの後ろにいるミラルダを見て納得しているミラルダ。

 後ろにいるミラルダは変な汗を掻いて俯いていた。

 ミラルダとミラルダが体面する。


 「その姿でわらわとミモリの時間を邪魔しようとは許しがたい。・・・その格好は止めろと言わなかったか?いくらそなたでも極刑を覚悟してもらうことになるぞ」

 「も、申し訳ありません・・・・・・母上」

 「え!?」


 「母上」と聞こえた気がする。

 双子のように瓜二つな顔は血縁だったからか、と納得しかけたが美守はあることを思い出して首をかしげた。

 そんな美守を「かわゆいのぉ・・・」と目を細めているミラルダ。

 やはり本物は素敵だ。

 思わずうっとり仕掛けた。


 「あ、あの・・・確か、息子が3人だと仰ってませんでしたか?」

 「ああ、言った」

 「では・・・こちらの方は・・・?」


 今だ変な汗を掻いている偽ミラルダをちらりと見ると、「ああ」と言ってミラルダがその頭を鷲掴みにした。

 そして思いっきり髪をひっぱると髪が抜けた。

 鬘だ。

 

 豪華な金髪の鬘が美守の目の前で地面に落ちる。

 目線を上に戻せば金髪だがオレンジが混ざったような髪を長めに伸ばしている女の人。

 

 「一番下の息子だ。名をティアと言う」

 「息子?女性にしか見えませんが・・・だって胸も」


 胸もしっかりある。それもHカップくらい。

 

 「ああ、詰め物だろう・・・たぶん。それより城に場所を移そう。こんな所で愚息その3をさらし者にしておくわけにもいかんのでな」

 「はい・・・ひゃあ!」


 まるで荷物のようにひょいと担がれ白馬に横乗りに座らされたと思えば後ろにミラルダが跨って来る。

 物凄い力だ。

 手綱を操り方向転換をしたかと思うと思い出したかのようにリュークを振り返った。


 「リューク、そ奴を連れて来い!多少手荒に扱っても構わん。逃がすなよ!!」

 「は」

 「なっ!!離せ無礼者!!い、いたたたたた・・・!!」


 ミラルダが言った瞬間、ティアの腕を捻りあげたリュークを豪快に笑い飛ばしたミラルダの腕の中で美守はぬるま湯に浸かったように安堵していた。




  



 

はい、美守嬢。今回も自立できませんでした!!

いつになったら1人で大丈夫になってくれるのか・・・!?


あ、あとですね第2王子アランソールですが名前変えます。

ソール除けます。アランだけにします。

王子3人の名前のバランスが悪くなるので(汗)

ややこしくてごめんなさい~!!

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