第4話
神の子と一緒に現れた不可解な女。
そう、不可解。
存在の意義がわからない。
しかし、神の子と懇意であり尚且つ執着さえ見られる。
神の子と同等の地位を与える?
否、神殿に拒まれた。
では・・・?
「まぁ、そうじゃの。神官共はそなたの扱いに困り我々に押し付けた、と言うわけじゃ。異世界の女子などと面白い存在をのぉ。・・・案ずるな、わらわが可愛がってやるゆえ。そなたの地位は約束しようぞ。・・・・なんだ、泣くのかえ?・・・こっちにおいで」
「・・・は、はい」
怪しく誘うその手と眼差しに美守はふらふらと近づく。
ゴージャスな金髪は引き締まった腰の辺りまで縦巻きロールを作っている。
青く煌く瞳は怪しげな光を帯び真っ赤な唇は煙管を加え、愉快気につりあがっている。
紅色のドレス・・・ドレス?
紐のような布が肩から腰に垂れ下がり豊満な胸の頂を隠している。
腰には巻きつけるようになっており、動くたびに足の付け根まで見える。
健全な高校生男子がこの場にいれば鼻血ブー間違いなしだろう。
美守はふらふらとミラルダに近づきその膝に頭を乗せる。
ミラルダは優しげな微笑を浮かべ美守の黒くまっすぐな髪を梳く。
「ほんに、かわゆい。わらわはそなたのような娘が欲しかったが、残念ながら生まれたのは愚息だ」
「息子、さん?」
「ああ・・・ああ、そうか。その手があったか」
「??」
ミラルダがにやりと笑い、美守を抱き上げ、膝に乗せた。
まるでペットのような扱いである。
うっとりとミラルダを見上げる美守を満足気に見つめて顎を擽るように撫ぜれば「ふにゅ」と間抜けな声を出している。
しばらくそうやって美守で遊んでいたが、新たなる侵入者にミラルダは微笑みを向けた。
「母上、それではまるでどこぞの悪の組織の親玉のようですよ?・・・羨ましい」
「ちょうど良いところに来たのぉ、アラン。どうじゃ、この娘そなたの妻にしてみては」
「あ・・・」
くいっと顔を見せびらかすように向けさせられる。
そこで目にした男は髪の色こそ違えどミラルダを男にしたらこうなるだろうな、というのがそのまま再現されたような長身の男がいた。
銀髪、と言うには色素が足りない白い髪。
煌く青い瞳はミラルダと同じもの。
がっしりとしており、その体つきは武道に通じる者であることが窺える。
美守の顔をしげしげと見つめたかと思えば親と同じく妖艶な笑みを浮かべ美守の手を取り口付けた。
お嬢様だった美守には日常茶飯事と言ってもよかったため素直に挨拶を受ける。
「美しい方、私は女王陛下が第2子、アランです。以後お見知りおきを」
「私、は神宮寺美守、です。よろしく、おねがい、ですぅ?」
「?」とミラルダとアラン、そして美守は首をかしげた。
「どうしたのじゃ?その話し方は・・・まぁ、かわゆいが」
「ええ、アホっぽくてそそられます」
「え?あ・・・こ、こちらの言葉、覚えた、ばかり・・・・えと、子供、2番目?」
美守がたどたどしく説明すれば「かわゆいのぉ」とミラルダに抱きしめられ、「ずるいですよ母上。次、私に回してください」とアランが手を伸ばした瞬間、ひゅっと何かが飛んできた。
すばやくそれを叩き落としたアランは、あえて無視していた存在にやっと目に留める。
「おや、これはこれは・・・宝石がこんな所に何のようでしょう?こんな穢れた下界に降りられるなんて珍しい。・・・しかもサファイヤではないですか」
「・・・・・」
アランは剣をファイがナイフを構えた。
アランは笑顔、ファイは無表情。
アランはよく分からないがファイが怒っていることが分かった美守はミラルダの膝から下り、刃物を持つファイに激突する。
「ファイ、怒ってる。何で?」
「・・・・」
ファイは無言で美守を片腕で抱きとめ引き寄せた。
アランも、玉座のミラルダも眉を片方器用に持ち上げて見せている。
それほどに、今のファイが珍しい行動をしたのだ。
神域、神殿の犬。
宝石の名を与えられておきながら、ただ1人黒衣を纏う神官。
いつ何時も無表情を保ち任務のみを遂行する。
感情のない神殿の道具・・・だったはずだ。
他人を気遣う動作をするなんてありえない。
「ああ、そうか。守れと命令されたのか?」
「・・・・」
アランが問うが無反応。・・・いつも通りだ。
しかし美守の耳に顔を寄せ、ぼそぼそと何事か呟いたかと思えば何かを握らせて、これまたいつものようにこちらに一礼しそのまま出て行ってしまう。
「あ、ファイ!これ!!」
被せられたままの黒衣を引っ張りファイの消えた方角を呆然と見つめる美守。
しかし、後ろからいきなり抱きすくめられ「ひっ!」と飛び上がってしまう。
「う~ん・・・いい匂い。それに、小さくて可愛いね。背が低すぎるけど・・・壊れないかな?」
「え?え?」
「はっ!早速下世話なことを。・・・ミモリ、産むなら女の子にするのじゃぞ、そなた似のな。もうこの顔はいらん」
「母上に似て美しい顔ではないですか」
「3人も居るからもういらん。それも男ばかり、忌々しい」
「・・・長兄は似ていないでしょう」
アランが言えばミラルダが嫌そうな顔をした。
「似ていてたまるかっ!」と毒づく。
美守はアランに抱きしめられたまま、固まっていた。
ファイにも抱きしめられたり、抱き上げられたりしていたが、ファイはどこか空気のような所があり気兼ねなく付き合うことができた。
光太郎は幼馴染。もう慣れてしまっていた。
しかし、一瞬で美守の憧れの的となったミラルダそっくりの大人の男性に美守は今だ嘗て無いほど心臓が高鳴っていた。
美守は男に対して免疫がまるでない。
いや、人に対してと言うべきか。
いつもいつも光太郎に・・・いや光太郎がべったりだったため。
表では光太郎が笑顔を振りまき、裏では美守に近づく男を隠蔽していた。
と言うわけで知人ならいくらでもいるが、親しい人間は皆無な美守だ。
由緒正しき名門の生まれとして社交界なども恙無くこなす美守だが、アランは抱きしめつつ、体をまさぐっている。
今までは光太郎が近づけもしなかったであろう、男。
経験皆無、知識皆無の美守は何が起こっているのか直ぐに理解することは出来なかった。
「震えて、可愛いね。・・・この服邪魔だねぇ・・・・おや?おや、おやおやおや??」
「ひっ!!やっ・・・やめ・・・ひぃ!!」
「すべすべだねぇ・・・胸、は小さいけど・・・それはそれで」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
ぱちん!と思わずアランの頬を打つ・・・が、アランは虫でも止まったかのように打たれた頬を掻く。
・・・全く聞いていない。
それどころか・・。
「何、今の?もしかして、抵抗したの?・・・いやぁ、本当に可愛いね、ミモリだっけ?」
『や!!こぉちゃん、こぉちゃん!!許容範囲外です!!無理、無理です!!足撫でられました!!胸、触られちゃったよぉ・・・』
「え、ちょ、ちょっと!?泣かないで、ね?ごめんね。ほら、謝るから・・・あ、やっぱり泣いてて?泣き顔もかわい・・・ごふっ!」
さらに美守を抱え込もうとしたアランの頭を煙管が直撃する。
音を立てて床に転がった煙管を拾い上げ、持ち主の方を見れば、凶悪な笑みを浮かべたミラルダ。
ミラルダがすっと手を差し出せば美守は慌ててそちらへ駆けて行く。
ミラルダに優しく抱きとめられ、美守は安心してその豊満な胸に顔を埋めた。
よしよし、と撫でられる。
「すまんのぉ・・・でも3人の中であれが1番マシなのだ。後の2人は・・・まぁ、わらわはお勧めせぬ。特に上の愚息は・・・接触すら持たぬ方が良いな。まぁ、普通に過ごしておれば一生会うことはないから安心しろ」
「え、あの・・・・ミラルダ様・・・私・・・」
「ん?」
「はぅ・・・!」
ミラルダの妖艶なる笑みにノックダウンの美守。
だが、言う事は言わなければ。
「あ、あの・・・ミラルダ様、私、妻、嫌です」
「そうなのか?・・・それは残念だ。養女にしたいところだが、今そんなことをすればすぐさま他国へ嫁がなければならなくなるからな・・・・他国も娘に恵まれず王子ばかりだからのぉ。まぁ、愚息でなくともわらわの近しい者ならばいくらでも好きになってよいぞ。その者を近くに置いておけばそなたも必然的にわらわから離れられんからな」
「え・・・え?」
「それより、先ほどから握っているそれは?」
美守が拳を作ったままだったのでミラルダは拳を解かせた。
出てきたのは石。
ファイが消える直前に美守に握らせたものだ。
白く、淡く輝く石。
この世界に広く伝わる守石だ。
ただの石なのだが神殿の周りにある石でこの世界の者はほとんどと言っていいほど持っている。
この世界は神を重要視する。
この世界には大きく分けて2つの国がある。
1つはミラルダが治める神剣国。もう1つはクラウが治める神盾国。
国名から分かるとおり神の剣と盾。
神官の権限は思っているよりも高い。
聖域はもはや1国として見られており神遣国と呼ばれている。
神に遣える国。
神殿を囲うようにあるその国は神に遣えるためだけにある。
他国に感傷せず武力を持たない・・・ように見えるが、必要な時は神剣国や神盾国に武力の貸し出し要請がくるし、大体のことはサファイヤだけで事足りている。
そんな神を重要視する世界の中心たる神殿の石。
「え・・そ、そんなに、すごかったんですか?」
「それは宝石のことかえ?石のことかえ?・・・まぁ、どちらにしても答えは同じじゃ。どちらもすごくなどない。すごいのは神殿であって宝石たる神官でも、守石でもない。この世界が神を重要視する理由もあの神殿があるが故。・・・そなたも弾き飛ばされたのだろう?何故かわからんが神殿には不思議な力がある。入れない者が居たり、怪我を負った者が直ったり、様々な前例もある。だからこそ、皆神を信じ、神官どもの権限も上がっているのだ。・・・忌々しいことじゃ」
神遣国に住まう神官達は自身を選ばれし者と奢り、神剣国や神盾国を下界と呼び、蔑む傾向にある。
はっきり言ってそのような所と仲良く出来るわけがない。
ミラルダとクラウが個人的に仲の悪いこともあって、三つ巴状態だ。
そのようなにらみ合いが続いていた世界に現れたという、碑文の神の子。
そして、そのおまけのようにくっついて現れたという、少女。
ミラルダは手の中の石を目をまん丸にして観察している美守を見やる。
まっすぐな黒い艶やかな髪に、瞳は青味を帯びている。
顔は小さく唇や鼻は小作りだが瞳は大きく、会ってから今までずっと濡れたように潤んでいる。
声も小さく、よくよく見てみれば小さく震えている。
・・・何から何まで庇護欲を刺激する少女だ。
可愛くて可愛くて、食べてしまいたいほどだ。
美守の髪を弄びつつ、何気なく問う。
「そう言えば何か言われていたのぉ、あの宝石に。なんと言われたのじゃ?」
「え?えと・・・’気休めだ、持っていろ。・・・すぐ戻る’?」
「な、なんじゃと!?」
「へっ??」
ミラルダは舌打ちをして、傍に控えていた近衛に「あやつを呼んで来い!」と命令する。
いきなりの大声にびっくりした美守を苦笑して見つめる。
それまで大人しくしていたアランが近寄ってきた。
「・・・あのファイが自らの意思で?それはまた面妖な」
「ああ、しかも戻ってくるじゃと?・・・いつものように報告に帰ってそのまま留まるとばかり・・・何を考えておるのじゃ」
「母上、それはこちらのセリフです。ミモリのことなら私に任せてください」
「わらわはこの子の嫌がることはしたくないのでな。・・・まぁ、口説くのは構わんが少しでも傷つけたらいくら愚息その2とは言っても容赦はせぬぞ?」
ミラルダの本気を悟りアランは大げさに肩を竦めて見せた。
そうしている間に近衛がある男を連れて戻ってきた。
美守は目を見開く。
「よく来た、リューク。今日からそなたの主はこの娘だ。身も心も全てを守りぬけ」
「はっ」
そこに膝をつくのは金色の髪を優等生風に纏め上げ、紫の切れ長の瞳で美守をじっと見つめる男。
薄い大きな口に通った鼻梁は気品が溢れている。
しかし銀色の甲冑に身を包んだその姿は逞しく、獰猛さすら感じさせるもの。
リュークと呼ばれた騎士であろう男は、今だミラルダの膝に横のりになっていた美守に近づき改めて膝を折る。
「リューク・デストーニです。本日この時をもってあなたに使えますことをお許しください」
流れるようなリュークの動きに美守は見惚れた。
だって、まるで・・・。
「・・・王子様みたい」
美守がぼそっと呟けばミラルダが豪快に笑った。
「え・・・王子様は私だよ?」とアランが自身を指差しているのは聞こえない。
ぼけっとリュークを眺めていると本人と目が合い、優しく微笑まれた。
その笑みは光太郎が美守に向けてくれるものと、とてもよく似ていて思わず笑みを返していた。
そんな美守を見て、リュークは頬を染め、アランは目を見開いた。
ミラルダは3人を見て満足気に微笑む。
跪いたままのリュークを見て、ミラルダは美守に囁くように告げる。
「許す、と言っておあげ・・・でないとリュークはその場から動けない」
「あ・・・は、はい。えと、リュークさん、許します」
美守が言うと、リュークははっとしたように表情を改め、美守の手を取り口付けた。
「ありがたき幸せ。この身が果てるまで、あなたを守り抜くと誓います」
『美守、俺が絶対守ってあげる』
(こぉちゃん・・・)
リュークと光太郎が一瞬ダブって見えて、美守は泣き笑いのような表情でリュークを見つめた。
一言、ありがとうございます!
作者がレス機能を使いこなせていないため、アイタタなんですが、すごく励みになります!!嬉しいです!
書こう!って言う気になります・・・あれ?乗せられてる??




