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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅲ:狂気の螺旋
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第27話

 こぽり、こぽり。

 まるで母親のお腹の中にいるような安心感。

 ゆらゆら、ゆらゆら。

 まるで揺り籠の中にいるようなまどろみ。 


 ふわふわとした感覚。

 

 自分が誰なのか、何なのか、それすらも分からない。


 ただ、漂うだけの存在。


 

 ふと、見えた景色がある。






 とても切なそうに顏を歪めた青年。

 

 その青年を見た瞬間、心臓がずくんと大きく締め付けられた。

 そして、分かった。

 これは、私のモノだと。

 

「愛しています……あなたを、あなただけが」


 青年がぎゅっと私の手を握りしめて項垂れる。

 膝を着き、私に縋り付くように大声で泣き叫ぶ。

 

「……寂しかったの?」

「はい」

「辛かったの?」

「……はいっ」


 私はその青年の涙で歪んだ顔を両手で包み込み、上を向かせる。


「……一人で、怖かった?」

「……っ! はいっ……!」


 震える青年を抱きしめれば、まるで幼子のように抱きつき泣く。


「ねぇ、もう一度言って……?」

「っ……」


 そう、耳元で囁けば青年はブルリと震えた。


「あ、なたが……あなたを……あい、して、います」

「ああ」


 恐怖に顏を歪ませた青年の告白に歓喜する私の魂。


「おいで」


 力なく項垂れた青年の手を引き、抱きしめ、私の腕の中に囲い入れた。











「あなたをお待ちしておりました」


 気の強そうな少女。 

 まるで騎士が仕える主を出迎えるかのよう。

 キリリと締まっていた顏が私と目が合った瞬間崩れ落ちた。

 

 まただ。

 

 これも私のモノ。


「愛しています」

「ああ」

「愛しています、愛しています」

「ああ……分かっているよ」


 両腕を広げれば少女はすんなりとその腕の中に収まった。

 まるで母親に縋り付く幼子のよう。

 

「もう二度と離れません」


 決意を固めた射抜くような視線に、魂が歓喜する。


「いいだろう……」


 強く少女を抱き込んだ。










 どろどろと、渦巻く感情がある。

 それは「欲」。

 

「ほしい」


 全部、全部欲しい。

 



「太陽と月が交わりし時、聖なる土地より手を伸ばせ

 さすれば我の加護を受けしおのこが世界に降臨す

 おのこは我と世界の架け橋となる

 おのこの意思により我が動く

 おのこは我

 我はおのこ

 人の子ら

 おのこを助け、おのこを守り、おのこを讃えよ」



 あらゆるモノの力が強まり、奇跡が起こりやすい瞬間。

 私のモノを保護し、守り、私の元へと導くのだ───。

 さすれば代償に、豊かな土地を与えよう───。


 




「愛しています、我が君」

「あなただけが私の愛しい人」

「愛しています」

「離れたくない。ずっと、お傍に」



 足りない。

 まだ、足りない。


 歓喜するもの、恐怖するもの。

 反応は様々だ。

 

 あらゆる者達に愛され、求め続けられた。


 増えれば増えるほど、欲求は強まる。

 今までなかった自我が芽生える。

 

 もっと、もっと欲しい。

 何かが足りない。

 何かが欠けている。





 そして……見つけた。


 最後の一人───!!



「私の、光太郎───!」


 私のモノ。


 

(ちがう)



「愛しているよ」


 宝物を見つけた子供のような表情。


 今までと同じ、母親を見つけた子供のような顏。


(今まで見た事もない、無垢な子供のような顏)


 

 ただし、今までと違う事が起こった。


「愛しているよ? ……フローディア」


 にやりと笑う、その笑みに宿るは───狂気。


「ねぇ……フローディア? ……君は?」

「え……?」


 かつて、女神に見返りを求めた神子がいたであろうか?


「……もちろん、わらわも光太郎が愛おしい」

「ふぅん?」


 こんな、高圧的な神子がいたであろうか?


「じゃあ、ちゃんと言ってみて」


 ぐいと顎を掴まれて目を合わされる。

 そこにあるのは私が───フローディアが求めてやまない「自分のモノ」。

 

「あいしている───」

「ああ」


 言葉を発した瞬間、何かが抜け落ちる感覚。

 それと同時に頭の霧が晴れたかのよう。

 

「あ、あいして、る……」

「うん」



 抜ける、欠ける、無くなる……。

 

 何だろう……?

 愛している。

 それはまぎれもない事実。

 その感情に喜びさえ覚える。


 でも、でも。


 光太郎が恍惚し、フローディアを見下ろす。


「……どうしたの? フローディア。……さぁ、もっと言ってごらん」

「っつ!」


 喪失感、憎悪、憤怒……歓喜、恋慕───ありとあらゆる”感情”がフローディアを襲う。

 そして分からなくなった感情に、それを起こした原因に……恐怖する。


「あ……い、やだ! くるなっ!」

「はは、どうしたの急に」


 怯え、恐怖する。

 逃げなければ。

 ただ、それしか頭になかった。



(……今までと、逆になった)


 フローディアが不安定になればなるほど、頭が晴れていく。

 自分の存在も──名前も思い出せる。


 そして。


(……こぉちゃん)


 にこにことフローディアを追いつめる、幼なじみ。


(光太郎、お兄ちゃん)


 フローディアの中でフローディアの過去を見た。

 

 知ってしまった、理解してしまった。


 

(……)


 優しくて、かっこ良くて。

 何でもできる、自慢の幼なじみ。

 兄のような存在。


 泣きそうだった。

 

 光太郎が何をしようとしているのかが分かる。

 

 フローディアは混乱しているし……光太郎がフローディアに下らない限り気づく事はないだろう。

 



 フローディアの狂気に負けて、自分の心の弱さに負けた。

 自分なんて、もういらない……と思った。

 でも、でも。




(私は……神宮寺美守)


 神宮寺家の一人娘。

 その誇りを忘れてはならなかった。

 光太郎が真綿で包むように護っていてくれたから。

 甘えてばかりだった。

 一人で、自分の脚で立たなくてはならない。

 護ってもらってばかりのお姫様ではいけなかったのだ。


(それじゃあ、なにも護れない)


 もう、手遅れかもしれない。

 自分勝手かもしれない。

 それでも、護りたいと思えるものができた。


 

 クラウは選べと言った。

 

 でも、どちらも選べないから。

 私は私の道を行く。


 それがどのような結果を起こすのか全く分からないけれど。




「私は───神宮寺、美守」


 私は、自分を取り戻したから───。

  

   

  

 


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