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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅲ:狂気の螺旋
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第23話(女神視点)


『…………ふ、ん』


 ふわふわと浮くフローディアの真下には裸で寄り添うようにしている恋人同士がいる。

 これが光太郎の望む愛と言うものかとじろじろ観察してみると、確かに寝顔は穏やかで幸せそうだ。

 

「んん……クラウ様ぁ……」

『……』


 眠っているにも関わらずほにゃりと顔を綻ばせ、男に擦り寄る女。

 男は女のそんな些細な行動に答えるように、女を抱く腕を強めた。

 女は完全に夢の中だろうが、男の眠りは浅いようだ。

 フローディアは最新の注意を払い、空気に近い存在に変化した。

 

『これが、人間の愛の営み』


 光太郎はこれがしたいのか。

 

 この女の中に入るのは嫌だが、光太郎の願いなのだから仕方が無い。

 フローディアは女……美守に重なるようにして美守の中に入った。


「む……動けぬ」


 美守をがっちりと抱いているクラウの腕が邪魔をして身動きが取れない。

 生身の人間はこれだから面倒だ、などともがいているとクラウが薄目をあけて美守を……フローディアを見た。

 どきり、と心臓が跳ねる。

 

「なんだ、眠れないのか」

「む」


 どう答えたものか、と困惑するがクラウも夢うつつ状態らしく「眠れ」と短く言って美守の身体をふわりと包み込んだ。


 温かい。


 その体温につられてクラウの背に腕を回せばさらに温かくなった。

 

「……ふむ」


 急に美守に入ることが良いことのように思えてきた。

 この温かさを光太郎と共有できるのだから。

 そう思えば、行動は早い。

 先ほどまできつく抱きしめていたクラウの腕は柔らかく包み込むようなものになっている。

 すり抜けるのも簡単だ。

 

「……ん?」


 簡単だと思われた行為が出来ない。

 クラウに回した腕が動かないのだ。

 

 フローディアが入ったにも関わらず、身体が言う事を聞かない。

 

 その事実はフローディアをイラつかせた。


 (……この娘、まだ意識が残っているのか? まさか)


 そんなことはありえない。

 だが、実際に腕は頑として動かない。

 

「人間風情が、なんと生意気なことか」


 ぶわ……と体内に神気を発生させれば腕は言う事を聞いた。

 内側から、悲鳴が聞こえる。

 罵声を発しそうになったが、するりと離れた体温にクラウが気づき、身じろぎをしたため、急いで窓に脚を掛けた。

 この身体でも飛ぶくらいはできる。


 勢いよく窓を開け放ち、飛び降りるようにして空へ。


 遠くでクラウの悲痛な声が響いていたが、新しい身体を手に入れたフローディアにとってそんなことはどうでもよかった。 




++++++



『やめてやめてやめてっ!』

「ええい、うるさいわっ!!」


 内側から聞こえる声にフローディアは罵声を発した。


「……美守? どうしたの、急に」


 たった今体温を分け合った愛しい光太郎が訝しげに見下ろして来る。

 言葉遣いを間違えた、と取り繕ったように笑う。


「なんでもないよ、こぉちゃん」

「そっか」


 美守のように笑い、美守のように話すと光太郎がとても嬉しそうに笑う。

 それが自分に向けられているとフローディアは信じて疑わない。

 

 なぜなら、それはフローディアが見慣れた顔だったから。


 






 それは百年前のこと。


「フローディア」


 フローディアを愛して止まない青年。

 フローディアもまた、青年を愛し、受け入れた。


 それは二百年前のこと。


「フローディア様」


 フローディアを愛して止まない少女。

 フローディアもまた、少女を愛し、受け入れた。


 三百年前も四百年前も。


 皆、フローディアを狂おしいほど愛し、求め、傍にあり続けることを自ら望んだ。


 






「……美守?」

「え?」


 過去を思い返していたフローディアは光太郎の呼びかけに疑問を返す。

 光太郎は何度もフローディアのものとなった艶やかな黒髪を撫でる。


「何か、悩み事?」


 光太郎の声が、表情が優しくて、嬉しくて、愛おしい。


「……こぉちゃんは、今までの子達と違うなって思って……!」

「……」


 今までの神子たちと違い、光太郎はフローディアの傍にあり続けることを望まない。

 その疑問を口にした途端、優しい笑みを讃えていた光太郎の表情は削げ落ち、目は冷たい冷気を帯びる。

 フローディアは怯えた。

 

「ご、ごめんなさいっ! なんでもないの……」

「そっか。……ごめんね、もしかして疲れてる?」


 くすくすと色気のある笑みを浮かべた光太郎に赤面しつつも安心する。


 こんな感情は初めてだ。


 光太郎は確かに自分のものだという確信がある。


 なのに、光太郎はフローディアを拒絶することがある。

 先ほどのように突き放すことがある。

 全てがはじめてのことでどうすればいいのか分からない。

 光太郎は、フローディアのものなのに。

 

 確かに、自分のものなのに。


 フローディアは光太郎が怖かった。

 しかしそれ以上に、光太郎が離れるのが怖かった。


 だから、必死になる。


「こぉちゃん……好きだよ」

「……」


 こんなにも光太郎を求め、一つになりたいと望んでいる。


「好き……」

「……もう、夜も遅い。目を閉じて……おやすみ」

「……おやすみなさい」


 今までと、違いすぎる。


 フローディアは困惑する。


 






「愛している、フローディア」


 涙を流し、腕を伸ばしてきた青年。


「愛しています、フローディア様」


 涙を流し、伸ばされた腕にゆっくりと目を閉じ受け入れた少女。

 







 光太郎は言葉をくれない。

 愛していると、言ってくれない。


 今までで、一番深く交わり、深く愛し合っているはずなのに。


 皆、溢れ出る思いを涙に乗せて伝えてきた。


 皆、とても嬉しそうに微笑んでいた。


 皆、フローディアしか眼中になかった。



 それは光太郎も同じはずなのに。


 光太郎はそれらの感情を否定するようにフローディアを’美守’と呼ぶ。




『ここから出して』

(うるさい)

『身体を返して』

(うるさい)

『あなたは、私の身体を使って何をしているの?』

(うるさいっ!)

『きゃっ……!』


 内側で巻き起こる神気の風に、’美守’は小さくなっていく。

 しかし、それは一時的に小さくなっただけ。

 美守はいなくならない。

 





 しかしそれは美守の身体に入って一年後、一変する。






 神盾国国王・クラウ。





 顔を見ただけで、心臓が鷲掴みにされる思いだった。

 いつにない内面の反応に興味が出て、入れ替わってみる。



 それは瞬時に後悔することなった。



 一年と言う歳月を重ね、美守の存在は小さくなったはずだった。

 でも、クラウと対自する美守は強く……しぶとい。

 


 しかし後悔は期待へと変化する。



 一年前、褥で優しげに美守を見つめていた瞳はどこにもなかった。

 きりきりと、まるで心臓が削られていくよう。

 

 宛がわれた自室に戻り、崩れ落ちるようにして寝台で泣き叫ぶ、弱った美守と入れ替わり、帰ってしまった光太郎の下へ。

 また、朝になれば神盾国へと戻り、クラウと接触したところで入れ替わる。

 どんどん小さく希薄になっていくくせに、消えない美守が邪魔で邪魔で仕方が無かった。



 

『っ!!! はっ……! な、んだ、これはっ……! い、きが、出来ないっ!!』



 初めて、’死’を’消滅’を意識した。

 

 神たるわらわにも死があるのか、と恐怖した。


 しかし。


(…………?)


 目の前に、床。


 どうしたのか、と目を動かせば’美守’が動く。


 ────入れ替わっていないのに、フローディアは美守になった。

 



 感じたのは、歓喜。




「ふ、ふふ……ふふ……は、あはははははははははははははははは!」



 駆け寄って来る人間を蔦で縛り上げる。


 こんなに愉快なことはない。


 やっと、消えた。














「光太郎」


 もう、この国に用は無い。

 

 すぐにそなたのもとに。
















 


 

 




 





 

 


えー……少女、と出ていて碑文と異なりますが、それは後々書きますので。

けして間違いなどでは! 汗

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