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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅱ:再会と執着
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第17話


 無造作に伸ばされた腕を避けるため後ずさる。

 美守の警戒をよそに伸びて来るダイヤの手は、美守に触れる前にリュークによって阻まれた。

 ダイヤがすぐに振り払う。


「……触れないでもらえませんか?」

「汚いとでも言うつもりですか? まぁ、今更あなたにそのようなことを言われたとしても痛くも痒くもありませんが」

「ああ、何でしょうね。虫でもいるんでしょうか」


 手で顔の周りを払うようにしているダイヤ。

 リュークは白い目でミラルダを振り返った。


「……陛下」

「いい、何も言うな」

「あれ、陛下の息子ですよ。それも一番大きい」

「わらわには息子は二人しかおらん」

「へい……」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! うるさいっ! いい年した男が子供みたいな幼稚な行動をしおって!! 俗世を捨てたからと言ってもそなたは元・わが国の第一王子なのだぞっ!! 国の、わらわの沽券に関わるのじゃっ! その残念な頭を何とかしてからこい!」


 ぜーはーと肩で息をするミラルダがお腹を痛めて産んだはずの第一子はその名を捨て、ダイヤの称号を得た。

 信仰心が人一倍強く、思い込みの激しい……激しすぎるダイヤ。

 神こそ全て。神こそ我が生きがい。

 イコール……神以外は目にも入れたくないほど汚らわしいものだと思っている。

 ただ例外として神殿に認められた者は神に認められた者として認めていた。

 すなわち、己自身と宝石たち。

 

「……えと、ナルシスト?」

「どう言う意味かは分かりませんが、侮辱されているような気がします。……ああ、どうして私がこんな汚らわしい存在を妻に迎えなければならないのか……」

「……陛下、どうかこの場で剣を抜く許可を」

「……そうしたいのはやまやまだがな。神官に刃を向けることは禁じられておる」


 ぶるぶると怒りを静めるために震えるミラルダとリュークをよそに、美守は首をかしげた。


「……神官って結婚できるの?」


 そう美守が言った瞬間、美守はリュークの腕の中にいた。

「え?」と思って見上げれば、リュークは美守を見ておらず、ダイヤから距離を取るように後ずさっていく。


「結婚できるか、だと!? 貴様は私を汚らわしい奴隷と同列に扱うつもりかっ!? ああ、このような娘、我が君の執着さえなければ今すぐに殺してしまうものをっ……!」


 さらりと揺れる銀髪を掻き毟り、怒りを静めようとしているダイヤ。

 ダイヤと美守の間にミラルダが入り、ダイヤの動きをただ見つめる。

 神を崇め、信仰するこの世界にとってどれほど神官の言葉が重いか、どれほどの力を有しているか。

 普段お互いに不干渉なだけに、その言葉は絶対なのだ。

 神遣国に刃向かうは、天に刃するも同じ。


 尋常ではない二人の反応に戸惑う美守にリュークは耳打ちをする。


「確かに、神官は神に遣える者、神の奴隷ですが基本婚姻を結ぶことができます。身の穢れと婚姻しない者もいますが、血を残し末永く神にお遣えするという考え方の方が強いんです」

「え、でも奴隷って……」

「ダイヤ……様の言っているのは宦官のことでしょう。宦官とは基本奴隷や罪を負った者がなるものですから」

「か、宦官……」


 視線が下に下がりそうになるのをなんとか押さえ、はしたない、と真っ赤になる。

 しかし。

 いらいらとしているダイヤを見つめ、言葉を発する。

 美守はこの世界の人間ではないから。神など、知らない。


「私、あなたと結婚なんてしません」

「あなたの意見など聞いていませんよ。我が君があなたを望んでいる。しかしそれが出来ないのでせめて傍に、と」


 我が君、と言う言葉を聞いて目を見開きダイヤを見据える。


「こぉちゃんが、そう言ったの……?」

「こっ……! 馴れ馴れしいにもほどがあるっ! お前のような……」

「言ったの?」

「我が君がお前のような下等生物と私を? そんなわけないでしょう。苦しんでおられる我が君の力に少しでもなろうと私自ら……」

「やっぱり」


 光太郎がそんなことをするわけないと美守は信じている。

 だから、光太郎の言葉を偽ろうとしたダイヤを睨みつける。

 

「紛らわしい言い方をしないで下さい」

「……ああ、殺してしまいたい」


 見えない火花が二人の間に散る。

 ミラルダとリュークはそんな美守を見て、驚きを隠せないでいた。

 いつもの美守なら、リュークの背中に隠れて震えるはずではないのだろうか?

 なのに美守は今、ダイヤと対自し、なお睨み続けている。

 お披露目から、知らない美守の連発だ。


 

 それもそのはず。

 パーティーは自分を偽ってでも完璧にこなすものだと美守は思っている。

 そして光太郎のことは譲れない。

 光太郎のことなら自分が一番知っていると自負しているだけに、ダイヤが光太郎を神視し知ったかぶりをするのが勘に触るのだ。

 許せないと言ってもいい。

 こう言う言い方は、光太郎を追い詰めると思った。

 多大な期待は迷惑なだけだ。

 その期待に押しつぶされそうになる。

 自分がそうだから、光太郎に同じ思いはして欲しくなかった。


「仕方ないでしょう? 本来なら神官として迎え入れたいかったのですが……。拒まれてしまいましたしね」


 嘲るような笑みを向けられても美守には痛くも痒くもない。

 だって、そんなこと望んでいないから。 

 睨みつけるくる美守を忌々しげに見つめ、ふんと鼻を鳴らす。


「……まぁ、構いません。あなたなど居なくとも我が君の心の憂いを払うことは私の役目ですから。寧ろあなたなど近づけたくなかったので」

「……なら何故来たのじゃ」


 偉そうに言って踵を返そうとしたダイヤを引き止めたのは、なんと美守だった。


「憂いって何?」

「あなたには関係ありません。では……。っつ!! 触るなと言ったでしょう!?」


 駆け寄った美守を振り払おうとする。

 自分から触れるのは我慢できるが、相手から触れられるのは我慢ならない。


「憂いって何? こぉちゃん、どうかしたんですか。答えてください」


 表情を消して問う美守にダイヤは渋々ながらも語る。


「我が君は今、大変憔悴なさっています。以前に比べ食事もなさらず、夜も満足に眠らず……。あなたのような存在でも同郷の者が居れば少しは気休めにはなるのではないかと思ったのですが、まぁ一つの策に過ぎないので別に構いません。……いい加減に離してくださいませんか? 汚らわしい」

「……」

「では」


 美守が手を離しゆっくりとそれを下ろせば、ダイヤは掴まれていたローブを奪い取るようにして翻し、そのまま扉の向こうに消えてしまった。

 その後姿に呆れたようにミラルダとリュークが肩の力を抜いた。


「なんだったんですか、あの人は。いつもながら言いたいことだけを言って帰られましたね」

「……相変わらず意味のわからんやつじゃな。一体何をしにきたのじゃ……。どうでもいいならこのような書類までこさえてこずともよかろうに」


 ひらひらと書類を振ってそのまま書類を離し、ナイフを投げつけて壁に突き刺した。

 うむ、と満足に頷いたミラルダは得意げに美守を振り返った、が。

 美守は俯いたままでミラルダの行動を少しも見てはいなかった。

 むっとして美守の頤を掴み上を向かせた。


「なんじゃ、その顔は。嫌味なやつが帰ったのだぞ? もっと喜ばぬか。ほれ、笑え」

「むにゃ!」


 ぐいぐいと口角を持ち上げられて今まで自分の思考の中に沈んでいた美守は驚いてミラルダの腕を掴んで止めさせようとした。

 しかしなかなか離してもらえず、じわ~っと涙がにじみ始めたその時。

 がばっ! と抱きつかれた。

 いつもの窒息コースだ。


「ああ、笑った顔もいいがやはりそなたは泣き顔が一番そそるのぉ……。愛い奴、愛い奴!」

「む!? ぅぅぅぅむぅ~~~!!」

「へ、陛下! 病み上がりのミモリ様になんてことを……!!」

 

 傷は塞がり快方に向かっているため問題はないだろうが、一応病みあがりなので久しぶりのぎゅーに美守もあっぷあっぷだ。

 リュークがミラルダを無理やり引き離す。

 ぷは! と息を吸い込む美守はやはり涙目で。

 それを見てミラルダは満足気に、リュークが少し顔を赤らめていることには気づかない。

 いつもの風景が戻りつつあったそのとき、ミラルダがはっと何かを思い出す。


「そう言えば! ダイヤのやつがいきなり来るから忘れておったがもう一つわらわの元に手紙が来たのじゃ」

「……? え、え? ミラルダ様、お顔が怖いですよ……?」

「そなたのせいでもあるからの」

「私の?」


 首を傾げると、ミラルダが胸の谷間から手紙を取り出した。

「……なんてところに閉まっているんですか」とリュークが小言を漏らすがそれは見事にスルーされた。

 美守の眼前に突きつけるようにして手紙を前に出した。


「これじゃ! これ!! そなた、いつあの守るしか脳のない盾の国のボンクラにそそのかれたのじゃ!? これは騙されただけ、そうじゃな!?」

「……え? …………ええと、ミラルダ様。まだ習っていない言葉があるので読めません……」


 会話には支障は無くなったが、文章はまだ完璧には覚えきっていなかった。

 困ったように言えば近すぎる手紙をリュークが「失礼」と言ってミラルダから取り上げた。

 目を通すうちにどんどん目を見開いていく。

 そして手紙を下に下ろすと、困ったような顔をして美守を見た。


「……おめでとうございます、と言うべきなのでしょうが……。もちろん、私も連れて行ってくださるのですよね?」

「えと、どこに?」


 そう言えば、ミラルダは「ああ、それもいいかも知れんな。しかし……」と顎に手を当てて唸る。


「……リュークもつけて邪魔をさせるか? いやしかしそれでは認めてしまったも同然じゃからのぉ……。いやいや。やはりリュークかアランあたりに先に……」

「陛下、私は命令されたとしてもミモリ様の意思を尊重いたしますので」

「えと、だから何?」


 美守は訳がわからず疑問符を浮かべるばかりだ。

 まだなにやらぶつぶつと言うミラルダに代わってリュークが答える。


「この手紙ですが、クラウ陛下からのものです」

「え……。クラウ様から?」

「ええ。……その顔ということは同意の上でしたか。ではやはりおめでとうございますと言うべきなのでしょうね」

「ええ?」


 その顔、と言われて自分の頬を覆う。

 クラウ、と聞いて心が浮き立ってしまったのだ。

 それでも内容がわからず首を傾げる。


「この短期間でここまでしてしまうとは……他国の王ながら、感心してしまいそうですね」

「りゅーちゃん、いじわるしないで教えてよ……」


 むっと頬を膨らませば、リュークは「すみません」といって笑う。

 そして手紙を美守に渡した。


「そこにはクラウ陛下とミモリ様が契りを結ぶことが書かれています」

「……契り?」


「なんの?」と首を傾げればリュークがとても優しい顔を美守に向ける。

 光太郎にそっくりな、優しい優しい笑顔。

 まるで手のかかる妹の言う事を「しかたないなぁ」と言って頭を撫でるよう。





「ご婚約、おめでとうございます。ミモリ様」

「ええ!?」





 いろいろと一気に物事が進みすぎて頭がついていかなかった。

 



 

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