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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅱ:再会と執着
16/29

第16話


 覚醒する意識の中、初めに目に入ったのは大きな肉の塊。

 うっと息が詰まる。

 

「ようやっと目を覚ましよってからにっ! 待ちくたびれたぞ!」

「おい、離せ! 窒息するだろう!?」


 視界が開けて美守の呼吸器官をふさいでいたものもなくなる。

 はっと息を吸い込むが上手く吸えなくて咳き込んだ。


「落ち着け。無理に吸おうとするな。息を吸うのではなく、呼吸を整えるつもりで……そうだ」

「く、らうさま」

「なんだ」


 手を伸ばせばすぐにそれが握られて安心する。

 にこっと微笑めば、クラウは眉をひそめたまま口だけで笑ってみせた。

 しかし、にゅっと隣から伸びてきた腕に美守は掬い取られるように抱き寄せられた。


「なんじゃ! わらわに無断で見つめ合うでないわっ! ……大体、何故そなたまでここにおる! 男は出て行けっ!」

「貴様の頭は腐っているのか!? そのように乱暴に引き寄せたら傷が開くだろう!?」


 クラウが焦っていうが、ミラルダは美守を離さない。

 そして、美守はクラウが言うように腹に鈍痛を感じていた。


「! 本当に開いてしまったではないかっ!! ……これだから剣の国はっ」

「ふん。盾の国のように軟弱な奴はおらぬのでな。怪我など食って寝れば治る」

「貴様ら野蛮人と一緒にするなっ!!!」

「あ、あの……ミラルダ様、苦しいです」


 美守が苦し気に言ってやっと渋々と離すミラルダ。

 それはお気に入りのおもちゃが壊れて、修理に出すときの子供を連想させた。

 痛くて、意識が朦朧とする中、美守はそんな考えに浸って薄く笑った。


 その笑みが気に入らなかったのかクラウが思いっきり顔を顰める。


 それでも美守が楽な体勢になるように手伝い、てきぱきと包帯を取り替える。

 恥ずかしい、と思ったが抵抗する気力もない。

 当て布が外された時、自分の腹に穴が開いているのを他人事のように眺めた。

 

「……お前は三日も目を覚まさなかったんだぞ」

「……そ、んなに?」


 声を発すればその振動が身体に伝わって痛かった。

 でも、聞かずには居られない。


「こぉちゃん、は?」


 そう聞いた瞬間、ミラルダとクラウの二人ともがぴたりと止まった。

 どんどん顔を険しくしていく二人を見て不安がどんどん膨れ上がる。


「こぉちゃん、帰っちゃった?」


 掠れる声で、それだけ確認すればクラウがこくりと頷いた。

 ミラルダは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「あやつら、慌てて帰りおったわ。そなたを見舞いもせずにな」


 そう、と吐息のように返事をして目を閉じた。

 

 あの時。

 光太郎の温もりに包まれながら、とても美しい顔をした女の人を見た。

 怒り狂った顔。

 美人が怒ると怖いというが、まさにその迫力は想像を絶するほど。

 ばっと離れた光太郎の顔は苦しげに歪んでいた。

 

 はじめてみる、光太郎の顔。


 いつも優しく微笑む光太郎のあんな苦しげな顔を美守は知らない。

 光太郎に、そんな顔をさせる何かがあるなんて、思いもしなかった。


「こぉちゃん、泣い、てた?」


 苦しくて、苦しくて。今にも泣き出しそうな顔。

 もし、光太郎が泣いているとすれば……。

 

「神子が泣くだと? ふん。泣くどころか、高笑いしておったわ。しかもすぐに『ダイヤ、帰るぞ』と偉そうに言って帰ったわっ!!」


 ミラルダが怒って言ったが、美守はほっと息を吐く。


「よかった」


 言葉に出したのは失敗だった。

 ミラルダがきっと美守を睨む。


「何がよいものか! そなたはあやつに刺し殺されそうになったのだぞ!? わかっておるのか!?」

「こぉちゃんじゃありませんもの」

「どう考えても! あやつしか考えられんだろうが!」

「……こぉちゃんが、そんなことするわけありません」

「~~~~~! この分からず屋がっ! もうわらわは知らんっ! 勝手にするがよい!」

「ミラルダ様」


 ふん! と鼻を鳴らしてどすどすと部屋を出て行ってしまったミラルダに苦笑する。

 きっと凄く心配をかけたに違いない。

 それが、一人の人間としてではなくとも。

 あんな言い方をするべきではなかった。


 少し後悔して、目を閉じる。

 ずきずきと傷が痛んだ。


「刺されたのが氷の柱だったのが幸いしたな。すぐに血が止まっていたんだ」


 表面が固まって。とクラウの低い声が響いた。

 その小さな振動が、美守の身体にじんわりと染み渡る。

 腹の痛みとは違う、心に響く、その音。

 

「……心臓が、止まってしまうかと思ったぞ」


 もっとその声が聞きたい。


「お前が、死んでしまうのではないかと恐怖した」


 もっと、もっと。


「よく、頑張ったな」


 優しく美守の頭を撫でるその手が心地良い。

 頬に流れてきた手の動きにそって、薄っすらと目を開ける。

 予想以上に間近にクラウの顔があって息を呑んだ。

 ゆっくりと近づく唇に、開いたばかりの目をゆっくりと閉じる。


 甘い、感触。


 美守の存在を確かめるように、何度も啄ばむその唇がくすぐったかった。

 美守に負担をかけないように覆いかぶさってきたクラウを見上げ、美守は今に酔った。

 ミントのような清潔な香りがしてくすり、と笑ってしまう。

 クラウらしい、そう思ったから。

 直接触れられている訳でもないのに、身体があたたかい。

  

 しかし、そう感じたのもつかの間。

 

「国に帰らねばならない」


 そう、唐突に言うクラウに美守は目を開き、信じられないものを見るようにクラウを見上げた。

 困ったように笑いながら美守の頬を撫でる。


「俺は王だ。これ以上国を空けることはできない。……本当ならお前を連れて帰るつもりだったのだが……この傷ではな。動かすのは得策とは言えない」

「……!」


 ぎゅっとクラウの腕を握り、不安気に瞳を揺らした。

「そんな顔をするな」と言って瞼にキスが落ちる。


「すぐに、迎えに来る。だからお前も早くその怪我を治せ。今のままでは国を超えられない」

「いや」


 おいていかないで、と懇願すればクラウは顔を顰める。

 はっとして腕を離すが、クラウは更に顔の皺を深くした。

 じわりと涙が浮き上がる。


「や、優しくしてくれるって言ったのに」

「十分優しいだろう」

「もっと」

「……我侭なやつだな」


 顔は怖いままだが、与えられる口付けはどこまでも優しかった。

 でも。


「笑って」

「…………」


 ぴくっとクラウの顔が引きつる。

 クラウが時々優しく笑ってくれるのが、好きだから。

 笑顔が、見たい。

 涙目でじっと見上げていてもクラウは眉間に皺を寄せたまま。


「……注文の多いやつだな」


 ぴくぴくと顔の筋肉を引きつらせるようにしているクラウはもしかしたら、意識して笑ったことがないのかもしれない。

 それでも何とか笑おうとしてくれているのはわかる。


「もう、いいです」

「……そうしてもらえると助かる」

「笑わなくていいから、行かないで」

「……」


 さっきは無理だったくせに、困ったように笑うクラウが恨めしい。


「傍にいて」

「俺には責務がある」


 答えなんて分かっていたけれど。

 誤魔化しもせず、美守の甘えを一刀両断する。

 それでも、甘えたことを言ってしまう。


「……じゃあ、一緒に行く」

「駄目だ」


 拗ねて顔をぷいっと背ける美守にクラウはため息を吐いた。


「俺だって、連れて行けるものなら連れて行きたいんだ。……すぐに迎えにくると言っただろう。それまで我慢しろ」

「……」

「お前は身体を癒すことだけを考えろ」

「……」


 偉そうに(実際偉いわけだが)言うクラウにまたふて腐れる。

 

「……優しくしてくれるって」

「優しくしている。甘やかしていないだけで」

「……むー」

「またそれか」


 ふっと笑って美守の頭を撫でるクラウは十分甘い。

 美守だって本気で言っているわけではない。ちゃんと理解している。

 それでも、寂しいのだ。


 光太郎がいないのに、クラウまで居なくなるなんて。


「ミモリ」


 肩をぎゅっと握られて、クラウを見上げれば先ほどまで笑っていたはずのクラウはとても真剣な顔をしていた。

 まっすぐな蒼い瞳が美守を射抜く。



「俺が好きなら、神子のことは放っておけ」

「……?」


 意味が分からなくて首を傾げればクラウは立ち上がる。


「その気もないのに、優しくするな。甘えるな」

「クラウ様?」

「それが招くのは、依存と執着だ」

「……」


 何が言いたいのかわからない。


「お前は、俺のものだろう?」


 そう聞かれて、ぼん! と真っ赤になる。

 そ、そうか。私はクラウ様のものになったんだ、と今更ながらに自覚した。


 そんな美守の反応にクラウは笑って、美守にちゅっと軽くキスをする。


「……覚えておけ。お前は俺のものだ」

「私は、クラウ様の……」


 かぁぁぁ~っと体温があがる。

 頬にキスをされる。


「……俺も、ミモリのものだ」

「クラウ様が、私の、もの?」

「そうだ」


 どうしよう、嬉しい。

 目の前にいる、この人が私の……。


「お前の優しさも、甘えも。心も身体も、全てが俺のものだ」

「じゃ、じゃあ、クラウ様も、ですよ?」


 おずおずとそう尋ねれば、クラウはにっと笑う。

 美守の唇を奪って颯爽と去っていった。















 +++++++











 クラウが自国に戻って間もない頃。

 リュークとおしゃべりをしていたところへ、ミラルダが青ざめた顔で入ってきた。


「ミラルダ様? 顔色が……大丈夫なのですか?」


 心配して訪ねても、ミラルダは何も答えない。

 しばらくそうしていたかと思へば、ぶるぶると震えながら細い声で話し出す。


「美守。今すぐ逃げろ」

「ミラルダ様?」

「いいから! 早く!! リューク、急げ!」


 追い出すような勢いにまだ傷の癒えない美守をリュークが庇う。


「陛下、落ち着いてください。一体何が……」

「長男が帰ってきたのだ!!」

「えぇ!?」


 慌てる二人に美守は訳がわからずに首をかしげおろおろとする。


「しかも、神殿からこのような書状を持ってっ……!!」

「こ、これは……! じょ、冗談でしょう!?」


 書状を見せられたリュークも一気に青ざめ、美守を見た。


「ど、どうしたの?」


 切羽詰ったような二人に詰め寄られて、どうしたら良いか分からずに二人を交互に見つめていたら、聞き覚えのある声が響いた。






「なに、大したことではありません。あなたと私が夫婦になるだけです」





 

「……は?」





 ぽかん、と見あげる美守を見て忌々しげに舌打ちした、長い白髪の美しい、男。




「あなたは相変わらず汚らわしいですね。一度で理解できないなんて、馬鹿なんですか?」



 そこには美守を蔑んだ目で見るダイヤが立っていた。









 

 

   


 

 


つ、疲れたぜぃ……

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