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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅱ:再会と執着
15/29

第15話(光太郎視点)

お気に入り400いきました!

嬉しいです! ありがとうございます!

 なんとか日常に支障が無い程度にはフローディアを制御できるようになった。

 少しの接触では女を殺さないように。

 それでも光太郎の内側で怒っているのは分かるから、その感情を上手く読み取りこちらも接触を控える。

 

 それでも殺しそうになったら、光太郎は手に入れた万物を操る力でフローディアを拘束する。

 力のもとであるフローディアには効かないも同然だが、光太郎の意思を読み取り行為を躊躇する。

 その間にフローディアを怒鳴りつける。


 これをひたすら続けた結果だ。


 

「神子様ー!!」

「ああ、なんと気高く美しい……」

「見ろっ! あのお姿を……! なんと神々しいのかっ」



 歓声を受けながら、輿の中で手を振ってみせる。

 馬鹿みたいに光太郎を見上げ、歓声を上げる人間達が塵のように見える。

 

 ナニガ神子ダ。

 ナニガ神々シイダ。


 確かに、光太郎はフローディアと同化し、変わったのかもしれない。

 でも。

 

(禍々しいの間違いだろう?)


 こんなにイライラとした感情が続いたのは初めてだ。

 

 光太郎は絶望を怒りに変換させていた。

 怒りをぶつける事で、この事実を紛らわせているといっても過言ではない。


 

「我がき……」

「うるさい黙れしゃべるな。お前の声など聞きたくも無い」


 笑顔で手を振りながら、横で興奮した様子のダイヤを切って捨てる。

 ダイヤは良い。

 もとから嫌味な奴だけに怒りをぶつけやすい。

 そして絶対に逆らわない。


 一応落ち込んではいるが、光太郎に蔑まれて喜んでいる節があるので問題はないはずだ。

 ……気持ち悪いことこの上ないが。


 この世界の歴史を暗記しなくとも光太郎はフローディアが同化したことにより、誰よりも詳しい歴史を語ることができた。

 それをもとに間違った部分を全てダイヤに書き直させると言うダイヤ虐めをしている真っ最中だ。

 泣きそうになりながらも光太郎に命令されるのが嬉しいらしく、せっせと直しているので最終的には馬鹿らしくなって放置プレイ。

 

 

 ……そうして、気を紛らわせなければどうにかなりそうだったのだ。



 視線の先にある神剣国の城。

 真っ白な壁の高い塔がある城はまるでドイツの御伽噺のような城を思い出す。

 

 昔、美守と一緒に行ったドイツのパーティー。

 確かどこかの御曹司の誕生日を祝うために貸しきられたらしい。

 あのとき美守はクリーム色のシフォンドレスを身に纏い、緊張した面持ちで光太郎のエスコートを受けていた。

 しかし会場に入れば美守は強い。

 光太郎の助けなど必要としないほどに。

 それどころか、近寄ることさえ出来なくなる。

 

 凛とした、その姿はまさに神宮寺家の令嬢。


 身分の違いを見せ付けられているようだった。

 光太郎に、美守は相応しくない。高嶺の花だと。

 

 御曹司が慣れた手つきで美守の手を取る。

 笑顔でそれを受ける美守は気づいていないかもしれないが、完璧に狙われている。

 必要以上に美守と距離を詰める御曹司に嫉妬するが、美守はターンのときに上手く距離を離した。

 それからは肘を固定してそれ以上御曹司に幅を詰めさせる隙さえ与えない。

 光太郎には何も出来ない、美守だけの戦闘場。

 全く脈の無い美守に肩を落として退散していく男達。


 大嫌いだった、この場所で美守と再会するなんて嫌だと思った。


 美守に手が届かないこの場所なら、安心だと思った。


 矛盾する二つの思いが渦巻く中、ついに美守を見つけた。




 光太郎を見て、ふわっと笑ったその顔。

 一瞬フローディアの存在を忘れて、そのまま美守を抱きしめたい衝動に駆られた。

 でも。


「我が君」

「……わかっている」


 ダイヤの静止に、光太郎は表情を消して美守から無理やり顔を背けた。

 それでも名残惜しくてちらりと美守を見れば俯いて、それでもまっすぐと前を見つめていた。


 あの、美守に、この場所で、少しでも動揺を与えられたことに。


 俺は歓喜した。


 まだ美守には俺だけだと、安心した。













 目の前で繰り広げられる茶番にうんざりする。

 表情は崩さずに大人しくしていたら、なにやら調子に乗ったダイヤが隣でぺらぺらと話し続けている。

 うざい。

 そろそろどん底に落としてやろうか……などと考えていたら、神盾国国王・クラウが席を立った。

 

 迫力のある男だと思った。

 

 常に怒ったような表情に、その大きな身体から発する覇気がどうしても人を萎縮させる。

 光太郎自身、フローディアと同化していなければきっと目も見られなかっただろう。


 一段したの席にいてもなお高いままの長身が光太郎に腰を折る。


 そのまま向かったのは美守の前。



 馬鹿だなぁ……と思いながら光太郎は優越感に浸っていた。

 クラウも、他の男と同様美守に軽くあしらわれればいい。

 そうなることを信じて疑わなかった。


 なのに。


 美守が、今まで光太郎が見たこともない、とても幸せそうな顔で微笑んだのだ。


 びくっと指が震えたが表情までは崩さなかった。

 否、崩せなかった。

 身体が固まり、一気に体温が下がっていく。



 恐ろしいはずのその人物を、美守が見つめている。


 ……どうして?

 踊る時、美守はたいてい相手を見ない。

 視線を相手の口元に止め、あくまで控えめに接するのが常だったはず。

 なのに、美守はじっとクラウの目を見つめていた。


 二人が会場から消えてやっと思考が戻る。

 気分が悪くなった、と言って付いて来そうになったダイヤを追い払い、二人の後を追う。

 そうしなければ、手遅れになる気がした。


 そして……。


 目の前で何度も、何度もキスを繰り返す二人に、光太郎は怒りを通り越して何も感じなかった。

 ただ呆然と二人が中庭から会場に戻るのを見ていた。

 

 美守。俺の、美守。


 どうして、とそれしか頭に無かった。

 今目にしたことが信じられなくて夢だと思うほどに。

 

 そうだ、きっと夢に違いない。

 あまりにも美守と離れていたから、俺の被害妄想に拍車がかかったんだ。

 美守が、俺以外を選ぶはずがない。


 現実を確かめるため会場に戻り、クラウと対自する。

 先ほど感じなかった怒りが、その時初めて湧き上がった。

 

「先ほどは私の美守がお世話になったようで、申し訳ありませんでした」

「別に、貴殿に礼を言われるようなことではない」


 その挑戦的な言葉に、自分を抑えることなど出来なかった。

 美守にダンスを申し込む。


 一言、美守から聞きたかっただけだ。

 光太郎だけだと。

 なのに。



 ねぇ、美守。

 どうして俺以外の奴の名を呼ぶの?

 美守には俺だけいればそれでよかったはずだ。

 誰が、美守をこんな風に変えてしまった?


 ふっと、中庭での出来事が頭を過ぎる。


「ねぇ、美守。あの人が、好きなの?」

「え……」


 そう問えば、美守はクラウを見てその頬を赤く染め上げる。


「……美守」

「え? あ、えっと、その……」

「どうして、赤くなるの?」

「あ……ぅ……は、恥ずかしいよぉ」

「……なんで? あいつと、恥ずかしくなるような関係なの?」

「こ、こぉちゃ……」


 美守、一言で良いんだ。

 違うと言ってくれればそれで。


「……さっき、キスしてたよね。あいつと」

「ええ!? み、見てたの!?」


 どうして、否定してくれないんだ。


「あのね、こぉちゃん。私ね」


 また、あの顔。

 幸せそうに笑う光太郎の知らない、美守。

 縋りつくように、美守を抱きしめた。


「え……?」


 驚く美守の声。

 彷徨う美守の手。

 どうか、拒絶しないで。


「こぉちゃ……」

「嫌だっ!!」


 嫌だ。


「美守、俺の美守っ……! お願いだから、誰のものにもならないでくれっ……!!!!」


 美守は俺のものだ。


「こ……ちゃ……」


 叫びと共に涙が溢れる。

 そこで気づく、手の平に感じる生暖かいぬるりとしたもの。

 美守の、血液。


 トパーズとエメラルドのことがフラッシュバックする。


 美守から急いで距離をとれば、氷の柱に串刺しになった美守の姿。

 その下からは次の氷の槍が光っていた。


「やめろっ!!! フローディアっっっ!!!!!」


 そう叫び、フローディアを自身の中から引きずりだす。

 怒り狂うフローディアを抱きしめるように拘束するが、暴れ続けるフローディアに舌打ちをする。

 そして、その唇を己のそれで塞いだ。


 途端に大人しくなったフローディアを宥めながら美守を見れば、クラウに抱き上げられ、会場を後にするところだった。

 

 人間ならば「痛い」と顔を顰めるであろうほどの強さでフローディアを抱き締め、爪を立てる。

 傷つくのはフローディアでは無く、光太郎の指先。

 指先から滲み出る血など、どうでもよかった。


 光太郎の腕の中で恍惚とした表情をするフローディアが、こんなにも憎い。



(美守、いかないで)



 そんなやつと、どこに行くんだ。


 美守が、どんどん離れていく。

 身体も、心も。

 美守の全てが光太郎を置いていこうとしている。


 もう、正気でいることなど出来なかった。






「ふ、ふふふふ」

『光太郎?』


 ああ、愛しいフローディア。


「あははははははははははははははははははははははははは!!!!」

『光太郎』



 余りにも馬鹿げている。

 可笑しくて笑いしか出てこない。


 不思議そうに光太郎の顔を覗き込むフローディアはどこまでも美しい。


 そんなフローディアの頬に手を添える。

 傲慢に微笑んで、その唇を深く抉るように奪った。


 舌をねじ込み、口内を犯し、蹂躙する。


『こ、光太郎……』

「しー……黙って」


 頬を染め光太郎を見上げるその姿。

 その姿の愛おしいこと。







「ああ、愛しているよ。フローディア」







 その滑稽なまでの姿が、とても愛おしくて。










 光太郎の瞳に狂気が宿った。

















 

えと、WEB拍手で頂いた一言のお返事を活動報告にするようにしました

よろしくお願いします

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