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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅱ:再会と執着
13/29

第13話(光太郎視点)

ちょっと……いや、だいぶ痛いです


 異世界に飛ばされて、美守と離れ離れになって光太郎は怒り狂った。

 

 何度ダイヤに怒鳴り散らしても、ダイヤはいつも同じことを言う。

「神殿に拒まれた汚らわしい人間を我が君の傍に置いておくわけにはいかない」と。


 意味がわからない。

 美守が汚らわしいだと?

 ふざけるな。

 あんなに、清らかで真っ白な人間を俺はしらない。

 俺の後を、いつも一生懸命に着いてくる美守。

 その俺を信じきった瞳と、俺を尊敬していると恥ずかしげもなく宣言する美守。

 

 嬉しかった。

 美守が大好きだ。

 美守さえ居れば、他に何もいらない。

 

 美守も、俺と同じなはずだ。

 

 仕事でいつも家に居ない両親。

 いつも習い事で忙しくしていたが、使用人に囲まれて一人食事をしていた美守はどんな気持ちだったのだろう?

 いつも家に居ないくせに、美守の両親は美守の交友関係に厳しかった。


 俺は、その両親に選ばれた側の人間。

 

 これは単に柳川羅の名のため。

 光太郎の家は、世界でも有名な格闘家が集まった家だった。

 道場を開いており、そこに生まれ育った光太郎も、両親や兄弟と共に稽古を続けていた。

 だから、美守のお守に選ばれたのだ。

 

 理由は一番年が近かったから。

 

 でも、始めはいやいやだったのだ。

 なんで、俺が。

 そんな風に思っていたのに、美守に初めて会った瞬間、恋に落ちた。

 

 執事の後ろからおずおずと顔を覗かせる、可愛らしい女の子。

 兄弟の多かった俺は、にっこりと微笑んで美守に握手を求めたのだ。

 そのときの美守の笑顔といったら。

 もう、抱きしめて頬擦りしたくなるほどで。

 一瞬で美守のことが大好きになった。


 まるでアヒルの親子のように二人は一列に並んで歩いた。


 後ろを振り返れば、美守が一生懸命に追いかけてくるのが嬉しかった。

 

 でも、学校に通い始めると美守は余り笑わなくなってしまった。

 俺と余り会えなくなるからだと言って泣く美守。

 どうしてこんなに可愛いのか。


 でも、本当の理由を知っていた。

 周りに群がる男子生徒。それに嫉妬する女子生徒。

 くだらない。

 俺は休み時間になる度に美守に会いに行った。

 そして美守と同じクラスになった、俺のファンだとか言う信用できそうな奴に、美守に誰も近づけさせないようにさせた。

 同じ学校にいるときはいい。

 でも学年が違うと言うのは痛かった。

 だから、こうするしかなかった。

 

 俺にだけ、懐いてくれている美守。

 俺にだけ、笑いかける美守。

 

 美守のすべては俺のものだった。

 

 それが、嬉しかった。





 




 美守が十六になった、その日。

 二人でお祝いをした。

 美守が作ったほうが絶対おいしいのに、俺が無理やり作って歪な形になったケーキを笑いながら二人で食べた。

 夕方になったのでじゃあね、と言って美守の頭を撫でて帰ったフリをした。

 家の前で、美守の両親の帰りを待つ。


 今日は美守の誕生日だ。

 絶対に帰って来る。


 美守は嫌われていると思っているようだが、両親もまた、美守と同じように娘に嫌われていると思い込んでいた。

 そんな親子の架け橋が、俺だった。


 俺が仲を取り持てば美守は両親と和解し、今よりももっと幸せになれるとわかっていた。

 でも。

 美守は俺だけのもの。

 たとえそれが、美守の両親であろうとも、渡さない。


 美守にこれを……とプレゼントを俺に預ける美守の両親。

「一目でも、会っていかれないんですか?」と問えば、「嫌われているからね」と言って悲しげに笑う。

「いつものように、君からだと言ってくれ」そう言って、仕事があるからと去って行こうとする。

 そんな二人を、俺は呼び止めた。

 

 良心が痛まないわけではない。

 でも、俺は異状なほどに美守に執着していた。

 自分でも抑えることができなかったのだ。

   


「美守を、俺にください」


 

 さすがに美守の両親は眉を潜めた。

 しかし、俺には今まで築き上げてきた信頼があった。

 美守につりあうように、武道だけでなく、勉学にも励み、生徒会長や委員長などを進んでこなし、大人たちの信頼を勝ち得てきたのだ。


「……俺、ずっと考えていました。美守は今年また俺と同じ高校にあがり、一年間一緒になります。でも、後の二年間は? 小学生のときも中学生のときも、俺は不安で仕方ありませんでした。美守は可愛くて、大人しいから。なんでも一人で抱え込んでしまうから。だから、俺、ずっと美守の傍にいてやりたいんです」

「しかし……」

「年のことなら、考えました。美守は今日十六になりました。そして、俺は入学式の日、十八になります。その日に美守にプロポーズするつもりです」

「……」


 美守に言う前に、両親に了承を得ようとする筋の通った好青年に美守の両親の心は傾いているはずだ。

 

「お願いします。俺が、婿養子に入ります。この家にお世話になります。だから……」


 なお、言い募ろうとすれば美守の父親に口を閉じるように言われ、ぐっとつまった。

 そんな俺を見て、美守の両親が笑い合った。


「……君はもう、うちの息子のようなものだ。好きにしなさい」

「! はいっ!」


 了承を得られて、俺は飛び上がらんばかりに喜んだ。

 しかし。


「ただし、美守が君のプロポーズを受けたらだ」


 しっかりと釘は刺されたが。


 それでも、俺は自信があった。

 だって、美守の世界には俺しかいないのだから。










 +++++++





 ダイヤのつまらない自慢話のような授業を受けながら、光太郎は小さな小箱を手で弄んでいた。


「我が君、聞いていらっしゃいますか?」

「うるさい、黙れ。ついでに死ね」

「……」


 美守以外にはとことん容赦の無い光太郎だった。


「……我が君、その箱は?」

「お前には関係ないだろう。こっちを見るな」

「……」


 光太郎の手にすっぽりと収まるほど小さなその箱。

 入学式の帰り道、美守に渡そうと思っていた結婚指輪だ。

 ハートをモチーフにした可愛らしいデザインのものはきっと美守の細い指先に良く似合う。


 美守に会えないことが苦痛だった。

 今目の前で半泣きになっている白髪男に召喚さえされなければ、今頃美守と新婚生活を楽しんでいたはずなのに。


 ちっと光太郎は舌うちをした。


 そんなダイヤが、はー……とため息を吐き、妥協案を出してきた。


「……この量の歴史書を全て暗記できれば、披露目を神剣国でしましょう」

「早く寄越せ」

「……」


 神剣国と言えば、今まさに美守がいる国。

 俄然やる気になった。

 毎日、ダイヤの授業を無視して歴史書を暗記した。


 しかし、ダイヤは美守のために頑張る光太郎がいやだったのだろう。

 妨害に出てきた。





 それは、ある日の夜。


 光太郎は日課になった暗記を夜遅くまでこなしていた。

 そして忍び寄る影に、声だけを返した。


「邪魔だ。どこかに行け」

「……それは、できません。我が君」


 ダイヤかと思えば女の声だった。

 驚いて振り向けば、一度紹介を受けた宝石の一人、トパーズが立っていた。

 黒髪の美しい女だ。


 光太郎に歩み寄り、衣服を脱ぎ始めた。


「……ダイヤ様より、我が君の夜伽のお世話をするように言いつかりました」

「必要ない。出て行け」


 美守以外の女になど、興味は無い。


「そんなわけには参りません……我が君」

「っ! 触るなっ!!」


 甘えるように擦り寄ってきた女に、寒気がして手を振り払った。

 そして、その瞬間。








「な……」








 光太郎の頬に血しぶきが掛かった。



 そこには、胸を貫かれたトパーズがいた。


 蠢く植物が、何度もトパーズを刺し貫く。




「う、うわああああああああああ!!」



 叫んで、血を何度も拭った。

 そうしているうちに、ダイヤや他の宝石たちが部屋に駆け込んでくる。


「我が君!? どうなさって……」

「!?」


 その悲惨な惨状に誰もが絶句し、見惚れた。

 

 植物を操るのは、この世ならざる、至高の存在。





『光太郎』




 脳に直接響く、声。

 この世の者とは思えない美しさ。

 万物を操る、その力。


 これが、神。



 目を見開いたまま動けないで居る光太郎に、神が近づいてくる。

 美しい、顔が、光太郎の顔に重なった。

 口付けは、とても冷たくて。

 恐ろしかった。



『光太郎は、誰にも渡さない』




 神……女神が、光太郎に微笑んだ。












 



 


 

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