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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅱ:再会と執着
12/29

第12話

(……まいった)


 クラウは目の前で目を潤ませて自分を見つめる美守にため息を吐く。

 上気した頬に潤んだ瞳は、どんなに押さえようとも庇護欲を擽る。

 そして、純真無垢なその瞳。

 この先があるなんて全く考えていないのだろう。

 だからこんなにも無防備に自分を見つめるのだ。


 もともと、クラウは守りの性。

 神盾国。そう、盾の国。

 何かを守らずにはいられないのだ。

 

 美守をはじめて目にしたとき、危険だと思った。

 囚われる。

 そう思った。


 この腕の中に囲い込んで、大切にしまいこんでしまおう。

 何者からも俺が守り、俺だけを愛するようにしてしまおう。


 そう、思った。


 なんと、危険な思想か。


 だからクラウはわざと美守に冷たくした。

 嫌われでもしなければ、離れてもらわなければ、捕まえてしまいそうだった。

 この、腕の中に。


 逃げ道を作ってやったのだ。


 それなのに、美守は自らクラウの腕の中に飛び込んできた。

 それならば、容赦などしない。

 

 決して、逃がしはしない。


「んぅ……はぅ……」

「口を開けろ……そうだ、良い子だな」


 優しく言えば美守はとても嬉しそうに微笑んだ。

 それがさらにクラウの庇護欲と独占欲を掻き立てる。


 美守の口腔を犯しながら、クラウは自分と戦っていた。


(駄目だ……。これ以上は)


 これ以上すると、止まれなくなる。

 本当に監禁してしまいそうだ。


 そんなことをすれば、美守もクラウも駄目になる。

 美守の内側……心まで守らなければ意味がない。


 最後に美守の小さな身体をぎゅっと抱きしめて、身体を離す。

 美守がいやいやと首を振るのが愛らしく、また理性が崩壊しそうになるが、何とか押し留まった。

  

 優しくすればするほど甘えて来る美守が可愛かった。


 しかし。


「……駄々を捏ねるな。そろそろ戻らねばならんだろう」

「……」


 クラウの腰に腕を回したまま首を横にふる美守をべりっと引き剥がしてもう一度言う。


「行くぞ」

「……むー」

「何がむーだ。ふざけていないで、ほら」


 頬を膨らませる美守に苦笑しながらも、手を差出すとその手をじっと見てちらりとクラウを見上げてきた。

 ……何か言いたそうだ。


「なんだ。はっきり言えと言ったはずだが」

「……て?」

「なんだ」

「も……して?」


 口元でごにょごにょとしゃべっているのでなんと言っているのかまるでわからない。

 身を屈めて美守の口元に耳を持っていって、やっと聞こえた爆弾。


「もう一回、キスしてくれたら、行きます」

「……お前は俺を殺したいのか」


 片手で顔を覆い、ため息を吐けば美守が真っ赤になって不安気に瞳を揺らしていた。

 ……瞳が語っている。「してくれないの?」と……。

 もう一度大きくため息を吐けば、美守がびくっと怯えて飛び上がったのが見えた。

 指先まで真っ赤にさせて震える美守は、きっとこの言葉を言うのにかなりの勇気を使ったはずだ。

 もう一度、今度は小さくため息を吐いて、さっと美守の唇に可愛らしいキスを落とす。

 その瞬間華が綻ぶように笑った美守の耳元に口を寄せる。

 ……勇気を出せたご褒美だ。


「愛おしいな……ミモリ」

「!!」


 ついでとばかりに耳を軽く食むと、美守が目を見開いて口をぱくぱくとさせていた。

 その姿が金魚のようで。

 クラウはふっと鼻で笑った。


「勝ったな」

「な! ななななな!!」

「ほら、行くぞ」

「あ……」

「…………嫌がらせか?」

「ち、違います」


 その場にへたり込みそうになった美守の腰を掬い上げる。

 美守は真っ赤になってクラウの腰に腕を回した。


「クラウ様が、名前、初めて呼んでくれたから……」

「……そうだったか?」


 確かに、おいとかお前とかねずみ女とか呼んでいたような気がする。

 何故か腰が抜けたらしい美守を支えてやると、クラウの胸に顔を埋めてきた。

 まさかとは思うが……。


「……なんだ? もうしないぞ」

「違うの。嬉しかったの」


 キスのおねだりではなかったことに安心したものの、幸せそうに笑う美守を目の当たりにしたものだから。

 クラウは美守の吐息を奪うように食らいついてしまったのだった。


   


 




 +++++++




「……貴様、わらわの美守に何もしていないだろうな?」

「誰が貴様のものだ。あれは俺のものだ」

「な!? 貴様っ!! やはり何かしたのかっ!? ミモリはやらんからなっ!!」

「何故貴様に了承を得なければならない? 選ぶのはあれだろう。……それに、俺は無理強いはしていない。ちゃんと選ばせてやったぞ」


 目をかっと見開いて口をぱくぱくさせるミラルダを無視して、上座に目をやる。


「おい、神子はどうした」


 その席は空席で、ただダイヤが椅子の隣に立っていた。

 位置的にクラウを見下しつつ、ダイヤが答えた。


「神子はお疲れなのですよ。……こんな穢れた下界に降りてきたのですから、仕方の無いことです」

「お前は……相変わらず腹の立つやつだな」

「なっ!?」


 クラウが眉を顰めて言えば、ミラルダが爆笑した。

 ダイヤは顔を真っ赤にさせて怒っていたが、颯爽と現れた光太郎を見て、顔を輝かせた。


「我が君! どうされたのですか? ご気分がすぐれなかったのでは……」

「もう治った」


 ダイヤを見もせずに答えた光太郎は、クラウを見ていた。

 微笑んではいるが、目が全く笑っていない。

 背筋が凍りつくようなその笑みに、クラウは思わず光太郎を睨みつけていた。


「……神盾国国王、クラウ様でしたね」

「我が君! 様など必要ありません。あなたこそがこの世の至高の存在なのですから……」


 クラウに話しかけたのに、ダイヤが嬉々として答える。

 光太郎はすっと表情を消し、ダイヤをちらりと見た。


「……黙れ、ダイヤ」

「……はい」


 しょぼん……と肩をおとすダイヤは間違いなく珍獣のようにしか見えない。

 いつものふてぶてしさが嘘のようだ。

 そのダイヤに驚いていると光太郎がクラウに向き直り、にこっと微笑んだ。


「申し訳ありません、クラウ様。ダイヤは頭が少し弱いのです」

「そのようなことは重々承知している」

「……!」


 ダイヤが何か言いたそうにしているが、光太郎の言いつけを守り、ぐっとその場で耐えていた。

 ちなみにミラルダは爆笑中だ。


「先ほどは私の美守がお世話になったようで、申し訳ありませんでした」

「別に、貴殿に礼を言われるようなことではない」


 私の、と言ってきた光太郎をぎろりと睨む。

 光太郎はまだ笑っていた。

 クラウと光太郎は見つめあったまま、動かない。

 それは数秒のことだったが、クラウと光太郎にとってはとても長い瞬間だった。


 ふいに、光太郎が顔を会場に向け、一歩踏みでた。

「我が君!? いけませんっ!」と絶叫するダイヤを無視して、ゆったりと階下へ降りていく。

 嫌な予感がした。

 心がざわつく。

 

 光太郎の進行を邪魔しないように、人々が割れ、頭を垂れていく。

 人々が割れた先にいるのは、零れんばかりに目を見開く美守の姿。


 光太郎が美守の目の前に腕を差し出した。


「美守、踊ってくれるね?」


 光太郎の表情は見えなかったが、美守が泣きそうな顔で「はい」と光太郎の腕を取ったのが見えた。








 +++++++ 

 







「こぉちゃん、知らない人みたい」

「そう? 美守こそ、変わったみたいだ」


 他愛も無い話を繰り返す。

 ステップを踏みながら、小声で。

 だって、皆が見ているから。

 

 光太郎が、美守を見て微笑んでいることに美守は安心した。

 いつもの光太郎だ。

 いつもの、優しい美守のお兄ちゃん。


「俺、いっぱいこの国のこと勉強させられたんだ。もう、あの白髪嫌いだよ。ぶっ殺してやりたい」

「白髪って……あのダイヤって人? そんなに扱かれたんだ?」

「扱くなんてもんじゃないよ。拷問だね、あれは。もー辛かったよ。美守には会えないし」

「……うん、私もこぉちゃんに会えなくて寂しかった」


 それに、怖かった。

 今まで一緒だったのに、無理やり引き離されて。


「でもね、ミラルダ様もりゅーちゃ……あ、あの名誉騎士の人ね。皆優しくて、仲良くなれたの。アラン様もティア様も、皆変わってるけど優しいの」

「……そう」

「あ、あのね、クラウ様もね……」

「ねぇ、美守」


 光太郎に聞いてほしかったことを早口でしゃべる。


 あのね、こぉちゃん。

 私、こぉちゃんがいなくて寂しかったけど、ちゃんとしてたよ。

 元の世界みたいに、一人じゃなかったよ。

 あのね、色んな人と、いっぱいおしゃべりしたよ。

 皆優しくしてくれたよ。

 いつもいつも、こぉちゃんがいないと何にもできなかったけど、私ちゃんと友達作れたよ。

 こぉちゃん以外の人とも、普通に話せたんだよ。

 こぉちゃん、こぉちゃん。

 私、少しでもこぉちゃんみたいになれたかな?


「ねぇ、美守」

「どうしたの? こぉちゃん」


 ふと光太郎を見上げれば、光太郎の顔が歪んでいた。

 痛そうで、美守も苦しくなった。


「こぉちゃん、どうし……」

「ねぇ、美守。あの人が、好きなの?」

「え……」


 光太郎の視線を追うと、そこには不機嫌そうなクラウの顔があった。

 美守と目が合うと器用に片眉を上げて見せた。

 それだけで、中庭でのことを思い出して、美守の頬が赤く色づく。


「……美守」

「え? あ、えっと、その……」


 かーっと赤くなり体温まで上がって来る。


「どうして、赤くなるの?」

「あ……ぅ……は、恥ずかしいよぉ」

「……なんで? あいつと、恥ずかしくなるような関係なの?」

「こ、こぉちゃ……」


 からかわれているのだと思った。


「……さっき、キスしてたよね。あいつと」

「ええ!? み、見てたの!?」


 ぼふっと湯気が美守の頭から出た。

 見られたのは恥ずかしいが、美守は光太郎に報告したかった。


「あのね、こぉちゃん。私ね」


 あの人に怒られると悲しいの。

 あの人に褒められると嬉しいの。

 あの人が笑ってくれると心が温かくなるの。

 あの人に抱きしめらると、心臓が壊れちゃいそうになるの。

 こぉちゃん、これって恋なのかな?

 私、クラウ様のこと好きみたい。 

 

 光太郎に、一番に報告したかった。

 なのに。


「え……?」


 いつの間にか曲が止まっていて。

 光太郎と美守のステップも止まっていた。

 辛い時、いつも慰めて美守を応援してくれていた、優しい光太郎。

 その安心する光太郎の腕の中に、美守は包まれていた。


「こぉちゃ……」

「嫌だっ!!」


 悲鳴のような光太郎の叫び。


「美守、俺の美守っ……! お願いだから、誰のものにもならないでくれっ……!!!!」


 会場に響き渡ったその叫び。


「こ……ちゃ……」


 痛くて、痛くて。

 何が何だか分からない。


 光太郎がはっとして美守から離れた。

 なのに、美守の足は浮いたまま。


 誰かが、美守の名前を呼んだ気がした。


 光太郎が絶叫する。





「やめろっ!!! フローディアっっっ!!!!!」




 

 こふっと、咳がでた。

 生暖かい液体が、美守の口と腹から流れ出る。





「ミモリっ!!!」




 クラウがとても怖い顔をして近づいてくるのが見えた。


「く、らうさま……」


 手を伸ばしたいのに、届かない。

 どんどん、力が抜けていく。





「ミモリっ!!」






 誰が叫んだのか分からない。


 意識が闇に落ちていくなか、美守は自分の身体を見た。


 氷の柱に貫かれ、串刺しになっている、自分の身体を。















 


  

 

皆さん、感想ありがとうございます!

美守がちょっと成長しました!

……だけど?


次、きっと光太郎視点 

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