第1話
男達の野次に美守はびくぅ!と震え、隣に立っていた幼馴染の背に隠れた。
「おい!お前ら!!俺の美守に声駆けるんじゃねぇよ!!」
「お前だけずりぃーんだよ!!美守ちゃんはみんなのアイドルだ!!」
そーだそーだと同調する男達に更に怯えた美守は幼馴染の学ランの裾をぎゅっと握り締め怯えの滲んだ瞳を向けた。
「こぉちゃん・・・・」
「大丈夫だよ、美守。俺が守ってあげる」
にっこりと笑って頭を撫でてくれたことに安心して美守はほにゃ、と表情を和らげた。
周りで「おお!」「笑った!可愛い~!」「美守ちゃ~ん」などと騒ぎ始めたので直ぐに強張った表情に戻ってしまったが。
こぉちゃんこと柳川羅光太郎。
眉目秀麗、運動神経抜群、成績優秀の完璧人間。
美守の隣に住む2つ年上のお兄さん。
今年18になる。
小さい時から可愛がってくれていて、人見知りで引っ込み思案の美守をいつも守ってくれていた。
そして美守こと神宮寺美守。
清楚で控えめな由緒正しき家元のお嬢様。
今年16歳になる。
儚げな美貌といつも不安に揺れるその瞳が庇護欲をそそっていることに気づかぬは本人ばかり。
今日は高校の入学式で、新入生代表を務めた美守の周りには大勢の人が集まっていた。
友達になりたいという同学年。
部活勧誘と見せかけた先輩達。
・・・そのほとんどが男だ。
生徒会長の光太郎は見回り・・・と見せかけ美守をいち早く見つけ守っている、と言うわけだ。
美守は部活勧誘の先輩達を見て、深呼吸をした。
意を決して蚊の鳴くような声で俯きながら言う。
「あ、あの・・・私、弓道部に入るって決めているので・・・・その・・・えと・・・」
どんどん言葉尻が萎んでいき、美守は恥ずかしさに耐え切れず、真っ赤になって光太郎の背にまた隠れた。
そんな美守を光太郎が可愛くてたまらない、と言う顔をしていることを美守は気づかない。
普段の王子様スマイルではないその表情に驚いたのは他の生徒達だった。
光太郎は自分の背に顔を埋めて「う~」と唸っている美守にだけにしか使わない甘ったるい声を出す。
「俺と一緒の弓道部?」
「うん・・・。こぉちゃん部長さんでしょう?教えてくれる?」
「もちろん」と最高の笑みで答える光太郎を見てしまった女子生徒がぱたり、ぱたりと倒れている。
微笑返した美守を見た男子生徒が悶絶する。
光太郎は1秒たりともこんなところにはいたくなかった。
「送っていくよ。今日はもう帰ろう」
「え?でも・・・こぉちゃん、生徒会のお仕事あるんじゃないの?」
「全部済ませてきたから大丈夫。・・・そんなことより、ほら」
差し出された手を迷うことなく繋ぐ。
大好きな大好きな美守のお兄ちゃん。
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手を繋いで歩く高校生カップルにしか見えない2人。
その顔はどちらも緩んでいてとても仲睦まじいことが窺える。
身長差がかなりあるため2人とも首が痛そうだ。
「今日は舞踊の先生が来るんだっけ?」
「うん、そぉなの。こぉちゃんは道場に出るの?」
「う~ん、そうだなぁ」
神宮司家は由緒正しき家元。
その歴史は古く、礼儀作法や習い事の数々は常人には考えられないものまである。
柳川羅家は武道に順ずる家系。
その歴史は深く、武道の言葉が付くものであれば何でもこなす事が出来る。
2人はまるでお姫様と騎士のようだった。
美守も光太郎も浮かれていた。
また同じ学校で過ごすことができる、と。
家で自由な時間がほとんど皆無な2人は学校は唯一の余暇時間と言っても過言ではない。
2人ともその立場のせいか友と呼べる人は少ない。
特に美守は性格上、友達は皆無だ。
2人はこれからの学生生活に思いを馳せながら幸せいっぱいだった。
でも、突如目の前に現れたそれに2人は愕然とした。
光太郎の腕を、腕が掴んでいるのだ。
腕しかない。
光太郎は反射的にそれを振り払おうとするが腕の力のほかに引力のようなものが加わった。
いくら武道に順ずる光太郎でも形無き敵ではどうしようもない。
そのまま引きずられていく。
「こぉちゃん!!」
「駄目だ、美守!離せ!!」
美守は首を横に振って光太郎にしがみ付いた。
(こぉちゃんと離れるなんて、嫌っ!!)
光太郎を失うかもしれない恐怖に涙が溢れた。
「こぉちゃん、こぉちゃん、こぉちゃん・・・!」
「美守っ・・・!!!」
離れそうにもない美守を逆に抱き込み、離すまいと力を込める。
どこに吸い込まれたのかは分からない。
目をきつく閉じ、腕を掴む圧迫感がなくなったそのとき。
「おお」っとどよめきが聞こえた。
恐る恐る光太郎が目を開くと、そこにいたのは人、人、人・・。
腕の中で震える美守を抱きしめ直し、そこに居並ぶ人々を睨みつける。
すると、人々ははっとしたような顔をし、恐縮して頭を垂れた。
光太郎の前に。
そして、こう言ったのだ。
「お待ちしておりました。・・・我が君」
すみません。
また思い付きです。
ゆっくりペースになります。
気長にお付き合いくださいませ。




