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食堂

食堂は、ネットの情報サイトで見かけるような古民家レストラン風になっていた。

板張りの床に縁側には障子と、どこか懐かしい内装だが、大人数を収容する目的で作られた広い空間には、しかしオープンキッチンのカウンター席近くに、四人掛けのテーブルセットが三組あるだけで、後は部屋の隅に片付けられていた。

寮に住んでいる人数を考えればこれでも多いかもしれないが、縁側の開放感と相まってがらんとしていた。




室内では、既に三人の寮生が朝食を取っていた。

席はバラバラで会話もなく、皆黙々と食事をしている。

現時点における寮生達の関係を見事に表しており、分かりやすく面倒臭い。

別組織から派遣されたばかりでお互いに遠慮をしている、といった入寮間もない戸惑いやぎこちなさからくる距離感ならまだ可愛げはあるが、残念ながらそうではない。

千歳が子供の時分に描いた絵を御神託と見なし、千歳と共にその行方を見守る目的で集められた寮生達、ここに姿のない者も含めて全員、びっくりするほど仲が悪かった。

(いや、違う。お互いに警戒しているんだ)

原因は、彼らが所属する組織間の不和にある。

術者の界は現在、諸般の事情により、仲違いの真っ最中らしい。

部外者の千歳にもそのピリついた空気が伝わるほど殺気立っている。

(問題だよなあ)

今のところ、表立った衝突は見られないが、水面下ではバチバチやっていそうだ。

ポン吉の不機嫌に、離れの取り壊しや寮生間の溝など、平和に見えて、問題は山積だったりする。

(それに、隣町で起きた例の騒ぎも――)

(っと、それこそ触れない方がいいか)

考えを振り払い、千歳はカウンター席へと移動した。




カウンター席へ近づくと、

「おはよう、千歳君。今朝は散々だったねえ!」

味噌汁の良い匂いと共に、元気な女性の挨拶が飛んできた。

カウンター内の簡単な調理スペースで、菜箸を片手に卵焼き器を振るのは寮母の織部志乃おりべしのだ。

藍染めの手拭いを被った長身の女性で、エプロンの下はトレーナーにジーンズという動きやすい服装をしている。

中年にさしかかった年齢だが、溌剌と活力を漲らせる姿は若々しい。

「おはようございます。今朝はお騒がせして、ホントにすみませんでした」

「あっはは。びっくりしたわよー。でも何もなくて良かったね。それでポン吉君は大丈夫だった?」

「ええ、何とか」

などと、恭弥と同じような質問をする織部に受け答えしていると、

「ごっそさん」

のっそりと体格の良い少年が、空の食器が載った角盆を返却口に置いた。私服の黒ジャージにオレンジ色の髪が映える彼は、寮生の一人、佐久間稔である。

「稔、おはよう」

「ん、はよ」

愛想良く挨拶する千歳に見向きもせずに、稔は素っ気なく言った。

今朝の騒ぎで機嫌を損ねている、訳ではなく、これが稔の標準的な態度だ。

眠そうな横顔に、申し訳ない気持ちになりながら、ふと千歳は、稔の腕に注意が向いた。

肘まで引き上げた袖口から、包帯を巻いた二の腕が覗いている。

「何?」

視線に気付いた稔が不審そうに尋ねてきた。

千歳は慌てて、

「あいや。今朝はホントごめん。朝食も遅くなったみたいで」

稔は朝一番、食堂が開くと同時に朝食を取っている。

遅めに降りてくる千歳と鉢合わせたのは、久し振りだ。

「別にヘーキ」

無愛想に短く言うと、稔はさっさと食堂を後にしようとする。

「あ、稔君、ちょっと待って」

織部が慌てて稔を呼び止めた。訝しげに振り返る稔に、織部は大急ぎでカウンターから出ると、

「はい、これ。お弁当」

片手に提げた大きな弁当包みを稔の眼前に突き出した。

「今日も見回りに行くんだろう? お昼詰めといた。水筒もね」

上背のある稔を見上げ、織部は軽快に笑う。

背を丸め、弁当包みと水筒を受け取った稔は「……ども」視線を手元に落としたままぼそっと呟いた。

「はいよ。行ってらっしゃい」

まだ相手になれていないのか、稔の態度はぎこちない。

普段の不貞不貞しさを知る千歳としては、借りてきた猫のように大人しい稔は何やら新鮮だ。

二人のやり取りを見るともなく眺めていると、千歳が見ていることに気付いた稔は、狼狽えたように視線を彷徨わせ、

「――お先」

ムスッと言って、スタスタと足早に食堂を出て行ってしまった。

(照れ隠しに怒るとか、そういうとこは子供っぽいよな)

最年少らしい一面を垣間見た千歳は、眼差しに年長者の寛容さを込めて、稔の背中を見送った。


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