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第30話 海老男、弟子の門出を祝う!

 ミーナは手慣れた様子で用紙を広げると、さらさらと必要事項を記入していく。


「さて、リリアさん。冒険者登録にはいくつか条件があるんです」


 書類を整えながら、やわらかな口調で説明が始まる。


「まず、十五歳未満の場合は必ず先輩冒険者の身元引受人が必要になります。これはギルドの規定でして、若い方が安心して活動できるよう責任者を立てる決まりです」

「え、それじゃロブさんが……私の保証人に?」


 リリアが思わず声を上げると、ミーナがにっこりと笑う。


「はい。もしよろしければ、ロブさん。お引き受けいただけますか?」

「もちろんだ」


 ロブは即答し、さらりと書類に手を伸ばす。


 筆を滑らせるその手元を、リリアは興味津々に覗き込んだ。


「……ロブスウェル・イングラッド?」


 思わず読み上げたリリアに、ロブは軽く肩をすくめる。


「これも本名じゃないんだけどな」

「ええっ!? 本名じゃないんですか!?」


 リリアが驚きの声を上げると、ミーナが楽しげに補足を入れる。


「ふふっ。驚かれるのも無理はありませんね。でも、平民の場合は家名がない方も多く、自分で名前を考えて登録することも珍しくないんですよ」

「そ、そうなんですか……?」


 リリアが目をぱちぱちと瞬かせる。


「ただ、ロブさんのように貴族様から功績を称えられて名前を贈られるのは、とても珍しいことです。確か、とある大貴族様がロブさんの数々の働きに感銘を受けて、授けたお名前だったはずです」

「す、すごい……! ロブさんって、やっぱりただ者じゃなかったんですね!」


 リリアの目がますます輝く。


 だが当の本人は気恥ずかしそうに小さくため息をつくと、あっさりと言い放つ。


「まあ、好きに思えばいいさ」


 軽く肩を竦めながら、ロブはすっかり書き終えた書類をミーナに手渡す。


「ありがとうございます。それでは、保証人の手続きはこれで完了です」


 ミーナが笑顔で書類を受け取り、最後の確認を終えるとリリアに向き直る。


「リリアさん、ご本人の署名をお願いします」

「は、はいっ!」


 緊張しつつも、リリアは丁寧に自分の名前を書き込む。


「はい、これで書類は整いました! これにて正式に冒険者登録が完了です!」


 ミーナが宣言すると、リリアの顔がぱっと明るくなった。


「わ、わたしも……冒険者になれたんですね!」

「ええ。今日からリリアさんもギルドの一員です。ちなみに、最初のランクは『翠蛇グリーン・サーペント』という新人ランクになります」


「翠蛇……!」


 リリアが感慨深げにその言葉を噛みしめる。


「明日はちょうど新人冒険者の研修がありますから、ぜひ参加してくださいね。ギルドのルールやランク制度、依頼の受け方などしっかり学べますよ」


「はいっ! 頑張ります!」


 リリアの元気な返事に、ミーナも満足そうに頷いた。


 そんな微笑ましいやり取りのあと、ミーナがふと表情を引き締める。


「それでは最後に、紅竜団の件の報酬についてですね」


 そう言いながら、カウンターの奥から分厚い封筒を取り出す。


「被害状況の調査が終わりまして、討伐報酬が確定しました。総額で──」


 ミーナが封筒を軽く持ち上げると、その重さに驚いたように小さく息を飲んだ。


「三十万リュークになります」

「さんじゅう……万!?」


 リリアが思わず声を上げる。


「ええっ!? そ、それって、一体どれくらいなんですか……!?」


 ミーナが優しく説明を加える。


「目安としては、庶民の家庭で月収がだいたい一〜二千リュークほど。贅沢しなければ、五百リュークでも一月は暮らせますね」

「そ、そんなに……!」


「三十万リュークあれば、小さな村なら家が何軒も建て直せる額です」


 ミーナが柔らかく微笑む。


「討伐対象がヴォルフ達幹部級だったこと、さらに被害救済の加算報酬も含まれていますから、これだけの額になりました。とはいえ……」


 ちらりとロブに視線を送る。


「すでにロブさんから、『全額セイラン村の復興資金に』という申し出を頂いております」

「ロブさん……!」


 リリアがまたしても胸を打たれるように息を呑む。


「ほんとに……村のみんなのこと、考えてくれて……!」


 ロブは軽く頭をかきながら、気恥ずかしそうに視線を逸らす。


「俺が懐に入れたところで使い道もないしな。なら、困ってるところに使ってもらった方がいい」

「それでも……ありがとうございます!」


 リリアは心からの感謝を込めて頭を下げた。


 ロブはそれを手で軽く制しながら、いつもの飄々とした口調で言う。


「礼なら、立派な冒険者になって返してくれ。それで十分だ」

「はいっ!」


 まっすぐな返事に、ミーナも満足そうに頷く。


「ちなみに、冒険者ランクが上がれば、こうした討伐依頼も増えていきますよ。リリアさんも、翠蛇ランクから着実に経験を積んでくださいね」

「はいっ! 頑張ります!」


 リリアの力強い返事に、ギルド内に微笑ましい空気が流れた。


 二人はギルドを出ると、昼下がりの陽光を浴びながら王都の街を歩き出した。


 リリアが思わず声を漏らす。


 石畳の道の両脇には屋台が立ち並び、香ばしい焼き菓子の匂いや果実の甘い香りが漂ってくる。陽光を浴びてきらめく露店の品々が、鮮やかに視界を彩った。


「王都ってすごい……!」


 初めての光景に胸を高鳴らせるリリアに、ロブが穏やかに微笑む。


「せっかくだ。少し見て回るといい」

「はいっ!」


 王都の街並みは活気に満ちていた。

 行き交う商人たちの威勢のいい声、職人の鍛冶場から響く金属音。


 目移りするほどの賑わいに、リリアは目を輝かせながら周囲をきょろきょろと見渡した。


「すごい……! いろんなものが売ってるんですね!」

「見て楽しむくらいなら金はかからん。目に焼き付けておけ」

「はい!」


 ロブが歩みを止めたのは、ひときわ人だかりの多い店先だった。


 冒険者向けの装備品店だ。木製の看板には『武具・防具・道具一式』の文字が刻まれている。


「そうだな。せっかくだし、装備を一式そろえておくか」

「えっ……いいんですか!?」


 リリアがぱっと顔を輝かせる。


「冒険者として登録したからには、身支度も必要だ」


 ロブの言葉に背中を押されるように、リリアは店内へと足を踏み入れた。


 店内には革鎧や冒険用の服、頑丈なブーツがずらりと並び、棚には冒険に欠かせない道具の数々が所狭しと並べられている。


「わあっ……!」


 リリアは目を輝かせながら装備品を見て回る。


 ミーナからもらったギルド登録証を胸元でぎゅっと握りしめ、慎重に品定めする姿は、まるで本物の冒険者そのものだった。


「まずは動きやすさだな。初心者は硬い鎧より軽装の方がいい」


 ロブがそう言って、薄手ながら耐久性のある革製の冒険者服を選ぶ。

 汚れにくく、動きやすさも抜群。さらに耐魔加工が施されている優れ物だ。


「これ、すごく軽いです!」


 リリアが嬉しそうに袖を通し、くるりと回ってみせる。


「次はブーツだ。石畳や森の中でも歩きやすいものを選べ」

「はい!」


 履き心地のいい丈夫な革製のブーツを選び、店主に調整してもらうと、リリアはすっかり冒険者らしい姿になった。


 ロブはさらに視線を巡らせると、カウンターの端に並べられた小さな武器棚に目を留めた。


「護身用の武器もいるな」

「えっ……武器までいいんですか?」

「最低限の護身は必要だ。持っているだけでも心構えが違う」


 そう言ってロブが手に取ったのは、手のひらに収まるほどの小さな短剣だった。


 扱いやすいシンプルな作りで、初心者にも最適だ。


「刃渡りは短めだが、しっかり鍛えてある。これなら荷物にもならん」


 リリアが両手で短剣を受け取り、恐る恐る鞘から少しだけ抜いてみる。


 刃は鈍く輝き、使い込むほどに馴染みそうな手応えだった。


「これが……武器……!」


 胸の奥がぐっと引き締まる。

 いよいよ冒険者としての自覚が湧いてきたのだった。


「大事にするんだぞ。剣は相棒だからな」


「はいっ!」


 リリアは真剣な面持ちで頷いた。


 最後にロブは小型のポーションを数本手に取る。


「傷薬も持っておけ。大事なのは、戦うことより、生き残ることだ」

「……はい!」


 ポーションの澄んだガラス瓶を受け取り、リリアはその重みを手のひらで感じる。

 命を繋ぐ道具として、しっかりとポーチに収めた。


 装備を整え終えた頃には、陽がすでに傾きはじめ、夕暮れの光が店先を染めていた。


「よし。これで準備は整ったな」

「ありがとうございます、ロブさん!」


 満面の笑みで頭を下げるリリア。


「いい弟子だ。飯を食わせ甲斐があるな」


 ロブがふっと笑うと、ちょうど店を出たところで、ゼランが待っていた。


「お、探したぞ。さっきの約束、忘れてないだろうな?」


 ゼランがにやりと笑う。


「ああ。リリアの冒険者登録祝いだ。しっかり付き合ってもらうぞ」

「ふん、それを楽しみに護送を片付けてきたんだ。ぱーっとやろうじゃないか」

「ありがとうございますっ!」


 リリアが両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。


 ゼランが優しく目を細めた。


「祝いの席くらい、遠慮はいらんぞ。今夜は飲んで食って、大いに楽しもう!」


 ロブも笑みを浮かべ、軽く頷く。


「そういうことだ。よし、行くか」


 三人は連れ立って、夕暮れの王都へと歩みを進めた。


リリアの妄想ノート】


 わたし、ついに冒険者になりましたーっ!

 ロブさんが保証人になってくれるなんて、もう感激ですっ。


 しかもですよ? ロブさんのお名前、「ロブスウェル・イングラッド」って貴族様から授けられたものなんですって!


 …………リリア・イングラッド…………………

 ち、ちょっと言ってみただけです!!/////////////

 きゃー! な、なんでこんなこと考えてるんですか、わたし〜〜っ! 違いますよーっ!!


 これからはちゃんと冒険者としてロブさんに認めてもらえるように頑張ります!



【あとがき】

 お読みいただきありがとうございます!

 今回の第30話では、リリアがついに冒険者として登録。


 海老男ことロブが保証人となり、リリアは正式にギルドの一員となりました。


 ロブの本名?正式名称とでもいうか、この名前はまあ、ロブだけじゃ寂しいよなと思って考えただけで深い意味はなかったりします。

 とはいえ、何かの伏線だったりして?


 王都での新生活が本格的にスタートし、ゼランも合流しての楽しい祝宴となりましたね。


 次回からはギルド研修や王都の日常、そして新たな出会いが待っています!

 今後ともリリアと海老男の旅をよろしくお願いします。


【感想・評価・ブクマのお願い】

「面白い!」と感じていただけたら、ぜひ感想や評価をいただけると嬉しいです!


 お気に入り登録ブクマも更新の励みになります。

 リリアと海老男の物語はまだまだこれから!

一緒に冒険を楽しんでいただけると嬉しいです。応援よろしくお願いします!

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