表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

四人目の候補者・堂谷三豊は防衛問題と政治改革について語る。

 名前を呼ばれて立ち上がったのは色眼鏡をかけてパンチパーマ。和服を着こなした痩せ型長身で初老の男性だった。

 

「堂谷さん、どこかの元市長さんみたいな和服姿ですね」


 多比余の言葉ににやりとした堂谷は、

「これはお召一つ紋付というものでね。こういう場所に呼ばれた時に着るものなんだよ。和服にもドレスコードのようなものがあってさ。今の日本人はなかなか和服を着ないから、目立っちまうんだよな」

 と言って笑った。


「まあ選挙だから目立つ方がいいですね。アラブの男性は背広よりカンドゥーラを着る人の方が多いくらいですし、ブータンではキラを着ますが、なぜか日本人は男女共にあまり和服を着ませんしね。とまあ和服論議はさておき、本題の主張をお願いします」


「ん、そうだな。え~、都知事選に立候補しております堂谷です。私設の防衛研究所所長をしておりまして、防衛問題を扱う雑誌『防衛中高年』の編集長もやらして頂いております。年は五十七歳です。学歴は梓川高等学校を卒業した後、通信制の大学で学位も取りました。通信制の大学で学ぶのは趣味のようなもので、これまでに法学、経営学、文学などの分野で学士号を取っています。認定心理士の資格も取りましたし社会科の高校教員免許と僧侶の資格も持っています」


「エーっ、すごいですね。僧侶の資格もお持ちなんですか」

 大学教授の真奈美は堂谷が今でも勉強をし続けていることに感心したらしい。


「それで、堂谷さんが今回の都知事選で最も訴えたいことはなんでしょうか?」

 多比余は堂谷が脱線し過ぎないように本題に戻した。


「ズバリ、都民全員が避難できる核シェルターの建設だな」


「1000万都民全員が入れる核シェルターですか? こりゃまた壮大な計画ですね」


「そう、日本を仮想敵国としている国々が核搭載のミサイル開発をしているからな」

 

「しかしそれについては政府もイージス艦やパトリオットミサイルによる防衛計画を立てていますよね。さらに最近では相手国に届く防衛のためのミサイル、トマホーク等を導入する動きもあります。それでもまだ不安なんですか?」

 

「多比余君はパトリオットミサイルの射程距離を知ってるかい? これね、イージス艦に積むSM3の場合は射程距離が比較的長いんだけどさ最終防衛にあたるパトリオットの最新型ミサイルのPAC3では有効射程距離が15キロとされておるんです。もし敵国が例えば『これから渋谷に一発撃ちます』とか予め警告してくれればそのミサイルに向けて迎撃すればいいんだが、たぶんそんなことは言わんでしょう。私が敵ならどこに打つかなど警告せず一度に数十発を、それも飛んでくる途中で複数に分離するタイプ・これを多連装型と呼んでいるんだが。そいうもので攻撃するだろうね」


「堂谷さんはその可能性が高いと思うんですね。あなたが敵ならどこを狙います?」


「そうだな。柏崎か福井の原発銀座辺りを集中して攻撃するかな。あれはまるで爆薬が詰まった兵器庫のようなものだから、当たれば日本は大打撃を受けるからね。いやしかし、こちらが考えていることの裏をかけば案外新宿か梅田辺りに集中させるかもしれないな。つまりどこに飛んで来るかわからないというわけだ。それなのに射程距離15キロのパトリオットで守るとすれば、いったい日本中に何百万台配置すればいいんだい?」


「で、シェルターの方が良いと?」


「スイスあたりならそうするだろうよ」


「なるほど。つまりミサイル防衛はあまり効果がないと言いたいんですね」


「もちろん無いよりはいい。でも防衛を強化する方法もあるよ」


「先に相手を叩くとか、物騒な方法じゃないでしょうね」


「いいや、ミサイルは落ちてくる段階で速度が増して落としにくくなる。一方高度を上げている途中のミサイルはハエが止まるような速度でね。つまり俺だったら人工衛星に小型ミサイルを積んでおいて日本に向かう危険な軌道のものだけを叩くことにするね。もしレーザー兵器が開発されたら、衛星軌道上から相手のミサイルの基盤を焼くだけでいい」


「でも基盤を焼いても惰性で落ちてきませんかね。核爆弾」


「ふむ、そんな時には数が打てるレールガン(電磁砲)の方がいいか。しかしあれは開発が成功するかどうか……」


「いずれにせよ、こういうのは都知事選レベルの話じゃないですね」


「だろ、だから都民を守るシェルターを作ろうと訴えたんだ」


「ものすごい予算がかかりますよね。その予算については?」


「まず自助努力ができる人については無利子貸し付けなどで自宅の地下に作ってもらう。地下シェルターへの固定資産税は一切かからないようにする。それから企業にも安くできるように努力してもらうし東京メトロにも協力してもらう。とにかくあらゆる手を使う」


「では、堂谷さんの主張は核シェルターを作ろうってことでいいですね」


「そう簡単に終わらせないでくれよ。まだいくつかあるんだ。例えば水利権の問題だな。実は今、日本の水資源は世界中から狙われているんだ」


「これはよく問題になりますね」


「イギリスを除くヨーロッパやアメリカの東部では国が水利権を持っている割合が高いが日本では個人が所有することが多い。しかも漁業権のように相続税の対象にならないので水利権を土地と共に取得すると外国の人間が日本の水を自由にできる可能性がある、だから一番いいのは東京のような自治体か国が管理すると法律で定めることだな。とにかく今後は世界のあちこちで水の争奪戦が起きる。日本は水が豊富にあるから重要性に気づいていないが、いつのまにか水資源が外国の手に握られていて農家が田んぼに水を引こうとしたら拒否されるかもしれないぞ」


「なるほど。まあ条例という形で水利権の制限をすることはできるかもしれませんね。他にも提案がありますか?」


「あるよ。政治改革」


「それってもう国政レベルの話でしょ。都知事選とは関係ないんじゃないですか?」


「いや、国は勿論だけど、都政レベルでも取り上げられる話だと思うよ」


「じゃあ、まあ言ってみてください」


「区会議員とか市会議員レベルでも地元に根付いて、三代続いて代議士家系なんてやつがいるだろ? 親ガチャって言葉もあるけどよ。これは一種のカースト制度だわな。新しく議員になろうと志す人には不利だしな」


「確かにいますね。我々はそういう人がいると政策もろくに聞かず投票したりしますね。つまりこれはどっちもどっちってことじゃないですか?」


「いや、俺が思うにこれは制度が悪いのさ。俺が考えた政治改革はこうだ。一度当選した選挙区からは連続して立候補できない。つまり豊島区の区会議員に当選した人は次は別の区から出馬させる。FIFAが対戦相手を決める時のように『世田谷で議員だった〇〇さん次は足立区から立候補することになりました!』というふうにだ。国政も同じで大阪で衆議院選挙に出て当選していた人がガラポンの結果、栃木県から出ることになりましたとかな。こうすると血筋じゃなくて本当にいい政策を唱えた人が当選することができる」


〈政治家の立候補地を抽選で決めるって案、面白いかも〉

〈それもどうかと思うぞ。地域に根差した活動をしてる人はどうなるんだよ〉

〈抽選に不正があれば、ライバル候補を僻地に飛ばせます!〉


「そういうのも法律があるから東京だけではできませんって。それと、地域政党の場合は反対するでしょうね。だいいち日本人は何も血筋に弱いというより代々続いている老舗の政治家は少なくともあんまり暖簾のれんに傷をつけることはしないだろうと無難な人を選んでいるって側面もあると思いますよ」 

「う~ん、確かにそういうこともあるかもしれない」


 堂谷は腕を組んでしばし考えた。ことによると、この人は頑として自説を譲らないタイプではなく結構人の話も聞く人なのかもしれない。


「じゃ、こういうのはどうだ?」

堂谷はあっさりと別の提案を始めた。


「例えば『候補者・発掘アプリ』というのを開発する。これは候補者・志望の人が誰でもインストールできて議論が分かれている課題を二十項目ほど自分の政策で答えてもらう。その際、名前とか年齢とか学歴とか性別は一切記入せず、自分で決めたニックネームだけで勝負してもらう。つまり誰が答えているのか分からないようにし先入観も持たせない。各政党は『いいね』ポイントの高い候補者志望の中から、自分たちと考え方が似た人を選んで勧誘し、次の選挙の候補者なってもらうというものだ」


「それは現代のようなSNS文化が発達した時代には面白いかもしれませんね。というところで、待っておられる方も多いので……」


 多比余が次のゲストに移ろうとした時、堂谷がスタジオを見回してポツンと呟いた。


「しかし、このユー〇ューブってのはすげえな。よく独禁法に引っかからないもんだ」


「グワ~、それはNGです! みなさん、何も聞かなかったことにしましょう。ハイでは次の候補者の主張に移りたいと思います。それでは今度は、蔵沢さんどうですか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ