座談会・今回これだけ多くの人が都知事選に出馬した理由。
指名された小賀津は、ちょっとうろたえながら「エッ、私ですか? 私はある易者さんから『選挙に出なさい』と言われたんです」と答えた。
小賀津が語った理由。それは俺が出馬したきっかけとまったく同じだった。
「あの、もしかして中円寺駅前の商店街にいるお婆さんじゃないですか?」
「そうです。佐内さん、どうしてご存じなんですか? 今回の選挙に出たら人生が驚くような展開を見せ始めるけど、もし出なかったら悲惨な運命が待ち受けていると……」
「ハハ、まったく同じです……」
俺はもう笑うしかなかった。
これには多比余も目を丸くして驚き、
「エ~っと、皆さんの中に小賀津さんや佐内さんと同じ理由で出られたという方は?」
すると堀木と藏沢も驚いたような顔で手を上げた。多比余はどこかのお笑い劇団のように、大げさにずっこけた。
「わたくしたった今、大変なことに気づきました。今回の都知事選で過去最高の三十一名も出馬された理由が判明いたしました。なんと一人の易者さんが演出していたんです!」
〈じゃあ、ほとんどの候補者は中円寺周辺の人たちなんだな〉
〈すげえな。日本の運命を変革させる易者さん〉
〈いや、それはナイナイ。泡沫候補がやたら出て来ただけじゃんか〉
「フフフ、良い仕事をしたようじゃの。ベヒン・アルムテ」
「なんですか? そのベヒンさんてのは」多比余が不思議そうに聞くと夏風は「易者として地球に降り立った宇宙工作員じゃ!」と反り返って答えた。
「夏風さんにお聞きしたのが間違いだったようです」と多比余が無情に質問を打ち切ると夏風は「あ~、ちょっと……」と泣きそうな顔になった。やはり時々素が出るようだ。
〈でもその易者さんって誰だよ?〉
〈ほらあの人、ちょっと前まで『渋谷のおっかさん』って言って縁結びで有名だった人。列ができて迷惑だからと渋谷から追い出された人だよ。今は中円寺にいるらしいよ〉
〈でも今は誰も並んでないのね。トレンドじゃなくなったから?〉
「視聴者で詳しい人がいました。じゃあ、佐内さんもなにか相談されたわけですね」
「なんだか人生に行き詰ってたものですから」
「でも『ババ抜き型商品券』とか『波力発電』とかの構想はすぐに浮かんだものじゃないでしょ? ああいうのは昔から考えていたってことですね」
「ええ、そうですね。友人と飲んだりした時によく話題にしていました。なんで政治家は『これからの日本は大変になるから、国民の皆様には心苦しい話ですが』なんて後ろ向きのことしか言わないんだろう? 税金を使ってバラ撒くことなんて誰でもできるけど『税金を使わなくても、こうすりゃ明るい未来が開けるよ』って言ってくれたらみんなどんなに喜ぶだろうって話してたんですよ」
「友達とグチっつていたの私も同じです」
小賀津もそう言って笑った。
「縁を結ぶ易者さんか。私たちがここに集まったのも縁かもしれませんねえ」と田乃郷が呟くと
「じゃあ、みんなで政党でも作りましょうか」と藏沢が冗談めかして言った。
「おめえと? 全然考え方が違うじゃねえかよ。第一俺はその易者に勧められて出馬したわけじゃねえぞ」
堂谷はそう言ったが、まんざらでもなさそうで「政策研究会ぐらいがいいんじゃないか?」と続けた。
「面白そうね。名前とか決めるの?」
真奈美が聞くと、言い出しっぺの藏沢が「泡沫候補の集まりだから、泡沫会!」と即座に答えた。
「なんだよ。ひでえ名前だな。でもいいよそれで。じゃ、会長は田乃郷さんになってもらうか」
堂谷がかってに会長を決定した。
「まあ今回の都知事選では、みなさんそれぞれの主張もあるでしょうが、泡沫会として何か一つ共通の公約みたいなものを出されたらどうでしょうか?」
多比余が座談会を締めに入って来たようだ。
時計を見るとライブ放送が始まってから、もうすぐ一時間半になる。
「そうだな。軍事費をGDPの5パーセント超にして宇宙艦隊を創設して月からヘリウム3を発掘して核融合炉を作るっていうのは?」
「堂谷さん、それを本気で言ってるんなら泡沫会を出て行ってもらいますよ。それより人権省を創設して法務省をその傘下に置くってのはどうかしら? ついでにその大臣は、その時の野党第一党から出すってことにするの」
「それはかなりハードルが高いわね」
真奈美が笑う。
〈www この二人はダメだねえ〉
「こういうのはどうかな?」
と、手を挙げたのは田乃郷だった。
「東京でも最近共同溝といってガスや水道、電気などをまとめるインフラ整備が進んできている。その際にこれまで中央部が凸型だった道路を凹型にするんだ。これは車が雨水などを歩道側に巻きあげることを防ぐ仕組みなんだ」
「それはヨーロッパなどにはよく見られる構造ですね。都市設計にも誰を中心に考えるのかという設計思想のようなものがあると思います。私は賛成ですよ」
蔵沢が賛同した。他の人達からも異論は漏れなかった。
「他にはないですか? 佐内君は何かある?」
「さっきの東京都モデルのカウンセラー養成は共同提案すればいいんじゃないですか?」
俺が発言すると「ああ、それはやりましょう」と藏沢は手を打って賛同してくれた。「で他にないですか?」と周りを見渡した。
「あの、東京都モデルの対ストーカー・ボランティア・ガードマンを設立するのは……」
小さな声だったので、最初は誰が言ったのか分からなかったが、発言者は夏風だった。
俺は視聴者の『ストーカーに連れ去られて三か月間行方が分からなかったナナさん』というコメント文を思い出した。
「いいかもしれませんねそれ。ドメスティックバイオレンスなんかにも対応できるボランティアだったらなおいいかも」
俺がそう言うと小賀津がコクコクと頷いた。
「じゃ、これらを共同提案として、それぞれの演説会で付け加えることにしましょう」
藏沢が宣言すると、それまでアンドロイドのようだった夏風の表情が溶けて、ちょっとだけうれしそうな笑顔になった。
「それではお時間になりました。みなさん今日はお越し頂き、ありがとうございました。都知事選、それぞれのご検討をお祈りします。視聴者の皆さんもご視聴、コメントありがとうございました」
多比余が締めの言葉を言って座談会をお開きにした。




