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座談会・日本のGDPの伸び率はなぜ低いのか?

「エ~、今回の都知事選に立候補された三十一名の方の中から、あまりマスコミには取り上げられない候補者で、尚且つこの番組に快く出演を承諾してくださった方七名をお招きし、あ、途中で乱入された方もいましたね。そうやって開いた座談会も終盤に近付いてまいりました。そこで『タビトの未来政経予測』のスタジオに来て下さったゲストの方全員にしております質問・『日本のGDPの伸び率はなぜ低いのか?』を今回のゲストの方達にもしてみようかと思います。


 そう言いながら多比余は誰を指名しようかと見渡しているようだった。


「現在日本はコロナ禍からも徐々に立ち直ってきて、経済活動も活発になってきています。ですが、それでもなお諸外国と比べるとGDPの伸び率は低くて『ジャパニフィケーション(日本病)』などと呼ばれています。先ほど、みなさんからお聞きした都知事選の政策の中でも、一部の方から経済活動が活発にならないのは、老齢化が進んでいるにもかかわらず、老人が働けるような仕組みを作らないため貯蓄は増えても、物を買ってもらえないのだという指摘、これは田乃郷さんでしたね。また堀木さんからは、ゴミの捨て方がどんどん複雑になると共に家電ゴミ排出の有料化が進むことで人は物を買わなくなったからだという指摘もありました。それとよく言われる理由としては少子化による影響で購買意欲のある若い人の割合が減ったというのもあります。他に何か原因があると思われるところはないですか?」


〈賃金は上がらないのに、円安の影響か食料品も電気代も大幅アップで私はもう大変!〉

〈悪い物価上昇というやつだな〉

 視聴者からも生活が苦しいというコメントが次々に上がってくる。


 田乃郷が手を上げて「視聴者のコメントにもありましたが、円安が進んでいるというのは、金利の影響だと思いますが、そもそも日本の国際競争力が落ちているのも原因だと思いますね。海運業を営んできた私の立場から言えば、拠点港の整備がライバル国と比べると遅れているのも一因かと思います」と言った。


「その話は、以前ここに来てもらった時にも話されたかと思いますが、それを聞いていなかった人もいると思うので、もう一度話していただきましょう」


〈wwwww〉

〈まあ、田乃郷さんもプロの政治家じゃないんだから、そんなにネタはないよな〉


 視聴者達は好き勝手なことを言った。

 しかし田乃郷は持論の説明に入っていた。


「最近は巨大コンテナ船が日本をスルーして中国の上海港や韓国の釜山港に行ってしまうことが多くなっているんです。別に構わないじゃないかと思われるかもしれませんが、日本の港がローカル港になり一旦、他の国の港を通さなければ輸出できなくなると余分な日数とコストがかかってしまい、結果的に品物が売れなくなるのです。ですから拠点港の抜本的な整備は急を要することなのです」


「そうですね。国土交通省のウェブサイトで『CONTAINERISATION INTERNATIONAL YEARBOOK』という項目を見ますと1980年当時コンテナ取扱量18位だった東京港は2021年には41位に、神戸港にいたっては阪神大震災以降の落ち込みが酷く4位から73位に落ちています。2021年の1位はシャンハイ港、2位はシンガポール港と続き7位に釜山港、10位ロッテルダム港などとなっています」

 多比余は比較表をモニター画面に映し出した。


〈確かに落ち込みが酷いですな〉

〈ハブ港を目指してたのに、ハブられる〉

〈wwwww〉

〈空港では、シンガポールのチャンギ空港がアジアのハブ空港になっていて、空港そのものが観光施設になっていたりしてすごいとか言われるけど、港についてはあんまり知らなかったな〉


 比較表をよく見ると日本の港の取扱量が減ったというよりは、中国や韓国の港のコンテナ取扱量が爆発的に伸びているようで、それに比べると日本の港はあまり伸びていないということのようだ。


「原因は色々あると言われておって、慢性的な人手不足や港湾利用料が高いことなどですが、どうかな佐内君なにか対策とかは考えられますか?」

 田乃郷がまでが急に俺に振って来たので驚いた。


 何とかそれらしい答えをしなければいけないと思ったのだが、港については元々考えたことすらないので何もわからない。しようがないので知っていることを集めて言ってみた。


「空港でも日本は本当に必要だろうかと思える地方空港を作ることがあって、その予算をハブ空港の整備に回せないんだろうかと思うことがあります。港に関する政策でも案外同じようなことをしているのではないでしょうか。中国が一帯一路構想を打ち出して、国家として強力に拠点港の整備を進めたように、日本も拠点港を絞って拡充を進めないといけないのではないかと思います」

 と切り出した。


「それで対策としては、人手不足を解消するため新しい技術を用いることはできないのかなと思います。例えば宅配便の物流センターでは高度に自動化がされ、段ボール箱が手早く仕分けされています。重く大きいコンテナはそこまでの自動化はできてないですよね。けれど世界標準とされているコンテナの大きさは統一されています。だったらこれをベルトコンベアーに載せて仕分けできれば、かなり敏速な物流が可能なのではないかと思うんです」


〈この人、パレット荷役のことを言ってるのかな? コンテナが重いの知ってる?〉

〈ダンボール箱の仕分けと一緒にされてもな。wwww〉


 コメントは無視することにした。


「それに船そのものもコンテナをスライドして取り出せれば……」

 と続けようとした俺を堂谷が遮った。


「せっかくだが、コンテナ船にラックを作るのは無理だと思うぞ。重いコンテナを数千個も乗っけるラックを船に取り付けたら総トン数が物凄く重くなるだろ? そんなのを載っけるくらいなら今のままコンテナを積み重ねた方が経済効率がいいんだよ」


「あっ、そうですね。素人考えでした」

 俺は頭を掻くしかなかった。


「でもな。港に下ろした後なら、段ボール箱のようにベルトコンベアーで仕分けて、各地に向かう小型船や貨車に自動で積み込むのはいいかもな。実はな、国際海上コンテナで多用される高さ9 ft 6 inのものは日本の貨車に詰めないんだ。高さ制限に引っかかってな。そうですよね。田乃郷さん」


「そうなんですよ。日本国内で貨車に積んでいるものは少し小型のもので高さ8 ft 6 in のものが主流なんでね。つまりコンテナの中身を入れ替える必要があるのでトラック輸送が主流になってるんですよ。ただ最近は貨車でも低床型のものが登場してきているんで、そういう貨車が多くなってくるとスムーズな積み替え輸送ができるようになるでしょうね」


「まあ、将来はコンテナも単なる箱と考えて、佐内君の言うような超巨大な物流センターができるかもしれないね」

 堂谷は少しだけフォローしてくれた。


「みんなでアイデアを出し合って未来を考えるのはいいことですね。それで田乃郷さん、日本のGDPの伸び率はなぜ低いのかについてですが、まだありますか?」

 多比余はもう一度、田乃郷にバトンを戻した。


「そうですね。これは意外に思われるかもしれませんが、日本人は会社に対するエンゲージメント、つまり帰属意識が低いので、これが改善できればいいですね」と言った。


「エッ帰属意識が低い? 私は逆だと思っていましたが」

 怪訝そうな表情でそう言ったのはゴミ政策の堀木だった。


「いやね。これはロッシェル・カップとかいうアメリカ人のコンサルタントが言っていることなんですがね。今の日本人には、あまり会社を背負っているという意識は無いそうです。だから労働生産性も低く出るとか」


「労働生産性という点では日本の労働効率と時間当たりの生産量が低いのは事実なようで、OECD加盟国38カ国中、日本は28位で首位のアイルランドの4割という順だそうです。ちなみにその前に言われた会社に対する帰属意識では、マーサーが世界22カ国のエンゲージメントレベルを評価したと、インドの評価点が高く25%でトップとなりメキシコが2位で評価点19%、アメリカはその中間で評価点1%です。日本は最下位で評価点はマイナス23%だったそうです。またヘイグループによる2013年の社員エンゲージメントトレンドに関するグローバル調査でも同じような結果が出ています」


 多比余が田乃郷の指摘したデーターを素早く検索してモニター画面に表示した。見ていて驚くのはこちらに笑顔を振りまきながら、キーボードを高速で叩いているにもかかわらず、タイプミスが無いということだ。


「へえ~、そうなんですね」

 堀木が納得したように呟いた。


「でも確かに意外な数字ですね。これを見て今日お越しのみなさんはどう思われますか?」

 多比余が俺たちゲストに意見を求めた。


「ドラマではすぐにクビになるシーンがあるのに、アメリカは日本より会社に対する帰属意識が高いんですね」と小賀津が不思議そうに言うと、藏沢が「そうね。確かに向こうでは転職をキャリアアップと捉えるからね。自分が今の仕事に合わないなと考えたらすぐに転職してやりたい仕事を探すのよね。でも日本では何度も会社を変わることを良い事だとは考えないから窓際族にされても会社にしがみつこうとする人がけっこういるのよね。本人はとっくに仕事に対する情熱を失ってるはずね」と答えた。


「だったらまた終身雇用制に戻せばいいんじゃねえか? 昔は終身雇用制だから会社に対する忠誠心もあったが、今は簡単にクビを言い渡されるから帰属意識も薄れるのさ」

 堂谷が言った。


「堂谷さんのような意見もよく耳にするんですがグローバル化した今の時代、終身雇用制を貫くのは大変なんですよ。業績は世界情勢によっても良くなったり落ち込んだりするけど、社員の数は減らせない。でも給料は待ってもらえないでしょ。銀行も不良債権になるのを嫌うのでドライに対応するでしょうし」

 と真奈美が説明した。しかし堂谷はめげない。


「その外的要因を作ったのも政治が無策だからじゃねえのか? 日本人は何でもかんでも、おだてられたらすぐに教えちゃうから技術も流出したんで、それを押し留められなかった政治力にも問題があったんじゃねえか?」


 この人らしい考え方だと思う。


〈半導体の件かな?〉

〈90年代には世界の半導体の半数を占めていたのに、どんどん落ちて行って、2020年には僅か6パーセントだからね〉


「偏狭な……」

 藏沢がポツンと言ったことで堂谷が怒った。


「なんだと、お前はいつも俺の言うことに反対するようだな」


「ハイ、もめないでくださいね。もう堂谷さんに藏沢さんが絡むといつも、こんな方向になっちゃうんですね」


〈この二人、本当に相性が悪いね〉

〈wwwww〉


「ではまた話題を変えましょう。先ほど田乃郷さんからは、この都知事選に出馬したいきさつを聞きしましたが、他の皆さんは今回どうして出馬されたんでしょうか。小賀津さんはどうですか?」


 多比余は目が合った小賀津に尋ねた。


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