表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

座談会・ちょっとピザタイム

「ここで今回の都知事選の選挙風景を撮影し、予め私達が解説を入れた映像がありますので、こちらをちょっと御覧いただけたらと思います」


 モニターには有力な候補だけでなく、俺たち泡沫候補の街頭演説する様子も映されている。もっとも俺は街頭演説などしていないので出てくるのは他の候補者だ。

 多比余自ら編集したのか主な政策だけがピックアップされて放映されている。


「あの映像を撮ったのはエッちゃんかい?」

 と堂谷が尋ねた。


「ええそうです。エッちゃんには色々な演説会場に行ってもらいました」


「なんだそうか。俺の街頭演説を熱心に撮っている女性がいたので、俺はまた熱心なファンがいるなあと思っていたよ」

 と言いながら笑った。


「というところで、映像が流れている間、みなさんには宅配ピザが届いておりますので,これを摘まみながら、ほんの一時ですが親睦会を開いていただけたらと思います。缶ビールも希望される人には1本お付けしますが他の人に絡んだり、またこの後、締めの放送がありますのであまり酔ったりしないようにして下さい」

 多比余がそう言うと、堂谷が上機嫌で「いいね。なかなか気が利くじゃないか」と喜んだ。


 エッちゃんはカメラを定点撮影に変えて、キッチンに走って行き、しばらくすると昔の新幹線の車内販売員のようなワゴンにピザやコーヒー、缶ビールと紙コップ、お菓子などを積み込んで戻って来た。


「それにしてもエッちゃんさんって、よく動かれますね。ここの社員の方ですか?」

 俺が多比余に尋ねると、「あの人は私の姉さんです」とあっさり答えた。


 姉さん? 妹じゃなく? 多比余はどう見ても四十歳位に見えるので、それが本当だとするとエッちゃんもその年齢ということになるが、どう見ても二十代にしか見えない。


 いやそれより姉さんにバニーガールやらしてるのかこの人は? と俺は驚愕した。


 今は休憩中ということで、音声は流れていないが、『エッちゃんは俺の嫁』などとコメントしている視聴者は実年齢を聞くとショックを受けるかもしれない。


 それはともかく、僅かな時間の親睦会でも、誰とでも話してもいいなら俺は小賀津さんがいいなと話しかけようとすると、それよりも早く「あの佐内さん」と夏風から、ロボットのように抑揚のない声をかけられた。


「ヒイ。何でしょうか」


 と答えた時、堂谷がビール缶を持って俺と夏風の間に割って入った。

「ごめんよ。ちょっと佐内君と話がしてえんだ」


 夏風は一瞬だけ嫌そうな顔をしたがすぐに無表情な顔に戻りピザを食べ始めた。


 俺にしてみれば夏風も怖いが、堂谷はもっとヤバイ人に思える。

 いったいどうして俺はこの人達から関心を持たれたんだろう?


「君とは話が合うような気がしてね」

 と堂谷が言った。


「ハア……」


「さっきカスピ海の怪物の話をしただろう? きっと君は軍事関連のことにも関心があるに違いないと思ったんだよ」

 なるほど。あの話がマズかったのか。


「俺は防衛問題を主に雑誌やSNSで発信しているんだが、例のロシアとウクライナの戦争から、戦闘様式がそれまでのものとは変わってきたんだ。君も知っているようにドローンを使った攻撃だな。そんな中で自衛隊の駆逐艦がドローンよって空撮され、某国のSNSで流される事件が起きた。攻撃こそされなかったが、戦い方が変わったのだと業界の者なら誰もが認識しただろう。そこで君に聞いてみたいのは、こういった時代、次に出てくるであろう防衛技術だ。何か思いつくものはないかい?」

 堂谷はとんでもないことを聞いてきた。そんなもの考えたこともない。


 だが、この場はなんとか言い逃れをしなければいけない。

 そんな危うい場に俺はいる。そう感じて、


「そ、そうですね。誰もが考えることの逆の方に道がありそうな気がします」

 と、易者が言いそうな、あいまいな言葉で逃れようとした。


「何、そりゃ、どういうことだ?」

 堂谷が、ギロリと俺を睨んで少し大きな声で聞いてきた。


 こうなれば、なんとかそれらしいことを言わざるを得ない。

「つまり、そうステルスの逆です」


「最近は戦闘機でも駆逐艦でもレーダーに捕捉されにくいステルス技術を備えるのにどの国も懸命に取組んでいるが、それの逆とはどういうことだ。レーダーに映ったら即攻撃の対象になるじゃないか」


「いえ、だからそれでいいんです。僕の言ってるのは、デコイのことですから」


「つまり囮だな。戦闘機は元々チャフというアルミの破片みたいなものを使って、レーダーを攪乱し攻撃してくるミサイルの囮に使っているが、それを大掛かりにしたものと考えればいいのかな。つまり自力で飛ぶチャフということか……」


 堂谷は感心したように頷いたが、実は俺は軍事情報に疎くチャフというのが単に煙幕のようなものだと思っていた。


「で、その逆ステルス技術を使ったドローンをどう使うんだ? 迎撃されるだけのものか?」


 何も考えてなかった俺は少し焦ったがちょっとだけ話を盛ることにした。


「別に撃ち落とされてもかまいませんが経費節約のため煙幕代わりに安価な火山灰でも積んでおき、それをイカが墨を吐くように空にぶちまけて逃げます。最近はドローンが戦闘にも多用されていますが、何も攻撃に特化させることはない。ステルス戦闘機はレーダーに映しても鳥か虫ほどの大きさにしか見えないと言います。では逆に全長1mに満たないジェット推進のドローンが、大きな飛行機に見えて、これが編隊で飛んで来たとしたら」


 例えばスクランブル緊急発進を1回行うだけでも相当な航空燃料が必要だろう。それと隊員達の負担も大きいはずだ。だから10回の内2.3回でも逆ステルス装置を積んだドローンが飛んできたのに気づかず、国籍不明機が引き上げてくれたら大幅な経費削減になるかもしれない。俺はそのくらいのつもりで言ったのだ。しかし堂谷の受け取り方は違っていた。


「大きな飛行機に見える? 例えばB52みたいに見えるのか! そりゃあ向こうも泡を食うな。迎撃用の戦闘機が慌てて編隊を組んでやって来るかもな。その上、火山灰をばらまいて光波ホーミング対策をすると共に、背後の戦闘機が吸い込むとエンジンの掃除も必要になるな。それとこの逆ステルス技術は海上でも使えそうだな。つまりプレジャーボート級のドローン数隻が、レーダーには空母打撃群に見えるはずだ。潜水型のドローンだと、もう躍起になって追跡して来るだろうな。相手国には相当な負担になるぞ。実は最近のトレンドで、戦闘一回当たりの経費を如何に安く抑えるかが重要だと言われているんだ。高価な兵器はここぞという時に投入すべきで、常に使っていればどれほど経済力のある国でも持たない。そういう意味でも、君の言う逆ステルスが開発されると軍事費が抑えられるし、もはやレーダーだけでは安心できず目視に頼らなければいけない時代に戻るかもしれないな。面白い‼」


 かなり俺が思っていたことからは飛躍しているが、堂谷はどうやら満足してくれたようだ。しかし、まだ俺を開放してくれない。また次の話を振ってきそうだなと思った時,助け船が入った。


「ちょっと堂谷さん、あんた純朴な青年に何ぶっそうな話をさせているのよ!」

 そう言ったのは蔵沢だった。


 蔵沢は堂谷を自分の席に戻るように指図して、代わりに俺の横に座った。

 堂谷は「チェッ」と言いながらも意外におとなしく自席に戻った。

 夏風は黙々とピザを食べていて、小賀津はこの様子を見てクスクスと笑っている。


「初めまして蔵沢です」

 蔵沢は候補者流の挨拶なのか両手で俺の手を握った。


「ああどうも」

 口下手な俺は、そう言ってピョコンと頭を下げるのが精一杯だった。


「佐内君には、もっと平和的なアイデアを出してもらわないとね。というわけで、話というのは例えばユーチューバーの多比余さんならパソコンやスマホなんて簡単に使いこなすけどさ、私たちのようなちょっとだけ年配の女子はかなり苦手意識が強いのよ。中でも困っているのはパスワードでさ。これが本当に大変! 使いまわしはダメだっていうし、時々変えろって言うし、でもって忘れるし、けどメモしちゃ危険だっていうしさ。で、佐内君がこれを解消するなにか良いアイデアは浮かばない?」


 などと言われても、確かに誰でも困っているだろうが、開き直ってすぐに出てきそうな簡単なものにするか、そうでなければ複雑極まりないものにするしかない。ただ最近は、複雑なパスワードをマイクロソフトが生成して、しかも覚えていてくれる。それで蔵沢さんに言ってみたのだが、「それではダメなんです」と首を振る。


 彼女によれば自分のパスワードを他者に覚えてもらうというのも危険だし、第一マイクロソフトのアカウントにもパスワードがあって、それが分からなくなるのだと言う。


「とにかく本当に使いにくいったらないのよ」

 そう言って彼女はため息をついた。


 そこで何か返さなければいけないなと思って、

「そうですね。自分だけが使えるハンコみたいなものがあればいいですね」

 と言ってみた。


「そうね。でもさすがにパソコンにハンコは使えないし」


「だったら、こういうのがあればいいですね。ハンコの役割をするUSBとか。そこにすべてのアプリのパスワードを入れとけば必要な時に承認作業をしてもらえるというわけです」


「そりゃダメだろ。他の人に盗、その人間が全部財産をかっさらっちまう」

 話を盗み聞きしていたのか堂谷が割って入ってきた。


「ですからUSBの手で持つ部分で指紋認証を逐一させるんですよ」


「それだと犯罪組織に指を切りとられる奴も出てくるんじゃないか?」


「血の流れが感知できないと認証しないようにしとくのはどうですか?」


「ああ、それはいいかも。佐内君、それ作って」

 と蔵沢が言う。無理に決まってるだろう。俺は技術者じゃないし。


「佐内君は人気があるねえ」と田乃郷が笑った。

 こんなふうに俺の話を真剣に聞いてくれる人たちがいるのか。それは純粋にうれしかった。

 俺はあの易者の言葉を思い出しながら、今までと違う自分に成れるかもしれないと思った。

 今回の知事選には当選できる確率はない。でも今後なにか機会があれば政治に関する仕事に就ければ面白いかもしれない。


「はい、みなさん親睦会は楽しんでいただけましたでしょうか。まもなく映像が終わりますので、締めの座談会に入ります」

 多比余がそう宣言した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ