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座談会・ドイツやフランスと比べると日本の地方議員報酬が高すぎる?

「さて、ここまでの話に関連してでもいいですし、別の話題でも構いませんが、他の皆さんは何か思うところはありませんか?」

 多比余はそう言いながら堀木や夏風を見た。彼らから発言はなかったが、代わりに田乃郷が口を開いた。


「そうですねえ。私は思うんですけど、昭和の時代の頃と比べると街中はきれいになってタバコのポイ捨ても空き缶が転がっていることもなくなりました。それはいいんですが、町の美しさと引き換えに無機質になったというか、社会全体が不寛容になったように思います。今では野良猫に餌を与えても怒られることがありますが、私の子供の頃は野良犬が町中をウロウロしてまして、犬に餌やりをしている人も沢山いました。あれはやさしい時代の風物だったんだなと思います」


〈今では犬の代わりにクマが出ます。他にイノシシも〉


「世界一クリーンな都市と言われても、そこで生きる人にとっては必ずしも住みやすい都市ではないということでしょうか?」

 と真奈美が言うと、田乃郷は「なんでも過ぎたるは及ばざるがごとしということなんでしょうね」と笑った。


「不寛容といえば、子供の声がうるさいからと公園が閉鎖になったり、カエルの鳴き声がうるさいといって、農家の人になんとかしろとクレームを入れる人もいましたね」

 俺は田乃郷の話を補完した。


「佐内さんが言われた、話は国会でも取り上げられましたが、ドイツでは2011年5月に「子どもの声」をめぐって連邦法が改正され、乳幼児や児童保育施設、児童遊戯施設などから発生する音を、環境騒音からは除外したそうです」


「それそれ、そういったことを視察するべきなんだよ。議員さんもエッフェル塔とかゴルフ場で観光旅行ばかりしていないでね」

 堂谷がまたもや食い込んできた。


「こういうのは他にもいっぱいあるだろ? 例えばよく障害者施設とかを建設する時に住民が反対運動を起こしたりするのを聞いたことがあるがな」


「エ~そうですね。例えばオランダでは、障害者が地域社会で暮らすことを目指し、障害者が自分で選んだ場所で暮らせるようにする『個人化支援』が進んでいて、障害者が自分で選んだ場所に住むことができるようになっています」

 多比余が答えると、


「つまり視察と言えばビジネスクラスを使って観光旅行をする議員が多いが、こういうのを視察してきて欲しいな。最近地方議会でもさほど必要のない目的で渡航するのが問題になっていたが、それでいて議員報酬は高い。ロンドンでの市会議員は名誉職で給料も出ないらしいが、それは例外としてもドイツとかフランスの地方議員報酬も低いんじゃないかい?」

 堂谷がまた暴走を開始した。それに多比余も付き合う。


「え~、フランスの地方議員報酬は地域によって異なりますが、平均的な報酬は月額1500ユーロ程度とされています。ドイツでも州によって異なりますが、平均的な報酬は月額2000ユーロ程度だそうです」


「さすがに早いねえ多比余君は……パソコンを使いこなしてるってことか。で、1500ユーロに2000ユーロってのは日本円だといくらになるんだい?」


「まあ、日によって違いますが150円としますと、フランスでは月額で22万5千円程度。ドイツだと30万円ってとこですね」


「一方で日本の地方議員の平均は?」


「2019年時点のデーターだと、日本の地方議会議員の平均月額報酬が約82万8千円で実際はこれに加えてボーナスや政務活動費などが加算されることになるそうです。ちなみに東京都議会議員の年酬は1226万円とされていますが、ここに期末手当434万円政務活動費720万円、費用弁償40万円が含まれますから、ざっと2400万円、月額にすると200万円ですね」


〈政治家、美味しい仕事だな〉

〈自分たちで予算を作るんだからまあ、そうなるわな〉


「ふん、フランスやドイツに比べるとだいぶ貰ってるようだな。じゃ、もうひとつ比較してくれるか。日本の基礎年金は社会保険料なんかを引かれると5万円に満たないらしいがフランスやドイツでは国民年金は基本的にいくら貰えるんだい?」


「消費税率が20パーセントの国と10パーセントの日本では比較できないですよ」


「でも地方議員の給料は日本の方が高いんだよな」


「そうですね。まあそれで言うとフランスでは月額で1200ユーロです。1ユーロが150円とすると18万円。ドイツは1300ユーロで19万5千円になりますね」


〈堂谷、おまえ日本が嫌ならフランスかドイツに住めよ〉

 堂谷がモニターに流れた視聴者からのコメントに切れた。


「バカヤロー。俺は日本人だから日本が良くなってもらいてえんじゃねえか。もし俺がアメリカ人ならアメリカの酷えところを突くよ。いいか、この国が一番発展した時期は明治維新の後と戦後の20年だ。共通点は客観的に自国を見て、その弱点を修正した時期だ。逆に迷走したのは戦争前の20年とバブルの頃だ。共通点は日本人が『世界に冠たる一等国‼』などという自尊心から自国を客観的に見れなくなった時期だ。巷ではユーチ〇ーブなどの動画サイトで、周辺国の勘違いストーリーが大人気なようだが、よそのことを言う前に我々自身もそうなっていないかを常に考える必要があるんじゃないか?」


「まあまあ堂谷さん、視聴者とやりあわないで。要するに地方議員にそれだけ払えるなら国民年金も上げろということですか?」


〈堂谷、どこかの政党の政治パフォーマンスみたいだな〉


「地方議員の給料を下げてもわずかな予算の削減にしかならないですよ。国民全体と地方議員の数を比べると母数が全然違うじゃないですか」

 またもや藏沢が食い込んだ。どうやら堂谷と藏沢はよほど相性が悪いようだ。


「それは分かってるよ。だが国民年金がフランスやドイツの1/3以下の5万円しか出せない貧乏国なのに、地方議員の給料は4倍以上というのはふざけていると思わないか?」


〈確かに。でもそれが実情です〉


「多比余君、ちょっと日本で年間所得が1千万を超える人の割合を調べてくれないか?」


「エェ~っとですね。日本の給与所得者のうち、年間所得が一千万円を超える人はですね全体で約5パーセントだそうです。ちなみに2022年の平均年収は458万円ですが、これには所得が極めて高い人が数値を押し上げていますので、中央値だと男性が356万円、女性が272万円だそうです」


「そんなもんだろうな。言うまでもなく議員は国民の代表として政治をしている。ならば所得も国民と同程度でないとな。人間は誰でも自分の目線でしか世界を見れない。もし議員報酬が年間1000万円ならば、それは国民の5%の代表ということになる。『パンが無ければケーキを食べればいい』なんて言った人が昔いたが」


「マリー・アントワネットですね」


「あの人も何も庶民をからかってそんなことを言ったんじゃないと思うよ。本当に彼女には分からなかったんだろう。要するに良かれと思って言ったことでさえ言語道断ということになる。議員だって同じなんだよ。1000万円以上の所得がある人と300万円の人とでは生活動線がまるで違う。だから高額所得がある議員には低所得者の生活実態が分らないんだ。以前某県が出した児童に関する条例案も実態にそぐわないと批判されて引っ込めることになった。たしかあの県ではエスカレーターも止まって乗らなければいけないというようなことも条例で出していたな」


「2021年に出された条例ですね。これはまあ、危ないですからね。まあ行き過ぎだとは思いますが」


「イギリスには確かエスカレーターについての厳格なルールがあったと思うが」


「ええっとこれですかね。Stand on the right と書かれてますね。まあ世界的にはこれが標準になっています。イギリスも日本と同じで車の追い越し車線は右側なんですが、この右立ち左歩きは世界標準になっています。東京ではなぜか逆ですが、大阪は70年の万博の時に決めたらしく世界標準に沿っています」


「要するにこういったエスカレーターで立ち止まれという条例も、黒塗りの高級車で送り迎えをしてもらっている議員たちが、民の安全のために良かれと思って考え出したものだろうが、やはり仕事に追われる庶民の生活が分かっていない。こういう能書きだけは立派だが庶民にとっては迷惑な瑕疵かし条例ばかり連発するのでは、やはり役に立っていない。昔の政治家は資本家の代表か労働者の代表だった。しかし今は違う。経営者だろうがサラリーマンだろうが、高額所得者か低額所得者かの違いがあるだけだ。その意味で言えば政治家たちは何党だろうが全員が貴族みたいなもんだな。そうだ。良いことを思いついたぞ」


 そういいながら堂谷はニヤリと笑った。どうせろくでもないことを思いついたんだろうと聞いていると、「いっそのこと議員報酬はオークション方式にしよう」と言い出した。


「オークション……、なんですかそれ?」


「選挙前に議員になりたい人を集めて『月額報酬10万円、いないか? では月額12万円。ハイ、1人上った。14万円いないか、いないか? ホイ、3人。あと議員定員は16人』というふうに報酬を決めるんだ。同額で定員以上になれば選挙ってわけだ。簡単だろ?」


「でも議員報酬をあまり安すると、ひどい人が出てきますよ。ワイロも横行するかも」

 冗談のような堂谷の提案に、堀木は真剣な表情で口を挟んだ。


〈ひどい人って堂谷さんみたいな? www〉


「あるいは議員報酬なんてもらわなくても贅沢な暮らしができる大金持ちばかりがでてきたら、それこそ庶民感覚とのズレがひどくなりますよ。他にもカルト教団の回し者とかね。それに言っときますけど地方議員の議員報酬や知事の報酬は条例によって定められています。議員個人が勝手に安くすることもできないんですよね」

 多比余がため息をつきながら言った。確かにそれは俺も聞いたことがある。


 そこに蔵沢が割って入った。

「ねえ、私思うんですけども報酬にしても視察旅行にしても、議員さんがある種の特権意識を持ってしまうのは私たちが先生先生って持ち上げるから悪いんじゃないかしら。だから自分は特別で高報酬も当たり前だと思い込むのよ。ほら心理学の実験でもあったでしょ。大学生を看守と受刑者に分けてしばらくその環境下に置くと、看守は看守らしく横暴になり、受刑者はビクビクするようになるってのが」


「今、藏沢さんが言ったのは1971年にスタンフォード大学でフィリップ・ジンバルドー氏が行った『監獄実験』というやつですね。大学生を看守役と囚人役に分け、人間の行動に与える状況の影響を調べることを目的としていました。しかし実験では予想以上に看守役は横暴に囚人役は卑屈になり、被験者たちのメンタルが壊れるほど深刻な問題が発生したため現在では倫理的に問題があるとされ、同様の実験は行われていないようです」

 多比余がまたしてもすばやく補足説明をした。


「多比余さん、ありがとう。その意味でもう一つ、問題があるなと思うのは『天下り』という言葉だわね。もちろんマスコミは半ばからかったようにして使っているけど、本来『天下り』というのは天上界から神が地上に降りて来ることを指します。さっきの監獄実験じゃないけど、自分が神のように扱われていると勘違いした人が、一般人をどう見るでしょうか。だから軽率な言い方は避けるべきだと私は思います」


「なるほど。日常なにげなく使っている表現の中にも言い方を変えた方がいい言葉があるということですね」


「それからな」

 とまた堂谷が発言した。


「ハイハイ、もう何でも聞きますよ」


「法令や条例が庶民感情から乖離してしまうのはマスコミにも問題があると思うぞ。番組を統括するのはこれも高額所得者だからかな。例えばどんな良い条例を作っても、それを順守できない者もいる。これはその人に問題があるんだろう。だが100人のうち90人以上守れない条例であればこれは条例の方がおかしいんだ。しかしあるテレビ番組では採択された条例に寄り添った形で、条例を守らない人を見つけ出しては非難がましく強硬インタビューをしている。そこにはもしかしたら条例の方が変なのではないかという批判精神が欠如している。だからこのところ自由な発想をするユーチューブにやられるんだよ。もっとも多比余君も高額所得者だと思うがな」


 この言動に多比余は少し気に障ったようだったが、すぐに体勢を立て直し、


「わたくしは過去、低所得にあえいでいた時期もありますから、庶民感覚とさほど乖離はしてないと思いますよ」と切り返し笑顔に戻って「この他にも皆さん、なにかありますか?」と俺達に尋ねた。


 座談会の参加者からは特に手が上がらなかった。




この小説の中では1ユーロを150円として計算していますが、2024年6月9日の時点では1ユーロ、169円です。

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