破壊神と呼ばれた令嬢は、運命の相手との恋を夢見る。
私が怪力なので、それを思いながらこういう令嬢もいいよね!って感じで作成した小説です!
「クロエ…君は今、何をしたんだい?」
「えっと…フォークを曲げました…」
「どうすればそうなるんだ…」
「普通に…ケーキを食べようとしただけなんです…」
「そんなことはありえない。か弱い令嬢なら特にだ」
焦げ茶色の髪に翡翠の瞳をした爽やかな男性が、呆れながら冷ややかな視線を投げつけてくる。
本当に、食べようとしただけなのに。自分が思っている以上に力が入っただけなのです。
「まさかだが…ソニアとの関係に嫉妬したのでは?」
「あ、ありえませんっっ」
「必死になるとは…ますます怪しいな」
「信じてくださいませっ、ジョエル様っ」
爽やかな男性は、クロエの婚約者であるジョエル・ウディノ伯爵令息。その隣には、男爵令嬢であるソニア様が顔を真っ青にして怯えている。
何故、私の婚約者の隣にソニア様がいらっしゃるのか…。それは2人が相思相愛でいるから。
私ことクロエはノヴェール侯爵家の長女である。伯爵家の財政難を救うために、侯爵家が支援するいわば政略結婚が2人の間で結ばれている。
そんな私たちだからこそ、お互いに何の感情もない。だからジョエル様がソニア様を愛してしまうのは仕方ないことなのだ。
私とソニア様は学園で同級生。そして、ジョエル様は私の1つ上の上級生でした。ソニア様はふわふわのスフレケーキのように愛らしく、常に令息方の注目の的でした。
ジョエル様もソニア様の愛らしさに触れて、少しずつ仲を深めていっていたそうです。
相思相愛なんて素晴らしい…という考えの持ち主なので、お2人の仲に嫉妬するなんて微塵もございません。
だって…ジョエル様のこと、好きではありませんので。
良き夫婦関係を結べれば…とだけ考えていましたので、嫉妬なんていう感情は持ち合わせておりません。
ですが、私が何か言えば言うほど墓穴を掘ってしまいそうな気がします…。
だって…私はお2人の雰囲気を見て微笑ましいなぁ。って思っていると、力加減を間違えてスプーンを曲げてしまっただけなのですから。
「クロエ…君は、ソニアの事を階段から突き落としたんだって?」
「…ひぃっ」
ソニア様を階段から突き落とす!?なんて酷い。
私が突き落とすと、ソニア様はただの骨折で済みません。何ヶ所か骨折…最悪、打ちどころが悪く頭蓋内で出血してしまうかも…。
ただ、ソニア様の身を想像して悲鳴を上げたのに、何故かジョエル様からは不思議がられます。
だから、貴方は私の生まれつきの馬鹿力を存じ上げないから、そんな酷いことをつらつらと仰るんですわ。
それに、ジョエル様が大きな声を出すものだから私たちに注目が集まってしまってます。
今日の主役は王女殿下の生誕祭で、私たちは脇役なのです。
是非とも、是非とも皆様こちらを見ないでいただけると幸いなのですが。
なんて希望は全く通らず、野次馬魂に火がついた貴族の方々は、興味津々に見ておられます。
あぁ…私の一時の緩みでこんな事件を巻き起こしてしまうなんて。
「私は…そんなことしておりませんっっ」
最後の最後で振り絞り叫んで逃げようと振り返る、と同時に何か大きな音が鳴り響く。そして、私の目の前には砂埃が舞っている。
私が振り返ってぶつかったのが、王宮の胴像と気づいたのは、ソニア様の悲鳴で。
「おい…無傷だぞ」
近くにいた貴族の方から驚きの声が漏れる。
無傷ではありません。多少おでこが痛いくらいです。
ですが、私は無傷で硬いはずの銅像が木っ端微塵になっているのが事実です。
恥ずかしさより自分の力加減が効かない事に恐怖を感じた私は、逃げるようにして王宮を後にしたのです。
その後どうなったかを確認する前にです。
***
王女殿下の生誕祭で起きた騒ぎの後、ジョエル様から婚約破棄のお手紙をいただきました。
『令嬢に有るまじき力を持っている。将来を脅かされたため、婚約を破棄していただきたい』
お父様は手紙を破く勢いでしたし、お母様も珍しく怒りを顕にされておりました。年の離れた妹だけは不思議がっておりましたので、それだけが可愛らしかったです。
もちろん、侯爵家からの支援は途絶えました。
ジョエル様の独断で決められた婚約破棄だったため、ご両親からは撤回の手紙が送られてきましたが、お父様は無慈悲にも破り捨てました。
支援しているはずの立場の者から婚約破棄された私は、【破壊神】と名付けられたのです。
せめて…せめては女神と名付けていただきたかったですね。
婚約者と同時に華麗なる淑女を捨ててしまうことになりました。こんな私と婚約を再度してくださる方なんて…いらっしゃらないでしょう。
良くて、高齢の旦那様の後妻またや愛人となるのでしょうか。
あぁ…私の力を怖がらない素敵な男性と恋愛…してみたかったです。
「今までの回想をありがとう。これでなぜ誕生日を祝う前に立ち去ったか理解したよ」
「レティシア様、その件につきましては本当に申し訳ございません」
「レティシア様だなんて…急に他人行儀じゃないかい?」
「だって…いくらお友達とはいえ、王女様ですもの」
「私がそんなことを気にするとでも?」
確かに器の広いレティシア様ならそんなことは気にしないわね。
私ったらいくら請求されるのか怖くて、友人に甘えようとしたんだわ。
「それよりも、お父様は銅像の件は気にしておられないから安心して」
「…そ、そんな…よろしいのですか?」
「あぁ。むしろ、君が隠した力を持っていて驚いていたよ」
陛下の驚いた顔が想像出来てしまいます。あと、笑いを堪えていそうですね。
「それは全て建前で、クロエに伝えたい事があるんだ」
「なんでしょうか?」
「君は、婚約をしてくれる人が現れると…その人と婚約するかい?」
「…えっと…もしかして…どこかの後妻か何かですか?それとも…愛人でしょうか」
友人にそんな事を進められるなんて思ってもいなかった。悲しいけれど、王族が決めたことは私が拒否していいものでは無い。
「想像力が豊かすぎるのも難点だな。後妻でも愛人でも無いよ。クロエは、オーレリアン・アレオンは知っているかい?」
オーレリアン・アレオン次期公爵。
そんなものもちろん知っている。この国の英雄ですもの。
弱冠十六歳で、戦争を集結させた人物。見た目は女性顔負けの麗人らしい。
また彼は【青薔薇の聖騎士】という異名を持っている。
ただ…長年戦場に出られていたため、顔を見たことがないのだ。噂には尾ひれがつくものだから、今出回っている肖像画とは異なるかもしれないし。
「知っていて安心したよ。彼が君に婚約を申し込みたいのだそうだよ?」
「へぇ!?オーレリアン様がですか!?何故!」
彼は有名人だから私が知っているのはわかるが、彼が私を知っているのは何故かしら。
「彼は私の生誕祭に招待していたんだ。クロエの見た目に惚れたそうだよ」
「見た目…。生誕祭ってことは、あの事件もご存知ですよね?」
私が【破壊神】と呼ばれる羽目になった場にもいたはずだ。
見た目で選ばれたのは、まぁ仕方ない。私も見た目はかっこいいと思ったものだし。
「そういえば、クロエはオーレリアンの容姿は知っている?」
「えぇ。金糸色の美しい腰まで伸びた髪に、サファイアのような輝く瞳だったはずですよ?」
例えば…そうね…レティシア様の後ろに控えていらっしゃる、騎士のようなお方…。
あら?このお方は誰かしら。初めて見るお方だけど。
「正解だよ。概ね自画像は合ってたってわけだ、オーレリアン」
「そうですね、王女殿下」
後ろに控えていた騎士は、オーレリアンと呼ばれて返事をした。そして、そのまま私の方へとやって来てから立膝をつく。
「初めまして、クロエ嬢。アレオン公爵が息子のオーレリアンと申します。あ、青薔薇の聖騎士と言った方がよろしいでしょうか?」
な、な、な、、、、。なんですかこのかっこいい人はっっ。
レティシア様は概ね自画像は合ってる。なんて仰ってましたが、それ以上ですっっ。
私の心臓が痛いぐらいに鳴ってますっっ。あぁ…苦しい。
「クロエ嬢は顔に出やすいんですね。可愛らしいです」
「うぅ…。声までも良い…」
そんな見た目で低音だなんて。あぁ…すごい力でオーレリアン様の方へ気持ちが引っ張られていってます。
「オ、オーレリアン様初めまして。ノーヴェル侯爵が娘のクロエです。えっと何故…私に…?」
「貴女の愛らしい見た目だけでなく、秘められた力に心を奪われました」
「あぁ…あの破壊神ってやつですね?」
あの場にいたと仰ってから、見ているのは初めから分かっていた。だけど、なんだか恥ずかしいものですね。
「恥じることはありません。幼い頃から、その力を制御されていたのでしょう?絶え間ぬ努力をされたのだと思います。そんな所にも惹かれたのです。初めからこう言えばよかったですね」
今まで自分の力を隠してきたから、そう言われるのは初めてのこと。だけど、私がずっと欲しかった言葉を言って下さるなんて…。こんなのずるいです。
「そう言われたの初めてなのです。今、初めて自分の力があってよかったと思いました。こうしてオーレリアン様とお会い出来たので」
「そうですね。私も嬉しいです」
「婚約を受けさせて下さい」
「必ずこの国で一番幸せにします」
返事をした後、アレオン公爵から結婚の申し込みが届いた。両親は喜んで返事をしたし、誰が伝えたのか、【青薔薇の聖騎士】と【破壊神】が結婚するとすぐさま広まった。
お互い結婚に向けて準備などで忙しい日々を過ごした。その間にも、オーレリアン様は私の元へやってきて、贈り物を送って下さったり、デートをしてくださったりした。
ジョエル様から受けた婚約破棄から、あまりにも幸せな時間が続き過ぎて心配になってしまう。
それでも、私の事を好きでいてくれるから嬉しいのは嬉しいわ。
***
慌ただしい日が過ぎていき、ついに私とオーレリアン様の結婚式当日となった。
救国の騎士だからか、招待客が多かった。それに圧巻されながらも、スムーズに式は進んでいった。
王宮のホールを貸していただけるなんて…レティシア様と陛下には感謝してもしきれないわ。
「私に一生頭が上がらないだろうね、クロエは」
「えぇ。オーレリアン様とお会いする機会をくれただけでなく、こんな素敵な場所まで貸してくれるなんて…」
「お、どうやら招待されていない客がいらっしゃったようだよ」
レティシア様の視線は、ホールの入口の方へと向く。綺麗な服に身を包んだ騎士様達が何やら、無言で誰かに圧を向けているようだ。
招かるざるお客様はどちら様かしら。そんな方は招待していないし。
あ、オーレリアン様が何やら向かって行かれた。
「……え、ジョエル様…?」
うっすらと見えたのは、爽やかが似合う男性。私がつい最近婚約破棄したジョエル様だった。
「クロエっっ。君は…僕との婚約破棄してまで、オーレリアン卿と結婚したかったのかっ」
「…どういうことですか?」
ジョエル様は経ち塞がれ前に進めないからか、大声で叫ぶ。
彼が婚約破棄をしてきたのではないか。何を履き違えていらっしゃるの?
「オーレリアン卿はご存知ないかと思いますが、クロエは胴像を破壊するような怪力女ですっ」
一体どれほど私を辱めようとするのですか、ジョエル様。
「良いのですか!?」
ジョエル様が叫んだ瞬間、私の手の中からバリンっと何かが砕ける音が聞こえました。鳴っていた音楽は消え、静かな時間が流れます。
私が持っていたグラスが割れてしまったようです。
「ジョエル様、いい加減になさってください。私を侮辱するのは構いません。ですがこんなおめでたい日にはおやめ下さい」
「クロエ…」
「ジョエル様…いえ、ウディノ様。婚約破棄をしたのは貴方からですよ?いい加減になさってください。今は何とか抑えておりますが、私は何をするか分かりませんよ?」
私の怒りに恐怖を感じたのか、ジョエル様は情けない悲鳴をあげる。
「ウディノ殿、私のクロエにご用事でしたら、これからはアレオン公爵を通していただけますか?」
オーレリアン様の言葉に、私の昂った気持ちは凪いでいく。
「クロエ、少し外に出ようか」
オーレリアンと共に参列者に断りを入れて、テラスへと向かう。
「手は怪我してない?大丈夫?」
「…あ、血が出てますね」
さっきは興奮していたからか、気が付かなかった。じわじわと痛みが出てきている。
オーレリアン様は慣れた手つきで、私の怪我をした手にあて布をして下さる。
「これからは彼がクロエに訪ねてくることはないよ。それぐらいアレオンの名は牽制になるからね」
「ありがとう…ございます」
「やはり、君の凛とした姿は素敵だよ。改めて惚れてしまった」
「……本当ですか?」
「不安にさせてしまうのは私が悪いね。あの令息が来たのは、想定外だったよ」
やはり彼はいつの間にか来ていたんだ。黙って…。
「どうすれば、クロエの気持ちを私に向けてくれるだろうか」
「……オーレリアン様は十分過ぎるほど、私に良くしてくださいます。短い間で、いただいた贈り物は私の中で大切な物です。私がただ自信が無いだけなんです…」
「自信が無い…」
「はい。オーレリアン様はこの国の英雄です。それだけでなく、お顔も素敵ですし…令嬢を選び放題です。私は…ただの怪力な令嬢です」
自分で言っておいて悲しくなる。
ただ、今言ったことは全て事実だ。
「うん。分かった。それが不安なんだね」
「はい…不安なのです」
「だったら他の令嬢を選ぶことは絶対ないよ」
そこまで断言なさるなんて…。
「この前も伝えた通り、自分の事を制御する程の忍耐力があって、揺らぎない真っ直ぐな瞳に惚れたんだよ。あ、後半は初めて言ったね。他の令嬢なんて目にならないくらい、クロエの事が好きみたいだ」
「夢じゃありませんか?」
「夢?」
「はい。私は、私の力の事を受け入れて下さって、他の令嬢は見向きもしない人と一緒になれたらと思っていたのです」
この力が身についてしまった時からずっと思っていた。
ジョエル様は他の令嬢に心が移ってしまわれたし…私は力のことを内緒にしていた。
少なからず、彼なら受け入れてくれないと思っていたのかもしれない。
伝えていてたとしても、私が欲しかった言葉はくれなかったかも。
「では、私が最適ですね。生涯を誓って、私はクロエを愛しましょう」
「…私も…オーレリアン様を生涯を誓って信じて愛しますね」
ずっとずっと自分の力が大嫌いだった。
気味悪がられたのがトラウマだった。
ずっとずっと隠して通してきたけれど、上手くいかなかった。
だけど、それでも受け入れてくれる優しい人に出会えた。
私がずっと会いたかった運命の人に。
「もし、公爵家の物を壊してしまったらどうしましょう…」
「そんなこと気にしなくてもいいよ。壊れても大丈夫な物に取り替えるから」
「……オーレリアン様は私のことを甘やかしていませんか?」
「そりゃ甘やかすよ。大切なんだから」
「幸せ者ですね…」
私は本当に幸せ者だ。
これからもオーレリアン様と一緒に人生を歩んで行けると思うと…本当に嬉しい。
これからもよろしくお願いしますね、オーレリアン様。
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