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八回目のワンスモア  作者: 大和撫子
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第四話 姉妹格差

 「あら、お義姉(ねえ)様、もう帰っていらしたの?」


義妹のソレイユ・エレノアは可愛らしく小首を傾げた。手入れの行き届いた艶やかな桃色の髪は、豪華な巻き毛を作りこの上なく可愛らしい顔立ちを豪華に彩っている。少し垂れ目がちの大きな翠色の瞳は、桃色の長い睫毛に縁どられ潤んだような艶と光沢があってまるで翡翠のようだ。毛穴がどこにあるのかや産毛がどこにあるのか不明なほど滑らかなミルク色の肌。華奢なのに胸だけはふくよかで、老若男女問わず誰もが魅了されるであろう愛くるしさ。この世のあらゆる美と可愛さ、そして愛される全ての要素で作り込まれた、それが義妹だ。


 更に、彼女は自分の魅せ方をよく理解しており、いつでもどんな時でもその技術を効果的に駆使するのだ。けれども義姉であるエルフリーデだけには、誰にも見せない裏の顔を見せる。それも周囲には気づかれないよう、巧妙に光の魔術を使用して。ループする事七回目、彼女の手口には慣れてしまっている。


 ……よく言うわ。全部知っている癖に……


エルフリーデは心の中で毒づく。王城から帰宅しするなり、義妹(ソレイユ)は待ち構えていたように迎えに出て来た。何か言いたい事がある時だけこうして接触をはかろうとたやって来る。彼女がエルフリーデに言いたい事とは……ただ単に義姉を嘲弄したいが為なのだ。


 「ええ、ラインハルト殿下にお伝えしたい事があって行って来ただけだから」


それ以上会話を続ける事が無意味に思えて、ついいつもの癖で足早に立ち去ろうとしてふと思い直す。そうだった、やるべき事があった事があったのだ。やるなら出来る限り早い内の方が良い。


「お義姉様ったらいつも素っ気無いんですもの。ラインハル様の婚約者なのに殿下呼びだなんて。もっとゆっくりなさってきたら良かったのに」


 一見慕っているように、さも義姉を気遣うように話しているが……


「え、えぇ……」


 何と言うべきなのか答えに窮するエルフリーデを、小馬鹿にしたように義妹はクスリと笑う。似たようなシチュエーションに同じようなやり取り。いい加減にうんざりだ。


 尤も、ループ八回目を迎えるまでは、


 『容姿端麗、才能豊かで全ての人に愛される義妹に、陰気で醜く無能な自分。凛だった前世でもそうだったから「姉妹格差」はきっと宿命で。私はきっと、誰からも愛されない宿命なのだ』


 と粛々と現実を受け止めて諦めていた。宿命に抗おうなどという思考すら浮かばなかった。だから義妹や婚約者、義父たちに対して悪感情が生まれる自分に戸惑いを覚える。一度芽生えた生存欲求とは凄まじいものだ。それは恐らく、リュディガー・アヒムという最高の砦を見出した事による安心感と自信が生まれた事も大きいだろう。


 けれども、それは一時的なものである事もよく理解していた。


……ほら、始まった。毎度の事だわ……


 とエルフリーデは辟易しつつも、通常通りに困ったように曖昧な笑みを浮かべつつチャンスを伺う。スッと義妹が体を寄せて来る。


……来た! 今だわ!!……


 この時を狙っていたのだ。


 『お可哀そうなお義姉様。ラインハルトに愛されているのは私なのよ。お義姉様が来る前にも愛し合っていたんだから、うふっ』


 義妹は辛うじてエルフリーデだけに聞きとれる声量で囁いた。その愛らしい顔は悪魔の如く歪んでいる。誰にも見せる事のない、義妹の裏の顔。僅かに右肩に触れた、義妹の左腕。その瞬間を逃さず、


 ……混沌の闇より生まれし者よ、我の名において()の者の影に真実を映し出す闇の鏡をつけよ!……


 と、心の中で唱えた。


 ……これで、良し!……


 内心ではほくそ笑みながらも、如何にも悲し気に義妹を見つめる。普段と変わらないように接するのだ。そうすれば、満足してその場を去って行く。


 「うふふふ、仕方ないですわ。だって私は『光の精霊に愛された存在』ですもの。対極の『闇』の加護と祝福を受けたお義姉様が、私とは何もかもが正反対なのは必然なのですわ」


 勝ち誇ったようにそう言って、ふわりと舞うようにして踵を返すと去って行った。


 ……ソレイユ、あなたの婚約者は第三王子殿下でしょう?……


去って行く義妹の後ろ姿を見つめながら、そう問いかけたくなる衝動に駆られた。何より、ずっと沈黙を守っている第三王子の本音を聞いてみたかった。


 ……でも、それはリュディガー殿下が「任せろ」とおっしゃっていたものね……


 明日から魔塔に通う事になる。待ち遠しかった。


 『その時が来るまで、今まで通りに振舞うんだ』


とリュディガーより指示を受けている。彼の作戦通り、婚約者と義妹に闇の精霊の力を借りて彼らの影に全ての行動を録画出来る闇の魔術を施したのだ。これにより、彼らの行動は音声付きの映像としてリュディガーに筒抜けになる。勿論、彼等に一切気付かれる事なく。


 『奴らの不貞と反逆の証拠を明らかにする為に必要な処置だ』


リュディガーの考えている作戦の内の一つだった。


ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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