前世、そしてループする~ただ、愛されたかった~②
転生先は魔法が当たり前のように存在し、精霊や聖獣、魔獣などが人間と共存していた。大好きだったファンタジーの世界に入り込めたみたいでワクワクした。
名前は『神秘・不思議な力、妖精』と言う意味を持つ「エルフリーデ」と名付けられた。母親は栗色の髪に森を思わせる深緑の瞳を持つ大層美しい人だった。
……今際の際、光の女神(?)様がおっしゃっていた地位と力。地位はこの国での公爵家長女である事、力は何だろう? 今度こそ、愛される人生を生きられるかもしれない! 赤ちゃんの時から前世の記憶があるのも今後に生かせるかもしれない。かなりのチートな設定なのではないかしら……
三歳の誕生日を迎える頃、「精霊から加護を受ける儀式」が行われる。その際に、加護を与えてくれた精霊に因んで精霊名が与えられる事になっている。この国の貴族のならわしらしい。
長男、長女であるものが家を継ぐ事が出来る、という決まり事も、ラッキーな事に思えた。もし今後、妹や弟が出来ても、地位は国が保障してくれているのだから。
もしかして愛されている? 生まれて来た事を歓迎されている? 期待に胸が膨らむ。何故なら母親は生まれて来た彼女をとても誇らし気に、愛おしそうに見つめていたから。ほどなくして乳母と専属の侍女がつけられ、愛情をかけらて育てられる。生まれて初めて感じる充足感、だがその幸せは、薄氷を踏むような、どこか危うい感覚が拭えなかった。その証拠に、生まれてから今まで凡そ一年ほど、父親の姿が見当たらない。仕事で家を空けているだけなら良いが……。それに、もし期待されていても、それに応えられなかったら? また失望させてしまったら? 非常に嫌な予感がした。が、今はこの幸せに浸っていたい。
この世界は六つの国で成立していた。言語は、古代ギリシャ語、アイルランド、ルーン文字を混ぜ合わせたような感じで、時々……凛が生きていた頃の日本語が混じるのも面白かった。
①太陽と光や明り、炎、楽しみ、希望や情熱、繁栄や栄光などを司る彩光界、アスピラシオン帝国。
※もちろん光だけの国ではない。夜も普通に訪れる。ただ他国より朝昼の時間が少し長い。
②夜と闇、安らぎや眠る際に見る夢、ヒーリングなどを司る夢夜界、アマーネセル王国。
※勿論夜だけの国ではない。朝昼も普通に来る。ただ少し他国より夕暮れから夜明けまでが長い。
③あらゆる風、空気、変化変容、広がり、交流、均衡などを司る風空界、レイラ王国。
※勿論風だけの世界ではない。ただ少し他国より風は多く吹く。
④あらゆる花や花木、樹木、植物、優雅、薫り、美しさ、繁殖などを司る花緑界、グリューン王国。
※勿論花や植物だけの世界ではない。ただ、他国よりはかなり花と緑が多い。
⑤大地と鉱物、宝石、土台、安定、知性などを司る宝土界、グランツ王国。
※勿論大地と鉱物だけの世界ではない。ただ少し他国より土と鉱物は多めである。
⑥あらゆる水、川、海、泉、湖、滝、インスピレーション、浄化、慈しみ、情、命の誕生などを司る水命界、マナンティアール王国。この物語の舞台である。
※勿論水だけの国ではない。ただ少し他国より川や海、湖、泉などは多めである。
更に、アスピラシオン帝国を中心に五つの国が成り立っており、五つの内どの国が秀でてるとか上下が無いよう、各国で不可侵条約と和平条約とやらを交わして平和のバランスを保っているようだ。その均衡を保ち監視する役目を絶大な力と豊かさを誇る帝国が担っている。
特筆すべきはこの六つの国を全体で見ると……。蒼穹が広がる中、純白の雲海の中に帝国を中心に六つの国がまとまっている。その国全てを包み込むようにして淡い虹色の膜に丸く包み込まれているのだ。いわば、イメージとしてはシャボン玉の中にまとまった六つの国、そんな感じらしい。
エルフリーデは、生前読んだ小説の世界観だった事に気づいた。ただ、後で読もうとその時たまたまプロローグだけしか読んでいなかったから、どのような物語だったのかは分からないが。
予感は的中してしまった。やはり幸せは長くは続かなかった。二歳の誕生日を迎える頃、父親と漸く対面した。けれども、男の目に喜びと歓迎とは真逆の色しか見えなかった。その眼差しには覚えがある。前世の義父と同じ種類のものだ。そういえば義父が黒髪黒目に対して金髪碧眼というだけで、その冷たく整った顔立ちもどこか共通するものがある。
しかも、男の右側には目に鮮やかな深紅の巻き毛と金色の瞳の、匂い立つような色香を放つ美女が寄り添っていた。母親が白百合だとしたら、この女は夜露に濡れた紅牡丹といったところか。しかも、女は腕に赤子を抱いていたのだ。それだけで、全てを悟ってしまった。せっかく生まれ変わっても、同じような目に合うのか……
「彼女は私の最愛の人、ダリア・グレースと言う。今日からここみに住む。妹が出来たのだから大切にするように」
にべもなく言うと、妖艶に微笑む女の肩を抱いて立ち去ってしまった。妊娠を機に、愛人を堂々と連れ込んで来た訳だ。母親は絶句していた。真っ青だった。けれども、正妻である事、そして淑女の矜持なのだろう、気丈にも取り乱す事はなく平静を装っていた。
その日を境に、気高く美しかった母親は夜も眠れず食事もろくに取れずに痩せ衰えて行った。けれども、肌や紙の手入れには気を使い、愛人には負けるものか! という気迫は感じられた。その分、エルフリーデの世話は乳母が全面的に請け負う事となっていった。
……私の存在は母親と父親を繋ぎ留めておく絆にもなれないのか。ここでも役立たずだ、お母さまに愛して貰える筈がない……
無力感を覚えた。父親は、エルフリーデが三歳の誕生日を迎える頃「精霊の加護を受ける儀式」の際、現場の聖協会に顔を出したのが二回目の再会となった。
純白のドレスに身を包み、聖水で髪を濡らす。この時ばかりはワクワクした。目を閉じたままだから空想が膨らむ。
……どのような精霊が加護を与えてくれるのだろう? 花? 風? それとも大地? もしかして宝石とか……
しかし、周りを囲む神官たちの不穏な騒めきに冷水を浴びせられた気分になる。
「こ、これは……」
神官長の動揺する声。
「どういう事です?」
母親の不安そうな声色。
「申し上げます! 恐れながら、エルフリーデ様は『夜と闇と混沌を司る精霊』からのご加護を受けられたようでございます。かなり高位の精霊のようです。よって、精霊名を古代アラビア語とへブライ語で『夜』を意味する『レイラ』と名付けさせて頂きます」
神官長の厳かな声が粛々と響いた。
……『夜と闇と混沌を司る精霊』の加護? 響きだけならラスボスっぽいけど、私はそんな器ではない……
暗澹たる思いで『レイラ』という精霊名を心の中で反芻した。悲惨な未来の予感しか思い浮かばなかった。
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