第九話 幻惑魔法と闇の魔法
「その場所」は城内の図書室の隠し部屋を通り過ぎ、秘密の抜け道を下ってしばらく歩いた場所にあった。洞窟のような狭い道を歩き続けた先に、水晶原石で出来た小山……日本人だった頃の前世で言えば『馬塚』のようなイメージに近いか……がある。その頂きに埋め込むような形で、魔術で円錐型に加工された透明水晶がそびえ立っていた。高さはおよそ8mほどあり、人工ミニ鉱山という雰囲気を醸し出している。万が一空からこの場所が見えないように、景色に溶け込むような『幻惑魔法』が施されカモフラージュしていた。位置的には、地下のワイン貯蔵庫あたりにある異空間らしい。
エルフリーデはループ七回ともずっと、第二王子と義妹に言われるままにその場所に闇の魔術を注いできた。
「ラインハルト様の望む未来の為に!」
と一心不乱に。そうすれば、ほんの少しで良いから愛してくれるのではないかと期待して。その結果、殺害された挙句。義妹とラインハルトに取って障害となるもの、気に食わない者が全て消され贅の限りを尽くし好き放題する国王と王妃の誕生、国が乱れに乱れた挙句反乱、戦の道へと進んでしまうのだ。
自分自身、そしてリュディガーの死後の未来を知っているのは何故か? それは毎回今際の際に、走馬灯のように未来が視えるからなのだ。
度々前述した通り、第二王子と義妹が、誰にも邪魔されずに愛し合い自分たちに都合の良い世界を創る為に、エルフリーデの闇の力を利用した。エルフリーデがラインハルトの愛を求めて盲目的に依存するよう巧みな心理術で操作支配した。
「お前はソレイユと違って醜いし無能だ。その証拠に、両親から愛されて居ないだろう? でも心配するな。この私がお前を愛して妻にしてやる。お前なんぞ娶ってくれるのは俺ぐらいしか居ないぞ? 分かるな?」
この台詞はもう聞き飽きた。何度言われてきた事だろう。
……ホント、愚かだった。ループ八回目にしてやっと気づくなんて……
自嘲の笑みを漏らし、静かに目を開いた。この場所は、今から凡そ8年ほど前、第二王子と義妹が発案し二人で作り上げた場所だった。言い方を変えれば『呪術の間』と表現出来よう。
リュディガーにはこの件をすぐに打ち明けた。彼はすぐ様、デスク手元の引き出しから黒水晶の球体を取り出し、エルフリーデに手渡した。直径5cmほどのそれは、黒水晶製の魔石で出来ており、それを『呪術の間』に翳すだけで全ての邪気を吸収し、無害化するという気強力な浄化作用魔石なのだという。リュディガーお手製のものらしい。
だから、形式上この場所に三日に一度の割合で通い闇の魔法を込め続けてはいるものの、もう第二王子と義妹が望むような「悍ましい力」は発揮されない。更に、リュディガーに魔術を教わるようになってから、この場所で闇の魔術を送る際はこう祈りを込めている。
「……もし今後ここに込めた闇の魔法が解放されるようになった問は、この力を浴びた全ての者たちが心穏やかに癒されますように……」
と。
更に、リュディガーにより「その場所」は、万が一第二王子とソレイユがそこを確認しても問題無いように、これまで通り。また日々彼等が望む闇の力が蓄積され、増大していくように感じられる幻惑魔法を施してあるという。
この後はいつものように魔塔へと足を運ぶ。今日はリュディガーから『浄化』と『治癒』魔法の中級編を習う予定なのだ。ワクワクする気持ちが顔に出ないよう、フードを目深に被る。城内の使用人や警護を担当する王宮騎士たちに、エルフリーデの変化を悟られる訳にはいかないのだ。彼等の殆どが、勢いと力を持つ第二王子と義妹の味方なのだから、油断は禁物だ。
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