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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

色即是空 その1

作者: 空即是色


ここは「刑務所」なんだ。


ふとそんなことを思う。


そう思うとなんとなく腑に落ちるものがある。


でも罪は何だろう?


なんの罪を犯してここにいるのか。


いや、罪を犯してなくても刑務所に入れられることがあるじゃないか。


とりあえずここにいる間は時間が来るまでここにいないとならない。


派手に勝手なことをすると「違反」となる。


だから「違反」にならないようにじっとしているのが無難だ。


だが、じっとしていると眠くなる。


その日もじっとしててうとうととしていたところ、


いきなりぐいっと肩を掴まれた。



「おい、いつまで寝てるんだよ。」


「え?」


「いつまで寝てよーと人の勝手だけどさぁ。


授業終わったら目覚めるもんだろうが、普通は。」


あ、またこいつだ。


オレは最近こいつに付きまとわれて大変迷惑している。


長く伸ばした髪の毛を一つに結んでてなんか大人びて見える


みょうになれなれしい変な奴だ。


「美少年のみる夢ってどんななんだ?教えろよ。」


オレはこいつに「美少年」と言われるとゾッとする。


父親がアメリカ人ってだけで日本人と違う肌の色、髪の色、顔立ちが


「日本人」として生きているオレにとっては忌まわしいだけなのだから。


「きっと君と同じだろ。」


はっきり言ってこんな奴とは口もききたくない。


「あ・・・そ。俺はスケベな夢しか覚えとらんけど・・・


美少年でもスケベな夢見んのかしら・・・ってか。」


「この年でスケベなこと考えない奴はいねーと思うけど。」


そう言ったら奴は笑い出した。


「いいよな~。美少年は。そんなセリフ言っても様になってら。」


なってねーよ、と思いながらうざいので席を立つ。


「れ?どこ行くの?」


「便所。」


「おお、俺も行っとこっと。」


ついてくんじゃねーよ。こいつほんとうざい。


なんでオレがお前とつれションしなくちゃなんないんだよ。


奴はにやけた顔して俺の後ろについてくる。


教室を出ると窓から廊下に夕日が差している。オレどんだけ寝てたんだ?



「ねぇ、例の件考えてくれた?」


あー、またきた。


「オレ断ったぜ。お前オレがうんというまでつきまとう気かよ。」


「あったりー。俺執念深いタチでさぁ。」


ほんとにしつこいなこいつは・・・。マジ勘弁してほしい。


「そしたらオレが断るにはお前殺すしかないわけ?


そんなのすっげー不公平じゃん。」


そう言ってやったら


「そう、お前が俺に残りの人生かけるはずねーもんな・・・。


んじゃ、他に条件ある?」


ときたもんだ。





「・・・んで?」




気が付いたらオレはことの顛末をソファーに寝そべりながら


居候しているこのマンションに住んでいる男に話していた。


なんでだろ。いつもはこんなこと話さないのに。


「しつこいんだ。そいつ。勝手に人の領域に踏み込んできてさ。」


・・・と言ったら


「なんだ。まるで俺に対するお前の姿じゃないか。」


と、言われてしまった。


「かもね・・・。」


確かにオレはここに何の承諾もなく勝手に転がり込んで居座ってんので認めざるを得ない。


「そいつさぁ、勝手に俺の人生きめてやんの。


オレ、早死にするんだって。


だから今のうちに俺をモデルにして絵やら写真やら残しといて


オレが死んだら個展するのがそいつの夢なんだとさ。」


「へー、おもしれー奴じゃないか。


じゃ、俺はそいつのことを本に出してやるか。」


それを聞いてオレはキレた。


「なんで司があいつの本を出すのさ!」


オレが居候しているのは水城司というルポライターのところなんだ。


司はいつもサングラスをしている。


誰かが森田童子みたいだと言ってたが、誰だそれ。


「だってお前の本出すつもり俺はないもんな。


そいつの方が面白そうだ。お前のこと書くにはどうしたって


俺のことも書かにゃならんからな。そんなのめんどくせーし。」


司が奴を評価して自分がないがしろにされた気がしてなんかムカついた。


「そうだよね・・・。んじゃ、あいつに俺と司のこと書いてもらうことも


可能なわけだ・・・。」


と、思ってもないこと口走ってしまった。


「ま、そいつが書きたきゃ書くかもな。俺は書かねーと思うけど。


何もしてねーし。」


司がガキのオレをまるで相手にしてくれないのはいつものことだ。


ま、司のこういう性格のおかげでオレはここにいられるんだけどさ。





次の日、朝っぱら奴に会った。やけに意気揚々としている。


「よお!おはよーさん。見ろ。約束通り髪切ったぜ。」


条件とか言われても何も思い浮かばなかったので、


大事そうに伸ばしている髪を切れと言ったのはオレだ。


でも、そんなのどうでもいい。


「これでいいわけ?」


「ああ。」


奴を振り向くこともなくそっけなく答えるオレ。


いいも悪いもない。あまりにしつこくて断るのもめんどくさくなっただけだ。


「じゃ、放課後美術室で。」


行かないときっと奴は放課後お迎えに来るんだろうな。


はあ・・・とため息をついて下駄箱を開けると


なんか紙が落ちてきた。なんだ、これ?


今思えばこの紙読んだおかげでオレは奴と関わらざるをえなくなったんだ。





「ねぇ、これってほんと?」


オレは放課後美術室で奴にこの紙切れを突き出した。


「今朝俺の下駄箱に入ってたんだけどさ。ね、田川君」


オレはこいつの名前を知らなかった。この紙に書いてあったので


呼んでみただけ。違ってたら違うと言うだろう。


「『田川は人殺しだ。おまえも気をつけろ。』・・・なに、これ?」


奴は急にいつものへらへらした感じから真顔になった。


「事実だ。」


へえ?!こいつ人殺したのか。ちょっと意外。


人殺しても刑務所行かないのは未成年だから?


「俺のせいで女の子が自殺したんだ。俺も殺したも同然だろうな・・・」


「自殺?!」


な~んだ。ちょっと肩透かしくらった。


「妊娠したんだ。俺の子を。まだ中学生だったから当然堕ろさせた。


ところがそのことが彼女の両親どころか学校中に広まっちまったのさ。」


「そのことを苦に自殺したんだろう?それなら彼女殺したのお前じゃないじゃん。」


「そうだ・・・でもそのうわさを広めたのは俺がやるだけやって振った女だったのさ。


俺がその女と付き合ってたら彼女は死ぬことはなかったはずだ。」


なんか変な話。つい突っ込みをいれてしまった。


「そおかなぁ。そーいう女って他のことでも自殺したんじゃねーの?


若気の至りだったかもしれんし。


それになんで独りで死ぬわけさ。心中ならわかるけど・・・。」


「俺いつも口癖のように言ってたんだ。


俺は将来偉大なアーティストになるんだって。


それを真に受けたらしいんだ、あいつ。」


「え~?!じゃあオレってその死んだ彼女の悲願達成の材料なわけ~?!」


「まー、そういうわけだ。ひとつよろしく頼むわ。」


なんつー理不尽な話だ。なんでオレがそれに関わらなきゃならないんだ。


「マジかよ。オレの存在価値まったくないじゃん。」


そしたら奴はきりっとした顔をしてこちらを見て


「あるぜ!俺その事件以来女と付き合わないの。


死んだ彼女にわりいいじゃん。


でもモデルはきれいな方がいい。


それにお前、彼女に似てんだ。


男できれーで彼女に似てるとくりゃあいうことあるめー。」


だからなんなんだ。どうなってんだ、こいつの思考回路。


「おーお、見事にオレのことは無視なのね。」


ため息ついたオレのことなどおかまいなしに


「ごたごた言わんと服脱げよ。」


ときた。


「あ・・・?オレ、ヌードモデルなの?全裸?あ・・・そ。」


ここで脱ぐ脱がないで揉めてもまたなんだかんだ言って


脱ぐ羽目になるんだ、きっと。


さっさと脱いでとっとと終わらせてうちに帰りたい。


さっさと服と下着を脱ぎ捨てて素っ裸で男の前に立ち、


ほんとオレ何やってんだろと思いながら


「これでいいわけ?」


と言ったら


「おめー、少しは色気出せよな。」


だとさ。


「ばーか、おめーに色気見せてどーすんだよ。」


と、舌を出したら


「あ、貴様。あかんべーなんかすんじゃねー。」


とマジ切れされた。


しかもポーズをあれこれ要求されて


言うとおりにならないのにしびれを切らして


田川がオレの体を触ってる時に教師が血相変えて駆け込んできて


「こら!貴様ら何しとんだっ!」


と怒鳴られ、厳重注意を受けたのちみごとに停学をくらった。


学校が好きなわけじゃないし、停学は別にかまわないけど、


「芸術です。」


と、田川が教師に真顔で言った時、


「オレもゲイ術だと思って協力しました。」


と言ったのが奴は気に食わなかったようだ。


職員室を出た途端


「てめーがにやけたからだ。ホモだと思われたじゃねーか。」


とかなりご立腹だ。知るか、ボケ。


「脱げっつったの、おめーだろ。だいたいあんなとこで脱ぐこたねーよ。」


ほんと自分でもどうかしてたと思う。


「しかし、なんでまた先公にばれたんだ?」


田川が首をかしげる。


「さーね。お手紙下駄箱に入れたヤツじゃねーの?」


オレが思い付きで言ったら


「ヒマな奴もいるもんだ。そんなヒマあったらマスでもかいてろってんだ。」


なんて言うんで


「その言葉そっくりそのままお前にくれてやる。」


って言ったら


「なにぃ?!ばかやろー!!俺はりっぱにマスかいてその上芸術してんだ!!」


ってマジ切れしてきたから


「そんなことでえばんじゃねーよ。


悔しかったらマスかかんで芸術してみろってんだ!!」


って言ってやった。


この時点でなんとなくことの経緯が分かりだした。




「ま、でも学校いかなくていいわけだしさ。」


という田川に向かってオレは言ってやった。


「あーどーしよー。こんなことになって生きていけなーい。


もう、死にたーい。」


「死ねば?勝手に。」


「えー、一緒に死んでよ。」


「俺は偉大な芸術家になるんだもんね。」


「たいした才能もないくせに。あんたのおかげでこっちの人生めちゃめちゃ・・・


死んでやる。死んで恨んでやるから!」


「勝手にしろっ!」


なんかまるで台本通りの茶番だな。


「彼女が愛していたのは自分だけ。


田川だって愛しちゃいなかった。だろ?」


そう言ったら田川はそっぽを向いて


「まあな。」


と独り言のように語りだした。


「中学生なんてそんなもんさ。


でもオレはこう思い込むことにしてる。


彼女は俺を愛していたから死んだんだって。


でなきゃ・・・


かわいそうじゃん。


残った俺がさ。


みじめじゃん。すごく。


だからさ・・・。」


「それで芸術家になるわけ?」


「そう。復讐だ。見返してやるのさ。


俺は大成してマスコミに言うわけだ。


こうなったのも彼女のおかげでございますってな。」


「彼女と子供にすればもっと箔がつくじゃん。」


「ばーか、そこはマスコミ調べさせんだよ。」


けっこうあざといな、こいつ。


「だが、いかんせん、俺には才能がないっ!


俺は図工から美術、音楽でさえ3以上をとったことがないんだ。」


なんじゃ、そりゃ。


「あ、ずるい。苦悩してるふりして長生きするつもりかよ。」


「ホワイ。なぜなんだー。ばかやろー。」


こいつマジに叫んでやがる。ばかやろうはおまえだよ。


「そして俺はハタと気づくわけだ。


俺には生き甲斐があるだけ幸せだ。


彼女は俺に生き甲斐を与えてくれたんだ。


俺は本当に彼女に感謝するというわけ。」


何を語ってんだ。ほんとに。


呆れてるけどアホすぎて物が言える。


「そんなこと話してどういうつもりさ。


オレにおまえのこと軽蔑させたいわけ?


つまりはっきり言ってお前マゾなんだろ。


そーやって人生楽しんでんだ。」


「悪いかよ。」


「悪かないけど疲れるよ・・・そんなの・・・。


どうだっていいじゃん。」


そう言ったらやっとこっちを振り向いて田川がこう言った。


「知っといてもらいたいだけさ。


おまえも少しはオレとかかわるわけだからさ。」


何勝手なこと言ってんだか。


「そんなこと言われてもさ。


俺はモデルでしかないもん。」


そう言ったら田川がちょっとつまらなそうな顔をして


「それって女の『いいお友達でいましょう』ってやつ?」


と聞いてきたんで正直に言ってやった。


「わりーけどオレあまり他人のすることに興味ないの。」


オレがこんな茶番劇に同情したりするとでも思ったのか?


思ってたとしたらこいつ本当にばかだ。


でもって本当にばかだと始末が悪い。


常に自分が正しいと思い込んでるんだから。



そんなわけで、間抜けなオレはばかに捕まって


とりあえず成り行きでモデルをやるはめになった。


下駄箱の手紙が警告から脅迫に変わったのはそれから間もなくのことだった。


「いい迷惑だぜ。ったく・・・。」


とぼやくオレを意に介せず田川はスケッチブックとオレを交互に眺め鉛筆をなめながら


「そりゃー大変だ。やっと停学解けたのにな。」


と他人事のように言う。


「こんなことで殺されたら死んでも死にきれねーよ。


おい、聞いてるのかよ。」


と言ったら


「モデルはしゃべらんでいーの。」


だってさ。


そう言ったそばから田川はスケッチブックの紙を一枚引きはがしてやぶり丸めて捨てた。


「またボツかよ。」


「そのパンツがどーもなー。」


校内で全裸はまずいということで海パンはいてるオレにダメだしするお前がダメだろと思いつつ


やっぱここは刑務所でオレは無実の罪で囚われてて


きっとこれは何かの罰なのではなかろーかと思ったりする今日この頃なのであった。





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