それは、記憶の中にあるものよりも大人びて聞こえた。
一日のやるべきことを一通り終えて、
特にこれと言った目当てもなく、ソファに身体を預けながらスマホを開く。
来ていた数件のLINEに適当な返事をして、流れるように動画サイトを開く。
今日も疲れたな
帰り道から何度言ったか分からない台詞を頭に浮かべつつ、
何となくおすすめ欄にある一つの動画をクリックする。
鍵盤と演奏中の指に、曲の名前。
そんな、どこでも見るようなサムネイルの、ピアノの演奏動画。
曲は、どこか懐かしさを感じるような、見覚えのあるタイトルだった。
五秒の広告が終わった後、演奏が始まる。
動画が半分ほどのところに差し掛かったとき、
私ははっとした。
どちらかといえば、それまで何となくあった霧がすっと晴れるような感覚だったかもしれない。
それからの一分と数秒の時間、
私は目を見開いたまま画面を見続けていた。
演奏は、全く頭に届いていなかった。
その演奏する指に、見覚えがあったのだ。
それは間違いなく、中学の同級生の演奏動画だった。
指の使い方から、その弾き方の癖まで、何もかもが馴染みのあるものだった。
ピアノに寄りかかりながら見ていた指使いと、音色だった。
その音は、あの時よりすこし大人びたようにも感じた。
右手には、一つのリングがはめられていた。
その動画は、ずっと心の奥にしまって目を逸らしてきた記憶をよみがえらせた。
ふぁーすとていくしたら3000字くらいになったので少し書き直して投稿しています。
共感できる方は半分くらいかもしれません。