ウマシカ
それは夏の終わりのことだった。
ある友人に呼ばれた僕はギラギラと照りつく太陽の下で重い足を動かし、近くの河川敷に訪れていた。友人は早めに着いていたらしく、陽射しから逃れるように橋の下で伸びていた。
「この暑い日に呼び出しといて呑気だね。竜馬」
「あぁ、猪鹿野かぁ、来てくれたんだね。ありがとう。これでも飲んで涼んでくれたまえよ」
彼はそう言うと汗のかいたラムネ瓶を地べたに乱暴に置いた。
「んっ、ありがと。それで話ってなんだよ」
「いやさぁ、気になったことがあって。これ見ろよ」
彼はおもむろにズボンのポケットからスマホを取り出すと、それを起動し、水戸黄門が印籠を突き付けるかのように画面を見せた。
その画面は誰もが使用するトークアプリでの会話であった。
彼は画面をスクロールして、自分の会話である緑色の吹き出しを指した。
「只のクラスグループの何が気になるんだよ」
「分からないのか?」
彼は首をかしげ、僕に疑いの目をかける。
「いや、そんな目をされても分からないよ」
「そうか、そうか、まぁ聞け。このグループには俺とお前を含めて三十九人居る。そして、俺の発言に既読が着くとその人数が表示されるはずなんだ。それなのに見てくれ。三十八人なんだ。これもこれもこれも… そう、一人だけずっと未読なんだよ」
僕はその話を聞くと、口を両手で覆ってしまった。
「なんか、分かったのか?!」
「いっいや、なんでだろうなぁ…」
彼は立ち上がり、頭を搔き始めた。
「猪鹿野でも分からないか。まぁ、良いや。さぁ帰ろうぜ」
そして、竜馬は僕の前を歩き始めた。僕も彼の後ろに続き、ラムネ瓶を呑み進めていく。喉に通る刺激と甘味はやはり堪らない。
「美味しいか?」
「うん、美味しいよ。やっぱり夏って感じだよね」
彼は突然口を大きく開き、腹を抱えて笑いだす。
「安直だな。バカっぽいぞ」
「いや、……何でもないや」
僕は呑み干したラムネ瓶からビー玉を取り出すと、それを覗き込む。そこにいた小太りの彼にこう言ってやったのだ。
『ウマシカめ。』