デートを終えて
パンケーキを食べて店を出るとすでに日は沈んでいた。冬という事もあり、肌寒い。もう付き合っているっていう事もあり、これは手をつなぐ言い訳になるのではないだろうか? 俺が里香に声をかけようとすると彼女はなぜかどよーんとした効果音がしそうな感じでうつむきながら俺の少し後ろを歩いていた。
「なにへこんでるんだよ。別に俺は気にしてないっていっただろ」
「うう……だって、てんぱってやらかしたんだぞ……大和だってはずかしかっただろ?」
「まあ、そりゃあな……」
確かにいきなり靴を脱ぎだしたときはこいつやべーなっておもったけれど、里香は里香なりにがんばってくれたんだよなと思うと別に怒ったりはしていない。店員さんも最近付き合ったばかりですと伝えたら微笑ましいものを見るような目になったしな。
「うう……なんか私ばっかり、浮かれすぎて暴走ばかりしている気がする……大和は本当に嫌じゃないのか……?」
「嫌なはずないだろ、それだけ俺と付き合えてうれしいって事なんだろ?」
「そりゃまあね……中学からの恋だからさ、それが報われたんだ。嬉しいに決まってるさ。でも、大和は結構冷静だよな? 私の事ちゃんと好きなんだよな?」
「当たり前だろ、何言ってんだよ。好きに決まってるだろ」
「ふーん、仕方ないから信じてやる」
そう言うと彼女は、顔を真っ赤にしながら俺に近付いきて、手を握ってくれた。中学からか……俺は小学校からのなんだぞとは言うのは少し恥ずかしい。そもそもだ、俺は全然冷静なんかじゃないんだよな。今だって、本当は手をつなぎたかったんだよ。だけど、どう聞けばいいかわからなかったわけで……ああ、そうだよな。俺は変わらないければいけないんだ。里香が今頑張って、自分なりに幼馴染から恋人への関係に変わろうとしてくれているように……
俺達はゆっくりと歩く、夕日が沈んであたりはもっと暗くなってきた。俺は里香の手を痛くならない程度に握りしめる。すると彼女は嬉しそうに笑って握り返してくれる。素直に自分の想いを示してくれている。ああ、わかってるよ。俺は冷静なんかじゃないただのヘタレなのだ。でも、ヘタレなりに頑張るべきなのだろう。
「小学校の頃だよ」
「ん、なにがかな?」
俺の突然の言葉に彼女はきょとんとした表情で聞き返してくる。そんな間の抜けた顔も愛おしい。わからないよな、そりゃあ言ってないんだから当たり前だ。
「小学校の頃にさ、みんながテスト返却している時にすごい冷めた顔をしている女の子がいてさ、その横顔がすごい大人びて惚れたんだよ」
「大和……それって……」
「だからその子にかまってもらうために色々頑張ったんだよ。テストを頑張ったら、からかったりさ。必死だったんだぜ。その子からはどうみえていたかわからないけど……」
「いや……でも、あの頃の私はめんどくさいやつだっただろ? 嫌味なやつだっただろ? なんで……」
「理由なんて些細なものなんだよ、その子にとっては普通の事でも俺に輝いて見えて……実際話したらもっと好きになってたんだよ」
「なんでいきなり……」
俺は手を放して顔を覆おうとする里香の手を握って逃がさない。そして彼女の目をみつめ続ける。
「俺の彼女がさ……不安そうだったからだよ。自分が本当に愛されているのかなって顔をしていたからだよ。本当は墓場までもっていくつもりだったんだぞ。好きになったきっかけを本人に話すなんて恥ずかしいからな。でも、そんなくだらない意地よりも大事な事があるから伝える事にしたんだ」
いつの間にか周囲からは人がいなくなっている。もちろん偶然ではない。元々人の少ないところに誘導していたからな。事前に下見をしてこの時間なら人もいないし、雰囲気もいい。だからここに決めたのだ。
そして俺達は見つめあう。こうしてじっくりと見る彼女は慣れない化粧をしているせいかいつもとは違って見える。いや、それだけじゃないな。俺はこんな潤んだ目の彼女を知らない。少し不安そうだけど何かを期待している彼女の目を知らなかった。でも、こうして俺は彼女の色々な新しいところを知っていくのだろう。それを想うととてもワクワクするし胸が暖かくなるのだ。
「キスしていいかな?」
「そういう時は言わないでするもんだろ、大和は気が利かないな」
「仕方ないだろ、俺だって慣れてないんだよ。これからさ、二人で慣れていけばいいんじゃないかな」
そう、軽口を叩きながら俺は彼女の唇と自分の唇を重ねた。多分これからも俺達は、色々悩んだり、ぶつかってりしていくのだろう。だけど、俺達なら乗り越えれると思うのだ。もしかしたらまた、催眠術に頼ったりもするかもしれない。でも、二人で乗り越えるのだ。二回目のキスはパンケーキの味だった。
月曜日の朝、俺はなぜか里香の家にいた。いただいたパンを食べていると、ジャージに、髪の毛がぼさぼさで寝ぼけまなこの里香と目があった。
「おはよう」
「……おはようって、なんで大和がいるんだよ!!」
「いや、一緒に登校してようと思って、里香の家に行ったらたまたま里香のお母さんに会ってせっかくだから上がっていけっていわれてさ……」
「あー、もう、余計な事を……ちょっと顔洗って髪の毛ととのえてくるから待ってろ」
「そのままでも可愛いぞ」
「うっさい、そういうのはいいんだよ」
俺は慌てて洗面台の方へと走っていく里香を見送りながら思う。ああ、なんか新鮮だなぁとか、学校ではどう接するべきかな、イチャイチャしたらまずいのかなまど色々とかんがえていると里香が帰ってきた。
「うう……寝起きを見られた……もうお嫁に行けない」
「俺がもらうから安心しろって」
「付き合って三日のやつのセリフなんて信用できるか、くっそ母さんには注意しておかないと……」
そうぶつぶつと言っている里香をみながら俺は幸せな未来を想像するのだった。一緒に朝ご飯ってさ、なんか新婚みたいじゃない?
「なんだよ、にやにやして気持ち悪いなぁ……」
「俺の彼女は可愛いなって思ってさ」
「うう……朝からこいつは……」
そういいながらもまんざらでもない顔をする里香を見つめながら、俺は一緒に朝ご飯をいただくのであった。
これで番外編も終わりになります。
二人のデートはいかがでしたか?
この作品は現在カクヨムでも「初恋の幼馴染が催眠術を使ってグイグイと迫ってくるんだが~実は俺が催眠術にかかっていない事にカノジョは気づいていない~」というタイトルで投稿させていただいております。
カクヨム版ではなろうとは違う展開になっているので読んでくださると嬉しいです。