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脳裏に焼き付いた光景。
突然家の扉を壊して入ってくるオーク族の者達。
振り下ろされた大斧は、外の異変に気づき様子を見ようと玄関の近くに居た父の身を縦に真っ二つに潰し切った。
続く変化は己の耳に届く。
調理場から顔を出していた母が一拍置いて悲鳴を上げた。
先頭で父を殺したオークの巨漢が煩わしそうな表情をしながら無造作に母へと斧を投げつける。
鋼の色をしていた斧は、刃に付きその色を赤く染めていた血を部屋中に撒き散らしながら母へと真っ直ぐに飛んでいきその首を刎ねる。
階段を降りている最中だったために、自分はまだ陰に隠れてオーク達には見つかっていない。
己の中にある古い記憶がその腰に携えていない剣を握り取れと警告を鳴らしているのがわかる。
不意に頭上から声が聞こえ、慌ててそちらを振り向くが、当の声の主は何が起きたんだと言わんばかりの表情でこちらを見ている。
今の声はオーク達にも聞こえていただろう。
なんの力も持たない己に、今何ができるのかを考える。
その思考時間はほんの数秒だっただろう。
だが、その数秒が明暗を分けたのかもしれない。否、最早数秒の遅れ程度で結果は変わりはしなかったのかもしれない。
彼女の手を引こうと伸ばした手には木片が刺さった。
己の手の平を木の破片が貫いていると言うのに痛みもなく。
久しく忘れていた感覚を思い出しかけた時か否か、彼女の手を引かねばならぬ事を思い出し、正面を見ればそこに家は無かった。
何が起きたのかわからず周囲を見渡せば、遠くで瓦礫に埋まる彼女の脚と、ゆっくりとした動作でこちらに寄ってくるオークの姿が見え、そして世界は暗転を迎えたのだ。