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1度目。
1度目の人生で彼は勇者と呼ばれ、人々を救うべく世界を回り、人を救い、魔を祓い、そして自らの命と引き換えにその王を討ち果たした。
神々は彼の功を称え、彼に新しい人生を与える。
それは、非凡な彼が望んでやまなかった平凡な人生。
ごく普通の人として生まれ、親からの寵愛を受け、愛する人を見つけ、生涯その人と添い遂げる。
それ以上を望まず、それ以上を与えられる事を望まなかった。
たが、願わくば死してしまった彼女ともう一度。
2度目の人生。
かつて勇者と呼ばれた彼は、小さな村のさして裕福ではない家庭に生を受ける。
唯一人と違う事は、彼には前世の記憶がある事。
だが、ただそれだけであった。
魔王は存在せず、争いも起きていない。
そんな世界で彼は成人を迎える。
幼馴染の女性と婚約し、彼とその伴侶は仲睦まじく平凡に、だが、確かに幸せに生きていた。
だがそんな平凡に終わりを告げたのはまたしても魔王と言う存在であった。
数十年の月日が経ち新たに魔族の王となった者は、人への友好など一切見せる事なく、虐殺を繰り返す魔族を人の国々へと進行させた。
彼の両親も、彼の伴侶も、帰らぬ人となり、そこで彼の2度目の人生は、幕を下ろす。