〜STORY 40 4月18日 四 〜
「ふぅ……今日も1日疲れたな」
男子更衣室には優希が後片付けを終わらせ、すでに着替えを終わらせていた
女性スタッフは帰りの用意に時間が掛かるのもあって後片付けは男性スタッフで行うことになっている
「お疲れ様優希君。今日も大変だったね」
「あっ、お疲れ様です上杉さん」
横のロッカーを使用している先輩の【上杉高虎】が近づいてきた
眼は長く伸びた前髪のせいであまり見たことがないが自分で髪をかきあげたりふとした時に見れるレアな瞬間があり見た事のある穂乃果曰くかなり整った顔立ちをしているらしい
入ってきたばかりの頃の優希がミスをしたりしても必ずフォローしてくれる優しい先輩で分からないことがあって相談すれば分かりやすく、そして丁寧に教えてくれる優秀なスタッフで優希も高虎の事が大好きである(その為なのかは不明だが飛香は高虎の事があまり好みではないようだ)
「僕は今日は片倉さんと厨房だったけど、あの人忙しかったりしてイラつくと人使い粗くなっちゃうから大変なんだよね…さっきも少しだけ溜まっていた洗い物を片付けていなかったらとても怒られたしね」
「あはは…たまに聞こえる片倉さんの声はそれだったんですね?確かに忙しい時の片倉さんは触らぬ神に祟りなしってくらいですもんね」
優希はバックから香水を取り出し自身に吹きかける
この香水は去年の優希の誕生日に奏音がプレゼントとして送ってくれた物で匂いも気に入っておりとても大事に使用している
奏音曰く「お兄ちゃんは甘い香りの方が似合うかもしれないけどここは私の好きな匂いに染まってもらうの!」と興奮気味に言っていたが以外に優希自身も染まりつつあるのかもしれない
毎日使えば次第に減っていくだろうし奏音に買った店を聞いておこうと思う優希だった
「それじゃあそろそろ行こうか。あまり待たせてしまうと片倉さんに怒られちゃうからね」
「そうですね!そうしましょうか」
電気を消して更衣室の鍵を閉め廊下を通ると同じタイミングで紫織と穂乃果が女子更衣室から頭を摩りながら出てきた
「お疲れ様です、穂乃果さん。紫織さん…頭なでてますけど何かあったんですか?」
「「なんでも無いんです。気にしないでください」」
「「???」」」
二人揃って息ぴったりで答える
首をかしげる優希と高虎を二人は「あまりのんびりしてると片倉さんに怒られちゃうよ!!」と強引に入り口まで押していった
「全く…あんた達はもう少し準備を手際よく出来ないのかい?」
既に外には涼音がタバコを吸いながら優希達をイラつきながら待っていた
涼音は片付けに加え売り上げなど清算やレジ金の片付けなどもあるにも関わらず仕事の速さは誰よりも速い
この状態の涼音には悪いが優希はその姿がかっこいいなと思ってしまった
「…………」
「痛ぅぅ!!?え?何でつねるんですか紫織さん!!ちょっ!捻らないでくださいよ!!」
涼音への視線が苛ついたのか紫織は優希の手の甲を捻るように抓った
結構な力で抓ったのか紫織に抓られた部分は赤くなっていた
「ふぅ…それじゃあ今日もお疲れ様。気をつけて帰るんだよ?」
「お疲れ様でした。優希君、仁科さん、直江さんも気をつけて帰ってね?」
涼音と高虎はそう言って店の裏にある駐車場に向かっていった
高虎は大型のバイクの免許を所持している為【シリウス】や大学には愛車で来ている
涼音も性格に合わせたようなスポーツカーを乗っている
彼女の運転する車に乗ったある先輩が言うに涼音の運転乗るまで天国乗ったら地獄らしい
「それじゃあ僕らも帰りましょうか?」
「「…………」」
その瞬間紫織と穂乃果は優希に背を向けてお互いを見合わせる
「(優希君と二人きりになりたいの。お願いほのちゃん!)」
本来は方角が同じということもあり優希が二人を送ることになっているが今日は優希に何もアプローチが出来なかった紫織はせめてミニデートがしたいと考えていた
「(わかってるわかってる。その代わり必ず成功させて私にその話聞かせてね?)」
当然穂乃果もそのことを理解できるしまた首を捥がれるほど振り回されるのも勘弁なので強力に意欲的なのだ
「??二人共、どうかしたんですか?」
数秒瞬きによる意思疎通が終わると二人は深く頷くと優希の方に振り向いた
「ごめんね優希君。私欲しいものがあってそれ買いに行きたいからしおりんと二人で帰ってもらっていい?」
「え?それは構いませんが帰り道送ってかなくて大丈夫ですか?」
「あぁ大丈夫大丈夫。帰りはちゃんとお父さんに迎えに来てもらうからさ」
穂乃果は以前変質者にストーキングをされたことが少しトラウマとなっていた
それもあって優希達と一緒に帰ることになったのだが今回はしょうがないのである
「それじゃあ気をつけてくださいね?お疲れ様でした!」
「今日はありがとうねほのちゃん!またね!!」
穂乃果と紫織は今日の作戦の成功を祈り、固い握手を優希の見えないところで交わしたのだった