〜STORY 39 4月18日 参 〜
「はああああああ!!!」
女子更衣室のロッカーの前で紫織は下着姿のまましゃがみこみあからさまに落ち込んでいた
あの後、休憩後も休む事なくお客さんが流れ込んできてはその対応に当たっていたため優希とは全然話すことはできずに今日のバイトの時間が終わってしまった
そのうえ……「はい。【藤堂葵】さんと言う女子大生さんです!昔からお世話になっている優しいお姉さんなんですよ」と言う優希の言葉が胸に突き刺さる
「【藤堂葵】って誰よ…仁科さんやクラスメートにいるお嬢様が優希君に好意を抱いているのは知っていたけど【藤堂葵】なんて女の情報なんか何も入ってきてないわよ……」
優希が家庭教師に勉強を教えてもらっていることは知っていたがその家庭教師が女子大学生だということは知らなかった
同じ学校ということもあり飛香や晴菜の事についてはいくらでも調べられるが優希プライベートの情報についてはストーカーでもしない限り分かりようがない
「(そもそも汚い事して優希君にもしバレでもしたら目も当てられないわよ)」
優しい優希でも学校そしてバイト先の先輩が自分のストーカーだと分かれば関わりたくないだろうし親も黙ってはいない
最悪【シリウス】のバイトも辞めてしまい二度と紫織に近づこうとしないだろ
そうなってしまっては学校で優希が紫織を見掛けた瞬間、紫織に恐怖する顔を浮かべその隣で優希を守ろうと飛香や晴菜から「ゆ〜ちゃんに近づかないで!このストーカー!!」「優希様が怖がっております。どうか二度と優希様に近づかないでくださいませ」などと罵られることは目に見えている
「(うっ…嫌なこと考えちゃった…気分が悪くなってきた…)」
想像しただけで胸がギュッと握り締められる程の締め付けを感じた
晴菜や飛香に何言われても構わないがあの優しい優希に怖がられてしまうのは精神的にくるものがある
「ん〜?どうかしたのしおりん?」
後ろから紫織に声をかけたのは紫織の1つ歳上で西海大学1年の直江穂乃果が紫織の両肩を掴みひょこっと顔を出してきた
紫織が1年の春に【シリウス】に入った時点で穂乃果は既にバイトしており高校も同じということも重なって仲良くなるのに時間はそんなに掛からなかった
その1年後に優希が入り、紫織が優希に好意を抱くようになってからは穂乃果はいつもは活発なのに恋愛になると引っ込み思案になってしまう紫織を全力でサポートしてくれている
「あっ、ほのちゃん……うぅん、何でもないの」
「大方折角ライバルがいない貴重な1日を棒に振ってしまったって感じかな?」
誤魔化そうとするが穂乃果はあっさり紫織の考えを読み取った
まぁ…明らかに落ち込んでいる姿を見れば大方予測をつけられるのだが
「まぁ〜今日も忙しかったし仕方ないと思うけどしおりんももうちょっと優希君にアピールしないと幼馴染のあすにゃんに勝てないよ?他にもライバルの女の子とかいるんでしょ?」
「うん…しかもお母様や妹ちゃんともすごい仲良いしなんか家庭教師のお姉さんも知るみたいなの……」
「…改めて聞くと優希君ってすごいモテるよね……まぁ、わからなくはないんだけど…」
優希の女の子事情に穂乃果は少し呆れてしまう
ただ、その穂乃果でもお母さんと妹まで優希を恋愛対象に捉えてるとは思うまい
「うぅ…【藤堂葵】ってどんな人なんだろ?只の家庭教師だったらいいんだけど……」
「え?優希君の家庭教師って藤堂さんなの!?」
「ほのちゃん知ってるの!?」
噂の家庭教師の正体を知って驚く穂乃果にさらに驚く紫織は穂乃果の両肩をガシッと掴み激しく上下にに肩を揺すった
「う、うん。と、藤堂さんならうちの大学のマドンナだからね。あ、あまり会話をしたことはないんだけど だ、男子のほとんどが憧れるほどの美人さんだよ?あ、あまり揺らさないでしおりん!!酔っちゃう!私酔っちゃうから!!」
紫織に強く揺さぶられ穂乃果の頭がクラクラになりつつある
揺らす力も強ければ揺らしてくる紫織自身の表情も鬼気迫るものがあり至近距離で見るととても怖い
「ほ、ほのちゃん!も、もしかしてその人の写真とか持ってたりする!?」
「持ってます!持ってますし見せますからどうか離してください!お願いします!!」
興奮気味の紫織に涙目で助けを懇願する穂乃果の願いが通じたのかようやく紫織は穂乃果を離しその代わりに紫織の携帯を拝借する
携帯に写ってる葵の写真をまじまじと見ているとそこには昨年の西海大学で行われたミスコンテストに出場し優勝した紫織が写っていた
葵の着用している純白のドレスがさながら結婚式の花嫁を彷彿させるとコンテストでは高評価を呼び、結果的に満場一致で葵の優勝が決まった
因みに葵は当初出る事を拒んだのだが、学園祭に訪れていた優希に「葵さんなら絶対に優勝できますよ!」と言われ快く出場し、優勝した際のご褒美として抱きしめてもらい、更にスーツ姿に着替えた優希と写真を撮ってもらっていた(その写真は今の葵の待ち受け画面になっている)
プルプルと震える紫織が持つ携帯からは助けてくれと懇願されるほどミシミシと悲鳴をあげる程思いっきり握り締められていた
「し、紫織、さん?いかがでしょうか?出来れば携帯は握りしめないで、欲しいんだけど?」
「…てる」
「え?」
懇願をする穂乃果に対し紫織は携帯の画面を見たまま穂乃果にボソッと何かを言ったのだがあまりに小さい声だったのか穂乃果はよく聞こえていなかった
「私この人に完全に負けてるよほのちゃん!どうしようどうしよう!…このままじゃこの人に優希君取られちゃうよ!!私嫌よそんなの!!」
「分かった!分かったから!!協力でも調査でも何でもするから今度は頭つかまないで!!吐きそう!私更衣室で吐きそうなんだって!!」
ガチャ
「お前達何を騒いでいるんだ。早く着替えて……」
騒ぎ声を聞きつけて涼音は更衣室に入るとそこには下着姿のまま穂乃果の頭をハードロックのように振り回す紫織と首ごと吹っ飛んでいきそうな位に振り回されてる穂乃果がいた
涼音は頭を押さえて溜息をつくと深呼吸をしてゴン!ゴン!と二人に鉄拳を食らわせた
「馬鹿なことしてないでさっさと着替えろ!!」
思いっきりドアを閉じたあと紫織と穂乃果は頭を押さえたまま急いで帰り支度を済ませた




