〜STORY 36 4月16日 参 〜
葵お手製の弁当を食べ終え二人は桜の樹の下で談笑を繰り返していた
葵の大学での出来事や大学の教授のカツラの話、優希の家での椿とのやり取りや高校での晴菜や飛香の喧嘩なども上がり、葵は内心他の女の話をして欲しくないと思ったがその話を楽しそうに話す優希が愛おしく、葵は話を一生懸命話す優希を優しく見つめ見守った
「んむぅ……むぅ…」
話が終盤になってきた辺りで優希の瞼が重力に逆らえきれず、何度もこっくりこっくりと船を漕いだ
「優くん……もしかして眠くなっちゃった?」
確かに勉強した後は特に眠たくなってしまう上に葵の作ったお弁当をたくさん平らげお腹も満タン状態じゃ眠気も5割増しなはずだろう
更にこの春の陽気な暖かさにたまに吹く春風が心地よく眠くなってしまってもおかしくない
「は……はぃ……ごめんなさぁぃ葵さん……」
優希は眠たげに答え少し休ませる方がいいと思った葵は優希には申し訳ないが自分の夢も少し叶えようと考えると姿勢を正し太ももにハンカチをかけて
「ゆ、優くん…その……もしよかったら、その〜私のここ…使って、いいよ?」
葵は太ももをぽんぽんと叩き、【膝枕】を促すと優希は眠たいせいなのか目をシパシパさせ眼を擦るとゆっくりと首を縦に頷いた
葵はその瞬間またも【イエス!!!】と叫ぶがそれが心の中で叫んだのにはまた恥ずかしい思いをしたくないという理由と眠そうな優希を起こしたくないという二つの理由があるが、それでもやはり嬉しいものはやはり嬉しいものだ
フラフラと優希は葵の側まで行くとコテンと倒れるように葵の膝枕にたどり着いた
「(はぅ////!!)」
葵の心臓に何か鋭利なものが突き刺さる感覚を覚えた
超至近距離の優希の寝顔、太ももに感じる優希の重み、近づくと優希の吐息が聞こえてくるそのどれもが新鮮で全てが愛おしく抱きしめたい衝動が抑えきれなくなっていく
「(だ、抱きしめるのは優くんを起こしてしまうかもしれないからダメかもしれないけど……こ、これくらいなら?)」
葵はそーっと手を忍ばせポンっと優希の頭に触れ髪を梳かすように撫で始めた
「(綺麗な髪。それに上品な糸のように滑らかでとても艶々してる…毎日の手入れの賜物なのかしら。ひょっとしたらそこらの女の子の髪よりも綺麗かも…?)」
撫でるたびに優希の香りを感じられ、葵は一心不乱(但し優希を起こさない程度だが)に優希の頭を撫で続けた
突然春風が吹き荒れ、待った砂が優希に掛からないように身を呈して優希を守ろうと優希に覆いかぶさる形になった葵だが、膝枕より更に至近距離となった葵と優希は片方が少し近づけば簡単にキスが出来る距離となった
「…………」
葵は優希の唇をジッと眺める
今なら出来るのでは?と思うが葵はフゥ…と一呼吸した後少し優希に着いてしまった砂ホコリをサッと払って元の状態に戻った
「(優君にならもちろん捧げてもいいのだけど、欲を言えば私は優君から奪って欲しい…だから貴方から私を求めたら私は……)」
そんなことを考えつつ優希の頭を優しく撫でていると葵はふとあることを思い付き、優希の顔の近くで反応があるか手を振ってみる
先程までと同じ寝息が感じられたので葵は周り見回すと眼を瞑り、優希の額に軽くキスをした
「ふふっ…やっぱりおでこでも恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしいものなのね。でもいつかは優くんの意識がある…それも優くんから唇にキスして欲しいなぁ…」
優希に聞こえるか聞こえないか、それくらい小さな声で呟く葵の頬は紅葉のように紅く染め、胸に手を添えると心臓がドクッ!ドクッ!と弾むように心拍していた
とても幸せな気分になった葵は優希が起きるまでの少しの時間自身の太ももに伝わる重みを大切に感じていた
「くん……ゆうくん…?」
優希は薄らとした意識の中で、上方から声が聞こえてくる声に反応し寝ぼけ眼のまま優希は少しずつ眼を開く
「あっ起きた起きた!ごめんね優くんまだ少し眠いよね?」
「あおい…さん?」
優希は上を見上げるとそこには葵がにっこりと微笑んでいたが薄らと頬を染めていた
眼を擦り周りを見回すと夕焼けというより既に夕暮れに差し掛かっていた
どうやら4時間近く寝てしまったようだ
「す、すみません!!僕めっちゃ長いこと寝てしまったみたいで……」
「あっ……(終わっちゃったなぁ〜)い、いいのいいの!優くん今日は勉強も頑張っていたし、私の作ったお弁当も美味しそうにたくさん食べていたから眠たくなっても仕方ないわよ」
勢いよく葵の膝枕から起き上がり謝る優希
葵は膝枕の時間がついに終わってしまったことが少しショックで、名残惜しさな雰囲気を醸し出していた
「あっ、お弁当ありがとうございました。すっごい美味しかったです」
「本当?良かった〜。朝から頑張って作った甲斐があったわよ」
お弁当の評価が優希から好評化で胸を撫で下ろす
頑張って3時に頑張って起きた自分を今だけは褒めたい
「え?朝早く起きて作ってくれたんですか?」
「う、うん。お花見はする予定だったし…もし優くんと一緒に行けたら美味しいもの食べて欲しかったから……」
「そ、そうなんですか…ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして俯きながらボソボソと話す葵に優希の顔も真っ赤に染めていく
そのまま会話が止まってしまい沈黙が流れていった
耐えきれず優希が帰りましょうか?と言うと葵は小さく頷いた
帰り道も会話もなくポツポツと帰り道を歩く
「(さ、さっき変なこと言ってしまったから気まずくなっちゃった…どうしよ、どうしよ!!)」
沈黙の原因が自分の言葉じゃないかと内心焦ってしまう葵
するとそんな葵の手を優希はそっと手を握る
「……ふぇぇ!?ゆ、ゆ、優くん!?」
「今日は本当にありがとうございました。また、一緒にお出かけしてくれませんか?」
優希は葵に向けて満面の笑みを向けた
葵はその笑顔が眩しかったのかすぐ顔を横に背けてしまった
それでもなんとか返事する為に精一杯答えた
「……私で良かったら…その…お願いします」
「はい!!」
手を繋ぎお互いの頬を赤く染めたまま二人は家に着くまでその手を繋いでいた