〜STORY 30 4月15日 弐 〜
「お兄ちゃんは今日バイトあるの?」
「うん。今日は入れてないけど、どうかしたの?」
奏音はテーブルの目の前で共に朝食をとっている兄の優希にバイトの予定を尋ねると優希はお茶を飲みながら答える
「実は今度クラスの子とお出かけしたりするんだけどあまり服の持ち合わせが無くて…それで今日の放課後に少し見に行こうかなって思ってね。それでちょっと男性の意見も欲しくてお兄ちゃんにも私の服見て欲しいの……だめかな?」
「僕は別にいいけど……男性の意見が欲しいのに僕でいいの?」
優希のファッションセンスは皆無では無いにしろ自分の服などは母の椿や奏音が選んでしまうためセンスについては自信がない上、優希も着れればなんでもいい人だった
優希と奏音が小学生の頃に奏音の誕生日で優希は奏音にプレゼントとして服を買ったのだが優希が選んだのは何色も使われているカラフルなデザインのワンピースだった(ちなみにそのワンピースは奏音のクローゼットの中の真ん中に大切に飾ってある)
「まぁ……そこはしょうがないから我慢するわよ。他に男性の知り合いとかいるわけじゃ無いしね」
優希の心にグサッと何かが突き刺さる音が聞こえた
自身のセンスは確かに無いに等しいが流石に傷つく
「ん〜、僕だけじゃ頼りにならないしなぁ…あっ、そうだ!璃玖も連れていけば問題ないんじゃないかな?」
璃玖は奏音とも幼い頃から知り合ってる上、璃玖の見る目は優希とは雲泥の差でもある
「それは絶対にだめ!」
「え、ご、ごめん…」
璃玖なら問題ないだろうと璃玖を連れて行こうとする優希を必死に止める奏音の気迫に優希は少し気おされてしまった
「(お兄ちゃんとデートするための口実なのに他の男も同伴じゃこのデートの意味が無いのよ!)」
幼い頃からの顔見知りであっても今回は優希と二人だけで濃密な時間をゆっくり過ごしたい
そのデートに他の男がいてしまってはいくら最愛の兄がいても楽しさは半減してしまう
二人きり以外は最初からお断りである
「それじゃあ放課後にセブンで待ち合わせだから間違っても飛香ちゃん達を連れてきちゃダメだからね?」
「分かったよ。飛香達にはちゃんと説明するからさ」
「ん。それでよろしい」
その言葉を聞き安心したのか奏音はニコニコと笑顔のまま朝食に再び手をかけた
優希も不思議そうにしていたがどこかで納得したようで朝食をとるのだった
その日の奏音は全くといっていいほど集中が出来ず、何度も教師に注意を受けてしまったがそれでも奏音の頭の中は兄と濃密な時間を過ごす自分、そして願わくばの妄想が奏音の頭の中を駆け巡り、最後は教師が諦めてしまった
そして待ちわびた放課後となり奏音は一足先に待ち合わせとして指定したセブンで優希を待っていた
本来なら自分から優希を迎えに行ったほうが時間的にも合流しやすくていいのだが、それだとムードがなくなってしまう上に他の女達に邪魔されかねないということで場所を指定して合流することとなった
「お〜い奏音!待たせちゃってごめんね」
奏音が待ち始めて5分経った頃ようやく優希が合流した
少し走ってきたのか額に汗が滲んでいて、待たせないように急いできたんだと奏音は内心とても喜んでいたが少し兄をいじってみようと考えた
「…2分遅刻よお兄ちゃん」
「え!?だって放課後に待ち合わせするってだけで何分までに集合とは言ってなかったよ!?」
実際確かに奏音は放課後セブンで待ち合わせとしか言ってないので優希が正論なのだが……
「こういうのは本来お兄ちゃんが女の子を待つの。それを女の子が逆に待っててどうするのよ」
「え……女の子って言ったって相手は奏音だし…」
「何か言った?【ギロ!】」
「い、いえ!何でもないです!!」
ぶつぶつと言っている兄に奏音は鋭い眼付きで兄を睨むと優希はビクッ!?と反応した
奏音にとっては困ってたり驚いたりする兄がまた可愛らしくもっと見ていたいと思うのだがこのままでは兄がかわいそうだと思いからかうのをやめた
「まぁ…ちゃんと約束守ってくれたし今回は多めに見てあげる。感謝してよね?」
「う、うん。ありがとう奏音」
相手に対してとことん優しい優希が積極的かつ大胆な飛香や晴菜からの申し出を断れるとはあまり思っていなかった奏音からしたら今回のことは少し驚きだった
「それにしても断ってって言ったけどあの飛香ちゃん達がよく素直に引き下がっわね?」
「う〜ん?最初は飛香も行くって引き下がらなかったけど晴菜さんに何か耳打ちされてからすんなり引き下がったからね。二人でどこか出掛けるのかな?」
優希は呑気に二人が出かけるものだと考えているが奏音からしたら晴菜が何か企んでいるものだと考えてしまう
「(あの飛香ちゃんがすんなり引くとは考えにくいわね……それにあのお嬢様は隙がないからおそらく何らかの形で接触してくるとは思うけど……)」
「奏音?どうかしたの?」
考え事をしていると目の前で優希が奏音の顔を覗き込んできた
優希にとっては大したことではないだろうが奏音にとってはそんな兄の無意識な行動は心臓に悪い(嫌とは言ってない)
「な。何でもない!ほら!早く行こうよお兄ちゃん!【グイッ】」
「ちょ!引っ張るなよ奏音!」
誤魔化そうと優希を引っ張りながら連れて行く奏音
その二人を後方から見る二つの目が二人を追っていく