〜STORY 23 4月10日 壱 〜
「ふ〜ん♪ふふ〜ん♪」
翌日の午前9時過ぎ、葵は今お気に入りの曲を口弾みながら目的地を目指していた
天気は雲ひとつない快晴で春風に乗った花の香りが葵の気分を更に向上させる
道端には近くに聳え立つ桜の木から舞った花びらが落ちており小さな竜巻が攫っていくかのように巻き込んでいった
「【コクッコクッ】……ふぅ…美味し」
タンブラーに詰めたホットコーヒーを一口する
苦いものが苦手なため砂糖とミルクをたっぷり入れてあるため葵でもコーヒーを楽しめるが葵の友人達からはコーヒーに入れる砂糖とミルクの量に若干引かれることもある
しばらく歩いて葵は目的地である優希の家に着いた
歩いて10分も掛からない距離だが、葵は鏡が視線に映る度に身嗜みを入念に確認しているため倍以上掛かってしまう
ただいつどこで優希と会ってもいいように鼻唄を交えて気分を上げ甘いコーヒーを飲んで心を落ち着かせないといけない
「スー……ハー……(大丈夫。優君に笑顔で挨拶してお母様にお会いしたら丁寧に挨拶をする。毎週お会いしているし何も怖がる必要なんてないわ。……だって未来のお義母様ですものね!!)……よし!」
チャイムを鳴らす前に再度身嗜みを確認してから葵はチャイムを鳴らす
すると2階から降りてくる音が聞こえてきて葵の動悸より一層が高鳴っていく
ガチャ
「あっ、葵お姉さん!おはようございます」
「…………おはよう奏音ちゃん」
ドアを開け中から出迎えてくれたのは優希本人ではなく優希の妹の奏音だった
まぁ、兄弟だから一緒に暮らしてるわけだし妹の奏音が出てきてもおかしくはないが葵個人としては優希に出迎えをして欲しかったとは妹本人に対して絶対に口に出来ない
「今妹の私じゃなくてお兄ちゃんにお出迎えして欲しかったでしょ?」
葵の感情が読み取れたのか奏音はニヤニヤと葵をからかうかのように笑みを浮かべた
「あ、あはは……一応家庭教師として来てるからそういうのは関係ないかな〜」
笑って誤魔化そうとする葵だったが奏音は葵の考えを見透かすようにジト目を葵に向ける
「ふ〜ん?まぁいいけど。お兄ちゃん〜!!葵お姉さん来たよ〜!!」
奏音が大きな声で二階の優希に言うと上から急ぎ足で降りてくる音が聞こえてくる
「それじゃあ〜ごゆっくり〜♪」
軽く一礼して奏音はスキップを踏みながら自分の部屋へと戻っていきすれ違いざまの優希の肩をポンと叩くとその肩を摘み上げ少し拗ねたような表情をしたまま消えていった
「だ、大丈夫優くん……?」
「いてて……全く何なんだよ奏音のやつ…すみません葵さん。どうぞ入ってください」
抓られた肩をさすりながら優希は葵を家の中へと迎え入れた
葵は優希を心配する気持ちとは裏腹に優希の格好を瞳の中にしっかりと収めていた
白のTシャツを上から紺のパーカーを羽織り、下は黒のスウェットとラフな格好でいかにも部屋着として使用してる感が漂っている
スーッと深呼吸をして……
「……(とっても可愛いわぁ〜♡)」
葵の脳内フォルダーにまた新しい画像が格納された瞬間だった
「(格好も素敵だけどセットしてないから寝癖がピョコって立っているのがまた新鮮でたまらないわぁ〜♡仕事前に良い目の保養になったわ!)」
「葵さ〜ん?どうかしましたか?」
「…………ふぇっ///!?」
脳内がハイテンションになっており、自分の世界に入っていると目の前で優希が至近距離で葵の顔を覗き込んでいたのに驚いてしまい間抜けな声を上げてしまった
「な、何でもないの!!気にしないでね!あ、あはは」
「???」
この調子で今日一日大丈夫なんだろうかと少し不安になった葵だった