〜STORY 22 4月9日 〜
「ふぁぁ……今日も講義退屈だったなぁ〜」
西海大学2年の藤堂葵は口に手を当てて大きなあくびをしながら講義を終え校舎から出てきた
「葵〜!明日暇だったりする?今話題の石井雄大主演の恋愛映画が超泣けるんだってさ!!観に行こうよ」
「ごめん!明日はバイト入ってるから無理なんだ。日曜なら平気だけど……そっちがデートじゃない?」
葵が問いかけると葵の友人で同級生の入澤陽子は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ
「あんな女ったらし!こっちから振ってやったわよ!!デートしてるのに可愛い子やスタイル抜群の子を見るとすぐ話しかけたりするんだから!もう思い出しただけでイライラする!!それからね〜……」
しばらくは元彼の愚痴が陽子の口からマシンガンの様に飛んできては一向に止まらず、こうなっては止められないと葵もただ相槌を打つだけで聞くしかできなかった
10分以上過ぎて陽子はようやく落ち着いたのだった
「ハァ〜!すっ!きりした!!…ごめんね葵。こんな所で愚痴聞いてもらっちゃって……」
「う、うん……出来れば家とかで聴きたかったかなって思ってるよ…」
「へっ?…………ッッ!!?/」
葵が恥ずかしそうに俯きながら言うと陽子はその場が校舎と校門までの通路に今更気づいた
他の学生も帰宅のために通っていたためこちらを見てはヒソヒソと話してたり、冷えた視線をぶつけつつ眺めてる人などが大勢いた
「…………〜〜!!/////////【ダッ!】」
「あっ、ちょ、ちょっと!陽子!?」
みるみる陽子の顔が真っ赤に染まり下を向いたまま葵の手を掴み校門を駆け抜ける
数分走って二人は大学の最寄りの駅でにある学生行きつけの喫茶店【リオン】の席に着いていた
「……陽子大丈夫?」
「………………死にたい。この世から消え去りたい」
アイスティーを飲みつつ葵は陽子の様子を見ると陽子は机に突っ伏したままであった
時折ぶつぶつと独り言を言っているがそれが怨念の様に低い声で響かせるためその度に葵はヒイッ!と声を上げ恐怖を抱いていた
「だ、大丈夫よ陽子!明日から休みなんだし休みが明けた頃には皆忘れてるだろうから気にすることないわよ!」
「でも写真とか動画とか撮られていたしどうせトュイッターとかウィンスタとかで【彼氏に振られたヒステリック女】なんて名前で大ブレイクね私。あは…あはは……あははははははは!!」
「しっかりして陽子!気を確かに持って!!」
肩を揺すっても頬をビンタしても屍を相手にするように手応えがなく途方に暮れてしまう葵だった
その間ウェイターやお客は葵達の席から漂う重すぎる空気を感じ取り一切近づけずにいた
「はぁ…折角のキャンパスライフなのになんで私が付き合う男はまともな男がいないんだろ……」
「あ…あはは。どうしてなんだろうね……」
ようやく理性を取り戻した陽子はアイスコーヒーの氷をかき混ぜながら呟いた
葵はまた陽子が落ち込まないようにコメントに気をつけながら答えるのだった
「そういえば葵は大学入ってから誰かと付き合ったって話を全然聞かないけど誰かいい人とかいないの?」
「ん〜まぁ告白された事はあるんだけどどの人もまるで興味は無かったかな」
「へ〜いいなぁ〜。羨ましいなぁ〜」
まるで感情がこもっていないが薄目で葵を睨む陽子
葵には言わないが陽子は大学に入って告白はするが告白をされた事は無いので告られる葵が非常に羨ましかったりする
「じゃあ葵が求める理想ってなんなのさ?」
「ん〜……理想というより私は心に決めている人が一人いるから強いて言うならその人かな?」
「え!?どんな人?同級生?先輩後輩?」
テーブルから身を乗り出して食い気味に聞いてくる陽子の口元には薄っすらよだれみたいなものが垂れていた
「ん……この子だよ」
葵はスマホの待受を陽子に見せる
スマホに写ってるのはベットでぐっすり眠っている優希の寝顔だった
「へ〜!可愛いなぁこの子。今度紹介してよ〜!!」
「だめ♪」
陽子の要求を瞬時に却下する
笑っているのだが何故か殺気がある気がして何も言えなくなってしまう
「ごめんね陽子。いくら親友の陽子でも優くんは誰にも渡したくないの。だって優君は可愛くて優しくてとっても可愛いんだもん。きっと陽子も優君と会ったら優君に惚れちゃうはず。そしたら私、陽子のこときっと大嫌いになっちゃうしきっとあなたに危害を加えてしまう。だから陽子を優君に会わせたくないの。ごめんね」
「う……うん。こっちも無理言ってごめんなさい。」
陽子は無理やり笑ってアイスコーヒーに手をつけたが全く味がわからなかった
目の前の親友を見ると葵はニコッといつもの笑みを浮かべてくれた
ただ……葵が好意を持っている写真の子には絶対に会わないようにしようと心に誓った陽子は震える手でアイスコーヒーを飲んだ