~STORY 173 7月27日 ③~
「あ、おはようママ。どうしたの?そんな慌てて何かあったの?」
髪を耳に掛けながら奏音は息を切らしている椿を不思議がり何があったのか尋ねる
「な、なんでもないのよ奏音ちゃん?それにしても奏音ちゃんの部屋ってそこの隣だったわよね?どうして奏音ちゃんがゆうちゃんの部屋から出てきたのかしら〜?」
椿はグッと唾液を飲み込むと呼吸を整えて平静を装う
「まぁ〜この格好見たら大体の予測はつくと思うけどね〜?」
「じゃあ…やっぱり奏音ちゃんはゆうちゃんの部屋で昨日の夜を過ごしたっていうのかしら?」
奏音の言葉を聞き、椿は自分が考え想像した“最悪の出来事”が見事に的中してしまった
「“ 私の娘だったら大好きになった人を離さないようにどうするか考えなさい?”とっても素敵な言葉だったわママ。あのママの言葉のおかげで自分に自信を持つことができたの。とても感謝しているわ」
奏音は椿にゆっくりと近寄りながらまるで腫れ物が取れたかのようにすっきりとした表情を椿に見せる
昨日の朝に奏音の部屋で椿が言った言葉が奏音の優希への想いを更に強くそして強固なものとしてしまったのだ
椿からしたら奏音にとどめを刺したはずなのだが返ってよくない方向に反発してしまい大誤算となってしまった
「す、少しばかりゆうちゃんに愛されたからって何を調子に乗っているのかしら奏音ちゃん?ママはゆうちゃんから寵愛を受けているのよ?これから未来永劫その事実は変わらないの。奏音ちゃんが割って入れる隙間なんて…」
「そうだよね?実の兄を好きになってしまったこの想いをくだらない世の中の常識如きで踏み潰されてたまるもんですか。だからお兄ちゃんに想いを伝えたの。少し強引だったかもしれないけど結果は最高よ?お兄ちゃんにたくさん愛して愛されたもの。これでママに追いつくことも出来たしこれで追い越されることもないもんね?だってこれからママにリードを許さないくらいお兄ちゃんを奏音の虜にして見せるわ」
反論して奏音の勢いを弱めようとするも今の奏音にはまるで通じない
寧ろ廊下の端まで詰め寄られてしまい椿は奏音の瞳を見てゾッとした
昨日の朝見た奏音の瞳と今の奏音の瞳では輝き方が段違いであった
昨日の奏音は全てに絶望し、投げやりになってしまっていた“敗者の瞳”だった
「晴菜先輩だろうと飛香ちゃんだろうと他の女性にだって負けないよ?奏音の愛が他の女なんかに負けるわけないんだもん」
それが今では全てに勝利した“勝者の瞳”となっていた
そして椿は肌で感じ取った
奏音の瞳の先に自分は映っておらず、奏音の瞳には優希しか見えていないのだ
それが無性に腹ただしく憎たらしくなった
「ふふふ、私の愛よりも奏音ちゃんの愛の方が深くて大きいなんて本気で思ってるなんてとんだお笑い草よね〜?ゆうちゃんが産まれてもうすぐ17年。ゆうちゃんを宿した瞬間から今日までゆうちゃんを想わなかった日は1日たりともありはしないわ?それを娘の分際で勝っていると思ってるなんて舐められたものね〜」
ゆらりと笑いながら立ち上がった椿は奏音を見下ろしながら優希への想いを語る
奏音が優希を思うようになったのは小学生ぐらいの頃からだったにしろ椿と奏音では想う時間に差が出てしまう
「どれだけ長く想っているかじゃなくてどれだけ今のお兄ちゃんを愛しているかじゃないの?」
それでも奏音は今の優希を愛しているのは椿よりも自分だと主張する
「奏音ちゃんったら分かってないわね〜?それじゃあ私が今のゆうちゃんを愛していないみたいじゃない。ゆうちゃんへの愛は月日が長くなるにつれて深まるばかりなんだから!!」
負けじと椿も優希への愛は歳を重ねるごとに強まると反論づける
椿と奏音の“どっちが優希を愛しているか論争”は押しては引いてを繰り返しシーゾーゲーム化していった
「んあぁ〜…朝から元気だなぁ…【ガチャ】椿さん、奏音、二人共どうかした……」
「「!!!!!!!!!!!!」」
廊下から聞こえてくる騒ぎ声に目を覚ました優希は扉を開けて様子を見ると椿と奏音はまるで野良猫の取っ組み合いのように押し倒しては押し倒されながら優希への愛の強さを語っていた
「ふ、二人とも…?」
「「!?こ、これはその…」」
優希は再度話しかけると二人とも聞き取ったのか取っ組み合いながら首をグリンと捻じ曲げて優希の顔を見ると一気に表情が青ざめていった
「その…いくら夏休みになったからって…ね?あまり朝から大騒ぎするとご近所さんからクレームが来るというか…その……なんでもないです【バタン ガチャ】」
優希は二人の取っ組み合いにドン引きしながら注意をすると部屋の扉を閉めた挙句、鍵まで閉めて閉じこもってしまった
「ま、待ってゆうちゃん!!私が悪かったから出てきてちょうだい!!」
「そ、そうだよお兄ちゃん!もう朝から騒いだり喧嘩しないからお願いだから奏音を嫌わないで!!」
扉越しから謝罪の言葉が飛んでくるが優希は聞こえないようにヘッドホンを付けて音楽を聴きながら夏休みの宿題のテキストを開いた
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