〜STORY 135 7月5日 ⑤〜
「ねぇママ?多分私の気のせいかもしれないけどお兄ちゃんの部屋から邪悪な気配が漂っている気がするんだけど?」
休日ということもあって妹の奏音はリビングのソファでファッション雑誌の眺めながらアイスキャンディーを舐めながら優希の部屋の方をじっと眺めていた
「あら〜、いい勘しているじゃない奏音ちゃん。私もさっきからゆ〜ちゃんの部屋から発情した雌猫がゆ〜ちゃんを襲っている気がするのよね〜」
台所で朝食の食器を片付けながら椿も優希の部屋の方を向く
「雌猫って……もしかしてお隣の飛香ちゃんがお兄ちゃんの部屋に侵入して押し倒しているのかしら?飛香ちゃんにそんな勇気があるとは到底思えないけどな〜?」
「違うわよ〜?さっきゆ〜ちゃんの家庭教師として葵ちゃんが来たからきっと葵ちゃんの仕業かもしれないわね〜?」
椿はそう言うと台所に設置したディスプレイを起動して優希の部屋のカメラを起動し様子を確認すると椿の表情が一瞬で硬直してしまった
「…どうかしたのママ?まさかあの真面目な葵さんがお兄ちゃんを押し倒すと思えないけど…………」
硬直した椿の様子を不思議に思い奏音は椿を硬直させたであろう原因を作ったでディスプレイを見てみるとそこには優希を押し倒し、キスをしている葵の姿が映っていた
「こ、ここここ!これはどういうことなのママ!?な、ななな何でお兄ちゃんが葵さんとき、キキ…キスしているのよ!!?」
「ふ、ふふ…私だってゆ〜ちゃんとのキスなんてゆ〜ちゃんが眠っている時くらいでしか最近はしていないのに……。ゆ〜ちゃんとのキスはゆ〜ちゃんの意思で私にしてくれるまで我慢していたのに…!!」
キスシーンを目の当たりにして奏音はディスプレイを指差しながら顔を真っ赤にして狼狽えている横で硬直したままだった椿は持っていた食器用洗剤を中身が全てこぼしてしまうほど強く握り締めて葵を恨めしそうに睨みつけていた
普段から優希への愛ある行動を全力でやっている椿だが流石に年頃の息子への配慮として遠慮している所は遠慮しているようだ
「今すぐゆ〜ちゃんの部屋へ行くわよ奏音!!ゆ〜ちゃんの唇を奪ったあの雌豚を八つ裂きにしてくれるわ!!!」
「ま、ママ…?た、確かに葵さんはお兄ちゃんの唇を奪ったかもしれないけれど流石に八つ裂きはちょっとやりすぎなんじゃ……」
「あなたは何甘えたこと言ってるの!!私のゆ〜ちゃんの純潔を…私が貰い捧げるはずだったゆ〜ちゃんの純潔を!!!奪い攫ったあの女を私の手で抹殺しないと私の気が晴れないの!!!」
見たことがない椿の怒りに奏音は恐怖を抱きつつ葵に物理的に危害を加えようと企ててる母親を静止しようとするが優希の唇を奪われたことが相当悔しいようで奏音の言葉に聞く耳持たずドスドスと足音を荒げながら二階へと上がっていく
「ま、待ってママ!!気持ちは分かるけどお兄ちゃんの前でそんな怒った顔したらお兄ちゃんに嫌われちゃうよ!?」
奏音は椿の腰にしがみつき優希の部屋へ向かおうとする椿を止め椿に手鏡を差し出して自分の顔を見させる
椿は部屋へと向かう足を動かしながら奏音の手鏡で自分の表情を見てみると椿の顔にはいくつもの青筋が生じ、相手からは殺意しか感じれない程に鋭い目付きをしており普段優希に対して向ける笑顔とは程遠い表情になっていたのだった
「(なに…これ……これが、これが今の私…だっていうの?こんな醜くて誰からも好かれないような…怒りに身を任せたような顔が……わたし?)………うそよ…」
「どう、分かった?信じられないかもしれないけどこれが今大好きなお兄ちゃんの部屋へ向かおうとしているママの表情なの!!いくら私やママに優しいお兄ちゃんでもそんなに怒った顔をしたママをお兄ちゃんはきっと見たくないしガッカリすると思うよ!!」
「あ……あぁ!!……あああああああ!!!!」
奏音の言葉に椿は自分の顔の醜さに絶望し、手で顔を覆いこんでその場でしゃがみ込んでしまった
奏音はそんな母親の背中にソッと手を添えて優しく椿の背中をさすった
奏音も本心を言えば椿同様大好きなお兄ちゃんの唇を奪った葵に怒鳴り込み、兄から未来永劫離れると誓うまで暴力に及ぼうと一瞬考えた
「(でも…そんなことお兄ちゃんは絶対に喜んだりしないわよね。それにヤンデレ暴力ヒロインなんて最後は主人公から避けられるのが宿命なのよね〜)」
奏音の目的の為には優希の前で暴力は御法度
お兄ちゃんを手に入れる為に……
だから、今は……ソッと我慢の時だ……
奏音は椿の背中をさすりながら…妖艶な笑みを浮かべた
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