008 - 拘束術
クロードが助けに来てくれて安心したのも束の間、僕は正体不明の存在に拘束され史上最高にピンチな状況となっていた……。
「突然 何をするんです? 貴方は一体
「私の言うことが分からなかったか?
私はな、"話すな"と言った。お前にそう命令したんだ。
命令に背くのは許さない、次 逆らったら……切る!」
凄まじい威圧感にただただ震えていると、突然 糸の束に目隠しをされた。
そして頬に冷たい何かが当たる……この感覚は刃物だろうか?
……マズイ、これは確実に殺される。
まさかこんなタイミングで増援が来るだなんて……。
それにしても、何でクロードは気づいてくれないのだろう?
いつもならすぐ助けに来てくれる筈なのに……。
……まさか、クロードでも気づかない程の気配遮断系能力の持ち主……!?
「さて、私はお前に新しい命令をする。
Kと戦っているアイツは何者だ?
質問への返答のみを許可する」
「け、けい? それって、今クロードと戦っているあいつのこ
「質問に答えろ……それ以外を許可した覚えはない……」
こんなの理不尽だ。そう思っていた僕を他所に、頬に当たっていた刃物が、するりと首元へ来る。
これは答え方を誤れば確実に死ぬ……今まで感じた事のない恐怖感でいっぱいだった。
「……えっと、強い魔術士だ。
それ以上、それ以下でもない」
正直に事実を述べた。当たり障りのない答えだろう……。
本当に理不尽なヤツなら"そんな事は知っている"とか言い出して更に訊問してくるだろうけど、さぁどうだ……?
「……そうか、強い魔術士か。
もう1つ質問をする、お前はライラックという地を……
その地にある湖を知っているか?」
「ライラック……?
そんな名前の地は知らないよ」
「……いいだろう、充分だ。お前はもう用済みだな」
そう言われた瞬間、敵は僕の拘束と目隠しを開放してきた。
普通なら用済みとなった瞬間、あっさりと殺すと思うのだが……どういう事だろうか?
訳もわからず辺りを見渡したが、拘束してくるような怪しい人物は見当たらない……。
そうだ、そんな事よりクロードはどうなったのだろう!?
彼の事が気になり、上空を見上げる。そこには予想だにしない光景が……。
あのクロードが僕と同じように、空中で糸のような何かに拘束されていたのだ。
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黒いマントの女と戦っていたクロードは、何処からか突然 伸びてきた大量の糸に拘束されていた。
「……まさかこの僕を捕らえるなんてね。
今は暗殺者も手を組む時代とは……恐れ入ったよ」
もがけば もがくほど糸の締め付けはキツくなっていき、次第に血も出てくる。小さな生き物に擬態し、この拘束から抜け出そうと試みた彼だが、何故か今の姿から変化出来ない。最早お手上げの状態だ。
しかし、そんなクロードの様子を見ていたマントの女は混乱していた様子だった。
「私は知らんぞ……暗殺者は手など組まん!
しかし この糸は……まさか!?」
女は咄嗟に後ろを振り向く。そこには、彼女と同じ黒いマントに身を包んだ子供が、木の上に立っていた。
「駄目じゃないですか、K。
こんなのに手間取っていては暗殺者失格ですよ」
「ボス……!?」
「ボスだって!?
それに その背の低さ……まさかドワーフ族か……?」
クロードは驚いていたが、何か心当たりがある様子だった。
「ボス、どうしてここに……!?」
「君が心配で、思わず来てしまいました。
……ひとまず、今回は逃げますよ」
「い、いいのですか……?」
「ええ。別にその場で殺す以外にも相手の戦意を失わせる方法はありますから……
こんな風に」
ボスと呼ばれる人物はクロードに近づき、針のような何かを彼の首に刺す。
「ぐっ!!? き、貴様、なにを……!?」
「ヒ・ミ・ツ、です」
クロードの様子を見て、針を刺した人物は不敵な笑みを浮かべながら告げた。
「うぐっ……勿体ぶりやがって……
でもこの感覚、まさか魔術士殺しの薬か……!?
だけど、あれはもう数百年前に全て……」
「まさか薬の存在を知ってたとは。
……まぁ、それを知っていた所で貴方はもう終わり。
せいぜい最後はあの少女に看取られて死になさい。
それでは、安らかな眠りを」
そう言うと、針を刺したボスと呼ばれる人物はクロードの拘束を解き、Kと呼ばれる者と共に何処かへと姿を消す。
空中で拘束を解かれたクロードは思うように身動きがとれず、そのまま地面へと落下していった……。
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クロードとレインを残し、あの場を後にした黒いマントの二人は、物凄いスピードで何処かへと向かっていた。
「……ボス、あの水色髪の者を始末せずよかったのですか?」
「いいのですよ、K。 あの者はいいのです……殺す必要はありません。
だって……」
質問に答えたボスと呼ばれる者は、何か思い詰めた様子であった。
が、部下にそんな事は悟られまいと直ぐに次の話題を出す。
「あんな水色髪の事よりも、早く組織に戻りましょう。
それと、貴女は暫く この辺りの仕事に就くのは控えるように」
「しょ、承知いたしました」
部下の承諾の返事を聞き、暗殺者のボスとは思えぬほどの笑みを浮かべる。
そして思いもよらない一言を突然 述べた……。
「うん、いいこ。
……あーっ! 早く帰ってケーキ食べたいなぁ♪」
ボスと呼ばれていた者は、先程の様子とは打って変わり突如 別人のような話し方へと変わった。
その姿は、見た目相応の子供のようであった。
「……戻ったらいつものを作らせていただきます」
女は特に動じた様子もなく返答をする。
「ほんとー? 久々のKのケーキ楽しみ♪」
ボスの方もそのまま無邪気な返事をし、二人は自身達の組織へと急いだ。
互いに その腹の内では、もう彼らと出会う事はない……そんな事を思いながら。




