029 - 黒いローブの者(5)
「見えた! ザクロだ!!」
獣人へと変化したイチジクさんにおぶられたまま、僕達は胞子のせいで目が不自由となったザクロを追いかけていた。
イチジクさんの物凄いスピードのおかげで遂に見つけたのだが
「ただ崖がもう目の前に!!」
「ザクロ! 止まれぇぇぇぇ!!!」
イチジクさんは大声で そう叫んだが、どうやらザクロには聴こえていないようだった。
「くっ、儂の声が届かん!
逃亡に必死なせいで我を忘れて走っているのか!?」
このままじゃ崖の下にダイブ……それだけは何としてでも阻止しなくては!
こうなったら一か八か……。
「イチジクさん、僕をあの子の所に投げてください!」
「んなっ!? 血迷ったか!?
儂は兎の獣人、草食の獣 故に腕力に自信はない!
人を投げるなんて行為、出来ぬぞ!?
もし投げる事が出来たとしても、一歩間違えればおぬしが崖に真っ逆さま……」
「いいから!! このままじゃザクロさんが!!」
「……くっ、すまんな童! 死ぬなよォォォ!」
その瞬間、僕は凄い勢いで宙を舞った、というか飛んだ。
-----------------------
「わああああああああああああああ!!!
――へぶっ!!!!」
人間砲台かの如く飛ばされた僕は、何とか崖下まで投げ飛ばされずに崖の手前で落ちる事に成功した。
ただ見事に顔からいった。これが物凄く痛い。
イチジクさん、"腕力に自信がない"って言ってたけど嘘じゃん!! 少なくとも僕よりは腕力あるよ!!
……って、こんな事を考えている場合じゃなかった、と本来の目的を思い出す。
確か、イチジクさんの全力投球のおかげで あのザクロという子よりも前方へ飛べた筈……。
そう思い崖と反対方向を向くと、こちらに向かって一直線に走ってくるザクロがいた。
「よし……」
あれくらいの体格の子なら、流石に僕の力でも受け止められる筈だ。
そう思い僕は仁王立ちで両手を広げ、受け止める態勢をして構えた。
このまま彼が突っ込んで来ても大丈夫、そう思っていたのだが……
「童、ザクロを甘く見るな!!
ザクロはあんな体格でこそあるが――
「へ!? なんですかイチジクさん!?
聞こえな――
イチジクさんにそう答えたその瞬間、僕は黒い棒のような何かに物凄い力で薙ぎ払われた。
そう、先程見た ザクロの背中に生えているあの羽のような何かに……
-----------------------
「ザクロは……
自動防禦という能力があるのじゃ……」
彼女がそう言った時は、もう既に遅かった。
完全に油断していたレインは、ザクロの背中に生えた羽のような物の自動防禦で攻撃されて吹っ飛ばされてしまったのだ。
そして、自動防禦の能力 故に我を忘れて走っているザクロは、そのまま気づかずに崖へと一直線で駆ける。
-----------------------
「う、ぐ……」
吹っ飛ばされた僕は なすすべもなく横たわっていた。
崖の外側まで吹っ飛ばされなかったのは、九死に一生といってところか……。
ただこの衝撃で、さっきやられた傷も開いてきたようだった。痛くて体が動かない……。
血が足りないからか、段々と意識も遠のいてくる。
こんな横たわっている状況じゃないのに、このままじゃ……
段々と目の前が暗くなってきたその瞬間
「ザクロォォォォォ!!!!!!」
薄れゆく意識の中、イチジクさんの大きな声が聞こえた。
その声でハッ、とした僕は目の前の光景を目の当たりにする。
そう、崖へ真っ逆さまに落ちる前であろう、子供の姿を。
何か……この光景を僕は知っている。
この光景……崖……。
何かデジャヴめいた物を見た瞬間、僕の体は自然と動き ザクロの方へと走っていた。
ザクロへ近づくと、また羽のような物が襲い掛かる。
ただ、その羽の動きは意外と単調なものなので よく見るとあっさり避ける事が出来た。
そして隙をみて、攻撃をしてきた羽へと拘束氷呪文を放つ。
「凍り付く錠前!!」
襲い掛かってきた羽を凍らせる事に成功した。
そのままザクロの進行を止めようとするが、位置的にどう考えても崖より内側で進行を止めるには間に合わない。
かといって、あんなスピードで動く者に拘束呪文を当てる事も困難だ。
こうなったら……この子が助かるのなら!!
僕は一心不乱に、走っているザクロよりも先回り出来るような形で崖へと駆け抜け、崖へ落ちる瞬間 にザクロを抱きしめる事に成功した。
最早これ以上はどうする事も出来ず、このまま崖へと落ちるしかなかったが、この体制ならザクロは助かるだろう。
もうそれだけで充分だった。この子が助かるのなら、それで……。




