027 - 黒いローブの者(3)
そろそろ日も落ちかけていた頃、あのまま僕達は この小さな洞窟の奥底で奴が来るのを待っていた。
かれこれ一時間ほどは経過しただろうか……まだか まだか とドキドキしながら待機している。
勿論、待機といっても何もせずに ただ待っている訳ではない。
洞窟の入り口から洞窟の奥までのここまで、目を凝らさないと見えない程の小さな氷を沢山まき散らしてある。
その氷は結界のような役割をしており、誰かがこの氷を踏んだり壊した瞬間、"何かが来た"と僕が認識出来る仕組みだ。
突然、入口近くのいくつかの氷が割れた。
その瞬間、クロードを連れて大きな石の裏へ回り込む。
「なに、レイン!? 突然……まさか」
「うん……来たかもしれない」
「ほんと? 探知ミスとかじゃないよね?」
「うん、この壊れ方は人間並の重さが踏みつけて壊した感じ……
の筈なんだけど……この軽さは子供?
それに足が……人間じゃない……」
「ということは、人外だっての?
でも あのローブ野郎にそんな感じは……」
遠くにある氷の壊され方で、どういった人物がどうやって壊したのかを大体の感覚で探知する事が出来るのだが、今回は何かがおかしい。
仮にあのローブの者だったとして、あの体格でこの重さは明らかに変だ。
それに壊され方が足で踏みつぶしたような感じではない。
となると、これは全く無関係の人物……? でもこんな人里離れた洞窟に、そんな人物がくるわけ……。
「と、兎に角どんどん近づいてくる」
「何が何であろうと身を守る事に専念しよう。
構えて、レイン。 援護は任せたよ」
「了解……でも」
「でも?」
「無関係の人だったら流石にマズイから
視認出来る範囲に着たら一度確認するけど、いいよね?」
「そんな悠長なコト言って……いや、分かったよ」
クロードは諦めたような表情で答えてくれた。
本当、悠長な事は言ってられない状況ではあるけれど、迷子の子供だったらマズイもの。
洞窟に入って唐突に氷呪文で凍結だなんて、トラウマにも程がある。
そんな思いは絶対にさせたくない、そう本能で思った。
魔法を撃つ構えだけする。
こちらに近づいてくる者は歩む足を止めない。
そして、そのまま視認出来る範囲に……
(くる……ここだ!)
近づいてくる者が視認できそうな範囲まで来た瞬間、ほんの少しだけ、一瞬だけ 石から顔を出し、その姿を確認出来た。
それは全身ローブの者だった。
「氷の錠よ、相手を捕らえよ……」
僕はクロードに指で合図をした後、小声で詠唱をし……
「凍り付く錠前!!」
石の裏から姿を現し、ローブの人物に向けて拘束氷呪文を唱える。
……が、当たった感覚はない。外した!
「ずるいやり方を……。
あの村も、そんな卑怯な方法で滅ぼしたのじゃな!?」
あの村?
まさか"一族の仇"と言っていたのは、その村を滅ぼしたヤツが僕と似ていて、それと間違えたって事?
そんな野蛮な人に見間違えられるなんてショック……なんて、そんなこと思ってる場合じゃない!
「だから人違いですって
「黙れい!!
貴様だけは許さぬ……童の為にも……貴様だけは――
そういうと、ローブの者は凄いスピードで目の前から姿を消した……。
そして次の瞬間、目の前に現れたと同時に、着ているオフショルダーの胸倉辺りを掴まれる。
「今度こそ……死ね」
そしてもう片方で手刀を振りかざし、僕を斬りつけようとしてくる。
しかしそれよりも前に――
「レインンンン!! いくぞおおおおお!!!!」
クロードが叫び、こちらに突撃を仕掛ける。
ここまでは作戦通り……思い切り目を瞑った。
そしてその瞬間……
「ぐ、がああああああ!? 目が!?
なんだ、なんだこれは!?
大丈夫か、カオル!?」
「うえええええ!!
痛い! 痛いよぉザクロぉ!!
とても痛いぃ!!」
ローブの者は突然 叫び、暴れ出した。
キノコの胞子作戦、無事成功だ。
僕が奴らの気を引き続け、隙を見てクロードが奴らに急接近し"勢いよく振り回すと胞子をばら撒くキノコ"を思い切り振るという作戦だ。
原始的な作戦だが相手もこんな大胆な事まではしないと考えていそうだったのだが無事うまくいって一安心、といった所である。
けど、一つだけ気になった事が……
何故かローブから女性の声と少女の声のような二つの声が聞こえるのだけれど、これは一体……?
困惑する僕達を他所に、のたうち回るローブの者。
暴れる反動で次第にローブがはだけ、その正体を現す……。
が……これは……
「う、うぅ……見た……な……拙者達の姿を……」
「……無念なり……」
オレンジ髪のショート髪の子供……軽装な変わった衣装を身に纏ったその背中には何か黒くて羽……というより、蜘蛛の足のような物が左右に二本生えている。
そして少年の頭の上には、黒いウサギ……?
あまりの予想外過ぎる正体に、思わず目が点になった……。




